第20話 対決の顛末
飯盛達との勝負から教室の空気が変わった。
教室の空気というよりも俺の周辺の空気が変わったという方が正しいだろう。
「友田! バク宙見せてよ!」
「マジで何度見てもあの動画サイコーにカッコイイんだけど!」
実はこっそり乾が撮っていたグラゼロデートのときの勝負の動画。それがクラス中に拡散されたのだ。
その結果、我が物顔で教室にいた飯盛達はクラスメイト達から白い目で見られ、肩身が狭そうにしていた。
それとは対照的に俺の評価は鰻登りだった。
バク宙ができるというのは、それだけでステータスになるらしい。
風鈴が狙い撃ちされ、不利な状況から俺が一人で勝負をひっくり返したのも評価に繋がったようだ。
蒲生と小山内しかいなかった俺のグループにはいつの間にか二人のペアである大阿久と里口も集まるようになった。
そこには風鈴と乾の姿もある。
男女混合の話題性のあるグループ。気がつけば俺のグループは、浦野が計画していた理想のカーストグループに変化していた。
「いや、教室内でやるのは危ないって」
「ちぇー、ケチー」
「大阿久、あんま友田を困らせんなって」
大阿久は所謂女王様タイプで我儘なところもあるが、ペアの蒲生が抑えに入ることでバランスが取れている。
「でもさ、でもさ、マジで痺れるよね! ペアのふーりんがやられてキレて本気出して、イキってる奴を叩き潰すってサイコーじゃん! コンタも見習いなよー」
「あはは……僕はそんな運動神経良くないからなぁ」
里口は小山内に対して当たりが強いところもあるが、本当に嫌っているわけではないだろう。以前と違って声音や態度に嫌悪感がない。
「それにしても、飯盛達は静かなもんだよねー」
「あんな醜態晒して今まで通りは無理でしょ」
運動部に所属しているというだけでマウントを取っていたのが仇になったらしい。
面倒臭い体育会系のノリを無理に押し付けていることで、クラスメイト達からの好感度もそこまで高くはなかった。
成果もなく肩書だけでイキっていたしっぺ返しというやつだろう。
明日は我が身だ。俺も気をつけなくては。
気を引き締めるのと同時、これで良かったのかとも思う。
風鈴がやられて黙っているつもりはなかったため、あの場で飯盛を負かしたことに後悔はない。
だが、無駄にプライドだけは高い飯盛達が俺の話を聞いてくれるとは思えない。
むしろ以前より反抗的になり、どんなアドバイスをしても聞く耳を持ってはくれないだろう。
そんな状況で今後も退学がかかった試験や課題に臨まなくてはいけないのだ。
飯盛達はムカつくが、退学はしてほしくない。
助けたい相手がこちらに敵意剥き出しという状況に頭が痛くなってくる。
深いため息をつく俺の内心など露知らず、蒲生はいまだにバク宙の話題を擦ってきた。
「てか、友田。バク宙ってスノボやってりゃできるようになんの?」
「そんなわけないだろ。俺の場合は――」
その先の言葉を咄嗟に噛み殺す。
家庭環境が特殊だったからバク宙くらい普通にできるようになった。
そのことをみんなに知られるのが嫌で俺は言葉を濁す。
「……いや、何でもない」
「「いや、めっちゃ気になるんだけど!?」」
「あはは、ハモった! マーサとカマっちも何だかんだ仲良くやってんじゃん」
蒲生と大阿久の声がピッタリ揃ったことで、風鈴は笑いながら話題を変えようとしてくれた。本当にこういうさりげないフォローが風鈴はうまい。
「あれ、みんな知らないの?」
「あっ、くるみん! 昨日のRESTEP(サイドステップ)の新曲聞いた!? めっちゃ神曲だったよ!」
そして、乾が何かまた余計なことを言おうとしたのを察知し、風鈴は再び話題を強引に変える。
俺の生い立ちのことは話していないのに、黙って俺を庇ってくれる。
その事実に内心感謝しながらも、風鈴にだけにはいつか自分から全てを話そうと誓った。
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