第6話

7階のコスモキャリーの事務所に着いた。

中に足を踏み入れると、傾注にパソコンと向き合ってるものや、電話対応に追われるもの、せかせかとオフィス内を往来してる事務員で溢れかえったいた。

忙しいそうだなとぼんやり思いながら、闊歩で最短距離を進んでいく。

それにしても稼ぎ頭の私が来ているのに挨拶も無しかよ。


電話対応しながらこちらを一瞥して、申し訳程度に会釈はするがそれまでだ。

あんたらの給料の出所は私の働きあってこそだぞ。

自分たちの営業努力と思い違いしてるんじゃないのか?みなみは内心で毒を吐き、社長にあったら文句の一つでも言おうと思った。

ここの社員は所属タレントに、ろくに挨拶もできないし敬意も払えないのかと。



社長室の厳重なドアの前にたち、気持ちを落ち着かせるために息を大きく吸った。

肩が上下して吐いた息には、苛立ちと緊張感が混じっていた。

よし。平常心に戻った。ドアをノックして、失礼しますと入室する。

落ち着いたみなみの心はすぐさま揺さぶられる事となる。


部屋へ入ると、壁際に立ち窓の外へ目線を置く社長の姿が目に入った。

みなみからの位置だと脂ぎった横顔と、背の低い割には成人男性の何倍はあろうかと思われる太腹が向けられている。

社長の西原は、みなみの存在に気づいたのか巨体をくるりと反転させ、無言で部屋の中央へ歩いていく。

その動きは冬眠明けのクマが、腹ごしらえの為縄張りを巡回するさまによく似ていた。

そしてこちらを座れと言わんばかりに、応接用のソファーを顎で促す。


いつもならビジネスマン特有の作り笑いで向かい入れてくれるのだが、剣呑な雰囲気を漂わしている。

腹の虫が治らない事でもあったのかしら?だとしたら、めんどくさいなと彼女は思った。

憂鬱な気持ちになりながらも、テーブルを挟んだ社長の対面の椅子に腰を下ろした。

両腕を組んで体重を背もたれに預けた西原は、眉根を寄せてこちらを睨みつけている。


呼び出したんだから何か言えよと、喉元まで出た言葉をぐっと堪えて、社長の切れ長の細い瞳をじっと見つめた。

重々しい空気の中、闘牛士のような鼻息を噴き出し、閉じていた口を開いた。



「何か言うことがあるんじゃないか?」


「はっ?」

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