第13話


「あいつ、あろうことか私に向かって、演技派で頭角を現したんじゃなくて、顔で売れた運だけの女って言いやがったのよ。考えられない。確かに私は美人だしスタイルもいいけど、容姿端麗が飽和してる芸能界で突出してるというほどでもないもん。それに、そんなこと言いだしたら女優は総じてモデル出身になっちゃうじゃない」




余憤なのか怒りがこみ上げてきたのか、みなみのこめかみに青筋が出現した。


「それに私が受けるはずだった仕事は全部マリアにいってるじゃない。あの子の実力で務まるわけないじゃない。他にも腕をつけてきた子がいるんだから分散しなさいよ」



そこで、あっと声を発し、思い出したと目を見開いた。


「そういえばロリ顔がタイプだって言ってたわね、あのエロオヤジ。もしかしてあの子マクラ営業でもしたんじゃないかしら」


ゴシップ好きの主婦みたいにみなみは口元を手で覆った。


「だとしたら、あの子相当な根性してるわね、あんな油ぎった狸親父と一晩明かすなんて」


「それは流石に憶測の域を超えてると思うけど」


今まで静かに頷き、話に耳を傾けていた詩織だったが、下世話な話題だった為か、流石に口を挟んだ。


「そんなことない。今思えばあの子の仕事の舞い込み方は異常だった。

テレビ局や広告代理店のお偉いさんの筆を巧みに下ろしてるのよ。それも相当数」



さっきまでの落ち込みは何処へやら、みなみのゴシップ魂に火が灯した。


「そんな言い方良くないわよ。彼女の日々の努力で掴んだ結果よ」


たしなめるようにフォローしている詩織だが、彼女の全貌を把握しているわけではない。


「ううん。これで合点がいくことが多いわ。目的の為には身体を売る女。そう考えると腑に落ちるのよ。まったく。これだから芸能界は腐りきった楽園だなんて比喩されるのよ」


「まあ私もマリアちゃんの事よく知ってるわけじゃないけど、見る限りではそんな、したたかな女には見えなかったけどなあ。元アイドルっていう先入観があるからか、そういうことには疎いとまで思ってるんだけど」


「甘いわよ」みなみはピシャリと言った。


「そんな色眼鏡掛けてたんじゃ真実は、みえてこないわ」


どこの探偵だよ。内心で突っ込みむ。


「それにアイドルなんて恋愛禁止だとか清純派ぶってるけど、ちゃんと裏ではやる事やってんだから。じゃないとあんな男心をくすぐるようなあざとさは出せないわよ」



誇らしげにみなみは両腕を組んだ。

裏事情を語るその様は、さながら週間記者を彷彿とさせる。


関心しつつ話を聞いた詩織はしばし沈黙し、「フッ」と吹き出したかと思うと、表情に愉悦な笑みが貼り付けられていた。


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