第8話
「なんですかその言い方。勝手な妄想を膨らませて嫌な女認定してますが、事実無根です。
もっと所属タレントを信用したらどうですか?」両手をめいいっぱい握りしめてみなみは言った。
「お前の口から信用だと」西原は分厚い唇を大きく開けて笑った。カバの餌付けを連想させる。
「お前が俺や社員の不満を愚痴ってるのは知ってんだよ。随分蔑んで冷ややかな目で見てきてるってなあ」
「それは・・」
彼女は口ごもった。思い当たるふしが多々あった。
常々思っていたし声に混じらせてもいた。胸襟を鷲掴みされた気分だ。
それはあんたらが、なんて反論するのは無粋だと思った。
返答に窮していると、西原が日頃の鬱憤を晴らすみたく畳みかけてきた。
「だいたいお前はスタンドプレーが多すぎるんだ。我が物顔で現場に入り浸りやがって、お前1人の力で会社を大きくしたという節があるみてえだがお門違いだ」
血管が沸騰したのかと思わせるぐらいに社長の顔に朱がさしていた。
声音が大きくなり部屋の外にも怒声が鳴り響いていく。社員が様子を見にきたか足音が近づいてきた。
それに構わず社長は続けた。
「うちにはマリアだっている。それに社員一丸となって育てたタレントも数多くいる。
決してお前1人の力で上がった訳じゃねえ。思いあがんな」
確かにマリアは実力も付いてきたし、社長のお気に入りだ。
だが他のタレントもそうだが人材投資できたのは、私の活躍があってこそだろ。
思い上がりはどっちだ。手柄を自分の物にしやがって。みなみの頬はみるみる紅潮していった。
「そんな事思ってません。勝手な解釈しないで下さい」
制するように言ったが西原は止まらない。
「だいたい演技派女優ぶってグラビアの仕事を断わってるみてえだが、俺から言わせりゃお前の演技はまだまだ二流だ。だが顔は性格に似合わず良いもの持ってるんだ。黙ってでもできる、モデルや水着仕事中心にシフトチェンジした方がいいんじゃねーのか?」
奥歯を噛み締め、柳眉を逆立てた。こんな屈辱は初めてだ。
自分の屋台骨で演技を全否定され、お前は外見だけしか価値はないと罵られた。
みなみはゆっくりと立ち上がり、西原に近づいていった。
それに気づいた社長も立ち上がり、自分の背丈が変わらない女を舐めるような目線を送る。
「なんだ、なんだ、俺のそばまできて。身体を使って許して貰おうとしてるのか?生憎俺は美人な顔より、幼くて可愛い顔の方が興奮するんだ」
西原が聞いてもない嗜好を言った刹那、左頬に平手打ちが炸裂した。
静寂した空気に乾いた殴打の音が響き渡った。
西原は崩れ落ちるように、その場に倒れる。
その光景がスローモションで大脳に伝達されていく。
脳内で処理された答えを、みなみが口に出したのと社長が横たわったのは同時だった。
やってしまった。悔恨がみなみの身体から生まれ始めていた。
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