第29話 中間試験後の小休止

 俺達は万全の状態で中間試験に臨んだ。

 試験問題は浦野の予想通り、ペアが答えたアンケートから出題された。

 暗記科目として見ればこれほど単純な問題もないだろう。

 試験が終われば、全員が手応えを感じている様子だった。

 チラッと飯盛達の方を見てみると、安堵の表情を浮かべていたため、俺への反骨精神を糧に必死に勉強してくれたようだ。

 結果が出るまで安心はできないが、ひとまず俺の肩の荷は下りたと言ってもいいだろう。


「すげぇな主税! マジで全部アンケートから出題されてんじゃん!」

「さすがリーダーだね」


 試験が終わると、興奮したように蒲生と小山内が俺の元へと駆け寄ってきた。


「今回はわかりやすかっただけだ。次回からこうはいかないだろうな」

「うげぇ、マジかよ……」

「まだまだ退学の危機は続くんだね」

「たぶん、卒業までな」


 これから先、どんな課題や試験が待ち受けているかはわからない。

 それでもペアと力を合わせて乗り越えるしかないのだ。

 そうやって俺達が成長していくことをこの学園は望んでいる。


「俺、今回みたいに裏技みたいな感じの方法がないとやっていく自信ないって……」

「そうでもないだろ」


 俺は蒲生の後ろにいた大阿久に視線を送る。

 大阿久は目を泳がせると、頬を人差し指で掻きながら蒲生に言葉をかけた。


「あのさ……蒲生がおすすめしてくれた曲めっちゃ出題されて、すっごい楽だった。ただの暗記だったら覚えるの難しかったけど、あんたの好きなもの教えてもらっておいて良かったよ」

「へ?」

「だから、これからもいろいろあんたの好きなもの教えてよ」


 俺は浦野に踊らされて全員の成長の機会を奪ってしまった。

 そんな中でも、しっかりと相互理解という課題に向き合った者もいる。

 その事実に救われた気持ちになった。


「ところで、蒲生。あんたが教えてくれた曲気になって調べたんだけどさ」


 つい今しがたまでいい雰囲気だったというのに、大阿久の良い笑顔を浮かべて蒲生に詰め寄ったことで流れが変わった。

 気がつけば、いつの間にか小山内は少し離れた場所で里口と楽しそうに会話をしていた。あいつ、いち早く危機を察知して逃げやがったな……!


「さて、俺は部屋でスノボ動画でも見るかなー」

「俺も帰って寝るかな。勉強のし過ぎで寝不足だなー」

「待ちな」


 逃げ出そうとした俺と蒲生の肩が力強く掴まれる。


「ねえ、私の気のせいかな? 蒲生から聞いた曲、全部エロいゲームの主題歌だったんだけど。友田も作曲者が好きでーとかしか言ってなかったよねぇ?」


 メキメキと肩から嫌な音が鳴る。

 このままでは殺られる……!


「待て、俺は嘘は言ってないぞ。実際、作曲者の人は今もアニソンとかで活躍してるんだ」

「そもそも俺はシナリオゲーしかやらない! 良いシナリオだと思ったゲームがたまたまエロゲーだっただけだ!」

「遺言はそれだけ?」


 どうやら説得は不可能だったようだ。


「まあ、落ち着けって。実際、良い曲だって思ったんだろ? だったら何も問題ないだろ」

「それは、そうだけど……」


 俺の言葉に大阿久が怯み、両手を離した。


「逃げるぞ蒲生!」

「おう!」


 その隙を見逃さずに俺と蒲生は脱兎の如くその場から逃げ出した。


「あっ、ちょっとぉ!?」


 それから地獄の鬼ごっこが始まった。

 俺は無事に逃げ切り、蒲生は途中で捕まってしまったようだ。南無。

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