ローリンボーイ(ガール)
多分、今思い返してみるとあいつは元々頭がおかしかったんだと思う。
とんでもない才能を持ちながら、人を助ける努力を辞めず。
心の中で血反吐を吐きながらまだやれるなんて言って。
石を投げられても、助けたヤツに恐怖されても。
何回も何回も折れて、しかし息を辞めることを赦されず。
「これは、昔からの夢だから。」
「あの綺麗な青の」
なんて言うけど、限度があると思う。
自分の力を危惧した敵に、まず子供の時に両親を殺され。
強大な力で持って仇を目の前で取ったけれど。
それは「両親を助けることが出来た。」ということの証明であって、救いではなくて。
親戚には怖がられたらい回し。
施設に預けられてからは「親を殺された」というのが「親殺し」にかたちを変えて、いじめというのも生易しい経験をして。
でも力が強すぎて、やり返すと殺してしまうからやり返せなくて。
もう聞いてられなくてその時はその場でだきしめて話させなかったけれど、そんな奴があそこまで自分を追い込んで、好きでもない人類に最後まで味方してたのはすごいと思うのと同時に、少し、怖さがある。
昔からの夢。
その昔に何があったのかは、聞かなかったし話そうともしないから最後まで聞けずじまいだったけど。
それは呪いではないだろうか。
呪い。
自分を縛るもの。
それがないと、人間でいられないような雰囲気を醸し出しながらそんな事を言うものだから、踏み込むことが出来ずに終わってしまった。
何故かあいつは、学園でもトップにいたのに俺に付きまとってきていた。
あいつがくっついてくるから、俺も邪険にはしなかったし、あいつが近くにいたから、ちゃんとしようと思えた。
努力ができる訳では無いのに目標は高くて、やれば出来るなんて信じきっていた自分に嫌気がさす。
あいつとの接点なんて、最初の闘技場での決闘くらいだ。
その時も醜く「負けてない」「絶対に追いつく」だなんて言って最初の方は本気だったけど、だんだんあほらしくなってやめてしまった。
これでも最初は学年で2番の成績だったのだ。
まあ途中からあいつとサボるようになったけど。
惨めにしかならなかったから。
それでもあいつは1番なんだよなぁ。
本当に憧れて、本当に妬ましい。
と、止まらなくなってしまう考えを毎回泊めてくれるのが、忘れられないキラキラした記憶。
おれが騎士を目指すきっかけになった記憶。
いじめられてた小さい子、ほとんど年齢も同じであろう子を助けた記憶。
とんでもない気持ちよさと肯定感があって、もっとやりたくなったという、騎士の「皆の為」という命題とはかけはなれた醜い志望動機。
二度目の人生、それを確実にした「いじめられっ子を助けたエピソード」を前より上手く辿りながら考えている俺の名前はドリンクウォーター。
だが、確証はなかった。
あの時確かに庇って死んだ。
庇ったというか、無駄死にだったけど。
ビームは俺を貫通して、ランスは普通にそれを弾いてたし。
あーヤダヤダ。
て、次に目を覚ましたら赤ん坊。
目の前にいる大人2人は見覚えがあって聞こえてきた声はドリンクウォーター。
確定だろう。
何故かワケあって俺は赤ん坊の時まで逆戻り。
でも過ごしていると違うところもあった。
親の名前が少し違うとか。
妹が弟になってるとか。
育ててる作物が違うとか。
まあそんなところで確証が持てなかった。
記憶も曖昧だしな。
だがこれは違う。
俺の原点とも言える出来事。
最低な自分勝手な醜い男が生まれた原因。
これで確証を得た。
じゃあ次は
もっと上手く生きてやろう。と目の前でぽかんとしてる子を差し置いて考えているのであった。
なんかこの子、見たことあるような。
まあ気のせいか!親も来たし、一緒に騎士さんのとこに行って保護してもらってから帰った。
胸に決意を固めながら。
「次はもっと楽しく生きてやる。」
自分だけでなく、他人も幸せにできるように。
全ての人に、希望と勇気を与えて、自分はそれ以上に気持ちよくなるために。
と、
記憶がなきゃ何もできやしない大馬鹿野郎が決意という名をつけていいのかすら疑問な他人依存な感情を胸に、年相応な顔をしていた。
本当の感情から目を背けながら。
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