第12話
コットン素材の部屋着を身に纏い、風呂場からから出ると、甘い匂いが鼻腔を刺激した。
食欲を増加させるような香りに、思わずお腹に手を当てる。
腹囲のへこみと、胃の空虚具合から空腹である事に気づいた。
そういえばここ二日何も食べてなかったや。
匂いに釣られる蜜蜂のようにダイニングへ向かった。
「美味しそうね。詩織の手料理なんて久しぶりだわ」
テーブル上に目線をむける。肉じゃがにポトフ。
それに申し訳程度のサラダが並べられている。
アンバランスで彩りもまるで気にしてない配膳だったが、どれもみなみの好物だ。
「あんたが前に食べた時、美味しそうな顔で絶賛してくれたからね。いつもより気合を入れて腕を振るったわ」
詩織は炊きたてのご飯を並べながら答えた。
「さ、食べましょ。お腹空いてるんでしょ」
恥ずかしそうに頬を赤らめ、ゆっくり頷いたみなみに、詩織は微笑みを浮かべて食についた。
熱々のジャガイモを口に入れて咀嚼したとき、みなみは泣き出しそうになった。
熱さからくる悶えからではなく、感極まっての涙だ。
涙腺から溢れ出るのを必死に堪え蓋をして黙々と食べ続けた。
会話をすることなく、お腹を満たすだけの食事だと言わんばかりに。
大きく口を空けて最後の一口を頬張った。
達成感と一緒に噛み締めているみなみに対して詩織は「相当参ってたみたいね」
見透かしたように呟いた。
両肘を机につき、指を組んで親しみのこもった目で続ける。
「こんなボロボロになってまで悩むんだったら、相談しなさいよ。心配してたんだからね」
口調に棘があるが、ねもころから来ているというのは表情から識別できた。
「だってーー」詩織の羽衣を着た言葉に留めていた涙が、ダムが決壊したように溢れ出た。
「あの色欲オヤジに許しをこうなんて考えたら、私のプライドが拒絶反応起こしたんだもん」
嗚咽を混じらせながら心につっかかっていた物が淀みなく吐き出されていく。
詩織は持っていたハンカチで彼女の涙を拭い、話を促した。
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