第7話

予想もしない言葉に、目を見開いて困惑した。


「何のことでしょうか?」


「とぼけるんじゃない。全部わかってるんだぞ」


言下に怒声を彼女に浴びせた。頬も見る見るうちに朱がさしていく。

脳内の血液が沸騰しているようだ。

みなみは目をパチクリさせて怪訝そうな表情をうかべた。


今の今まで、他人事のように楽観的考えてたのに、まさか自分の事だったとは。

意想外の出来事に面食らいつつ、何が原因なのか頭のなかを模索した。


だが適当な答えが見つからない。現場で自分本位の行動をして反感を買われる事はあるが、その都度詩織が場を抑えてくれている。

なので社長にクレームが入ることはまずない。


冷静に考えると改めて詩織に感謝の念を覚えた。


「すいません。社長がなんで立腹しているのか分かりかねます」


身に覚えがないので、動向を仰いだ。

すると社長は舌打ちをして、ただでさえ細い目を更に引き伸ばし、鋭い目線を投げてきた。


「お前ロッドアミューズの連中と会食したらしいな」


「え・・・・・・」


唖然とし頬がヒクついた。動揺して喉の奥がつっかえたみたいに声が震えた。


「なんでそれを?」


あの会食は誰にも言ってないし、言える内容でもない。

向こうも同じ前提だと思い、記憶から除外していたのだが。



「ある筋からのタレコミで知ったんだ。で、行ったのは認めるんだな」

「行きましたけど、特にやましい事はしてません。」


「嘘をつけ」バシンと西原の拳が机上に叩きつけられた。

「お前移籍するつもりだろう」問い詰める口調で凄んできた。

みなみは虚を突かれたように目を見開き、表情からは狼狽の雰囲気が滲み出てきた。


「ちょっと、待って下さい。話が飛躍しすぎています」


「そんな事はない。俺はこの耳で聞いたんだ」

相楽みなみの話を遮り拳銃を突きつけるかの如く耳を2回タップした

「お前が俺を見限って、大手事務所に鞍替えするってなあ。さぞ小せえ事務所で働いてる人間を哀れんで、蔑んでたんだろうなあ」

皮肉がふんだんに盛り込まれた棘のある言動に、みなみの胸中は呆れを通り越して憤懣が溜まったいく。



「そんな事思ってない」声を高らかに上げた。

頬が強張っていくのが感じられた。落ち着かせるように短く深呼吸した。


「私の話を聞いて下さい。確かにロッドの方々と会食はしましたし、勧誘目的なのだろうと知りつつあの場へ向かいました。案の定移籍しないかと提案されましたし、好条件で心揺さぶられたのも事実です。ですが・・・」ここで言葉をとめ、社長を真剣な眼差しで見据えた。



「きっぱりとお断りさせていただきました」力強い口調で言い切る。

眼光からは誠実さが見受けられた。だが「信用できんな」殺風景な顔でに抗言された。


「お前は他人を蹴落としてでも、上に登りつめたい、初一念を貫く人間だ。

大方ウチの契約期間がまだ半年近く残ってるから、お茶を濁してやり過ごそうとしているんだろう。期間中に辞めたら高額な違約金が発生するからなぁ。そして満期がきたらそのままトンズラだ。温情も慈悲もない冷淡な女め」


語気を荒げてまくし立てた。

西原の目からは憎悪が隠秘する事なく溢れ出ていた。

だがその奥から哀愁が垣間見えた。裏切られたという気持ちもあるのだろう。

それに気づかず、見当違いも甚だしいなと、みなみは呆気に取られた。


こんな些事で切れられてたまるかと、不快感も募った。

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