第28話 拳での語り合い(一方的)
中間試験が目前まで迫ってきた。
もう時間は残されていない。
考えた作戦もうまくいくかはわからない。
それでも風鈴と一緒なら大丈夫、何とかなる。そんな気がしていた。
根拠のない自信は俺の十八番なのだ。
「よお、飯盛。もう帰るのか。部活はどうしたんだ?」
「……てめぇには関係ねぇだろ」
俺は教室を逃げるように出ていった飯盛に声をかける。
飯盛は恨みがましくこちらを睨み付けると、足早に立ち去ろうとする。
それに合わせて俺も足を速める。
「インターハイ出るんじゃなかったのか?」
「っせぇ! 一年で出られるわけねぇだろ!」
「元野木は真面目にマネージャーやってんぞ。ペアとして恥ずかしくないのか?」
「付いてくんな!」
とうとう走り出した飯盛だったが、真面目に部活に取り組んでいない人間に追いつくのは難しいことではない。
こう見えても足には自信があるのだ。
飯盛の前に回り込むと、息を切らした飯盛が再びこちらを睨みつけてきた。
「何なんだよ!」
「もうすぐ退学になるお前に今までの仕返しをしておこうと思ってな」
俺は鼻につく態度を意識して、嘲るように笑った。
「ねえ、今どんな気持ち? 舐め腐ってたチー牛に良いようにやられてカースト底辺に落ちて、その上ほぼ退学は決定。ねえ、今どんな気持ち!?」
「うるせぇ! 俺は退学になんてならねぇよ!」
「なるさ。だってお前、元野木のこと何もわかってないじゃん。次の中間試験の科目知ってるか? 相互理解だぞ」
「っ!」
俺の言葉に飯盛が息を呑む。
飯盛も本当はわかっているはずだ。今の状態で試験を受けたところでまともに点数を採れるわけがない、と。
「俺が言った方法を使えば相手を理解していなくても乗り切れるだろうな。コテンパンにやられた相手の手を借りなくちゃお前は中間試験を乗り切れない……ああ、そうか。他の科目でも赤点あったらアウトだったな。お前バカそうだし、どの道落ちてたか」
「友田、てめぇ……!」
「元野木もかわいそうだな。こんなのがペアなんて絶望しかないだろうに」
怒りで肩を震わせる飯盛を煽り続ける。
見下していた相手に上からモノを言われ続けるなんて屈辱でしかないだろう。俺もその気持ちはよくわかる。
「悔しいだろ? だが、俺へのリベンジは永遠に敵わない。お前は退学になる。俺と風鈴はお互いの過去や趣味嗜好を把握してる。俺が教室で言った裏技なんて使わなくてもトップは余裕だ」
このままだと飯盛のペアは退学になることを強調して告げると、飯盛は歯を食いしばって俯いた。
「ああ、そうだ。冥土の土産に一ついいことを教えてやるよ」
俺は含みを持たせた言い方をすると、精一杯楽しげに笑った。
「上辺のペアの風見っていただろ。あいつには前から上辺のことを相談されててな。上辺の改善すべき点に気づきかけてたから、そのままでいいって言ってやったんだ」
「まさか、てめぇ……!?」
「風見は俺のことを信頼しきってたからな。ちょろかったよ」
怒りで赤くなっていた飯盛の表情が一気に青褪める。
「他のクラスメイト達も俺を信頼してる。俺の言われた通りにやれば何も考えずにこの学園で生き残れる。みんな俺の良いなりだ。そうそう元野木も俺のことリーダーって呼んでくれたっけか」
嘘をつくときは真実を混ぜてやれば信憑性が増す。
風見に相談を受けたのも本当だし、元野木が俺のことをリーダーと呼んでくれたのも本当だ。
「まったくさぁ、お前らちょろすぎだろ」
「このクズ野郎が!」
飯盛は激高して俺に殴りかかってくる。
俺はそれを避けずに、しっかりと顔面で受け止めた。想像以上に痛いなこれ……。
「はっ、上辺と一緒だな。負け犬ほど暴力に頼るんだよ」
「友田ァ!」
上辺は俺に馬乗りになってさらに殴りかかってこようとする。
いや、ちょっと待って。これ以上殴られるのは勘弁してほしいんだけど!
何とか余裕そうな表情を浮かべながらも心の中で悲鳴を上げていると、ようやく助けがやってくる。
「何してるの!?」
やってきたのは風鈴に連れられた元野木だった。後ろには真狩や加賀美もいる。
「飯盛、やめなよ!」
「離せ亜美! このクズ野郎をぶっ飛ばさないと気が済まないんだよ!」
「クズはあんたでしょ!」
元野木は飯盛の頬を引っ叩くと、強引に俺から引き剥がした。
「友田は私達のことを許してくれた。それにクラスの誰も退学にさせないように必死に動いてる。八つ当たりなんて最低だよ!」
「違う、違うんだ亜美!」
飯盛は苦しげに元野木に訴えかける。
飯盛だけが俺の本性を知っていて、みんな騙されているように見えるこの状況こそが俺の狙いだった。
「何も違わないでしょ! ほら、いくよ! 本っ当にごめんね、リーダー」
「いいよ。飯盛もいろいろあって苛立ってたんだろ。これで気が済んだならそれでいいよ」
元野木は風鈴から説明を受けてこの作戦に乗ってくれた。
あとは必死に俺の本性を訴える飯盛を信じてやれば、ひとまずの信頼関係は構築される。
本当のことは伝えなくて良い。
俺という悪に立ち向かう正義感が原動力になるのならば、飯盛は真面目に試験に取り組むだろう。
「その、大丈夫か?」
「保健室行った方がいいんじゃない?」
「心配してくれてありがとな。真狩、加賀美」
逆に真狩と加賀美には何も伝えていない。
彼らはこちら側へと引きずり込みたかったからだ。
「俺のことより、二人も中間試験対策はしておいた方がいいぞ」
「そうだな、そうするよ」
「うん、ありがとね。友田」
人の振り見て我が振り直せ。
傍から見れば飯盛は俺に負けた腹いせに暴れているようにしか見えなかっただろう。
その姿を見れば自分達が間違っていると思い、素直に中間試験対策に臨んでくれると思ったのだ。
何とか作戦通りにいったことに安堵のため息をつく。
制服についた埃を払って立ち上がると、俺の目の前にはリスのように頬を膨らませた風鈴が仁王立ちしていた。
「か、風鈴?」
「無茶しすぎ!」
顔をぐっと近づけながら風鈴は詰め寄ってくる。
「殴られるなんて聞いてないよ!」
「いや、ほら! 流れ的にそうなることも想定はしてるって言ったじゃん」
「たぶん大丈夫って言ったのは主税じゃん!」
予め作戦を共有していた風鈴には、もしかしたら飯盛から殴られるかもしれないとは伝えていた。たぶんとかかなり保険をかけていたが、そんな言い訳は風鈴には通用しなかった。
「その、ごめん……心配かけた」
「まったく、もう……」
腕を組んで拗ねたように風鈴はそっぽを向いた。
そんなやり取りをしていると、廊下の角から冠城先生が現れた。
「いやー、青春ですねー」
「冠城先生、さっきのはちょっとしたじゃれ合いです。殴られた俺が気にしてないんだからいいですよね?」
「ま、拳で語り合うのも青春ですからねー。恋愛実習担当教師の権限で見逃してあげますよー」
「語り合うっていうか、一方的に殴られただけな気がしますけど……ありがとうございます」
これで飯盛達の件は何とかなるはずだ。
即興で考えた作戦にしては上々だろう。
あとは、自分達も中間試験で落ちないようにしっかり勉強するだけだ。
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