第44話 ねずみの世界で入院

飛田優志

悠木

雪白

玉城

塚腰

ハールヤ

ダスティ

白モフ

黒モフ

ねずみの受付嬢


 

N飛田とびた、悠木と雪白、そして玉城と塚腰は、ワープゲートをくぐり、ねずみの世界の大都市——“Chutopiaチュートピア2120にいいちにいぜろ”へとワープしてきた。

 ワープゲートから出ると、飛田たちは自動的に、ねずみサイズとなっていた。

 周囲には飛田たちとほぼ同じ背丈の、服を着て言葉を話すねずみたちがいる。

 そして、同サイズで二足歩行の、服を着て言葉を話す猫たちも。


悠木「すごいすごーい! ねずみさんと猫さんが仲良く暮らす街だー!!」


雪白「凄い……ねずみの世界って聞いたけど、猫もいるのね……」


 悠木ははしゃぎ回り、雪白は口をポカンと開けて周りの風景を見渡している。

 この街に通い慣れている飛田は、落ち着き払って2人に説明する。


飛田「この街には元々ねずみさんだけが住んでたんですが、少し前に、地底世界に住む猫さんたちが移住してきたみたいなんです。私たちも猫さんたちも、この世界に来るとみんなねずみサイズになっちゃうんですよね。不思議ですね。さて皆さん、念のためマスクは付けていきましょう。この世界でも新型ウイルスが流行っているかも知れませんから」


悠木「へぇー! あたし、ねずみさんとも猫さんともお話してみたーい! ハロー! ネズミサーン! ナイストゥミーチュー! チューチュー!!」


雪白「こら、愛音あいね、待ちなさい! ちゃんとマスクつけて!」


 暴走する悠木を、雪白は追って行ってしまった。

 一方、玉城と塚腰も、最初は眼前に広がる別世界に驚いた様子だった。だが玉城は、夏休みに入ったばかりの小学生の如くはしゃぎ始める。


玉城「この世界にも美味しいものぉ、あるかなぁ? あぁ! いい匂いがするよぉ!」


塚腰「あなた、また食べることばかり考えて……。あ、こら! 待ちなさーい! そもそも人間が食べて大丈夫な物かどうか分からないでしょ!」


 甘い匂いがする店の方へと玉城は走って行き、塚腰が慌てて追いかけて行く。


飛田「ち……ちょっと、皆さん! はぐれないでくださいよ……! まずはねずみのお医者さんに行くという話ですから……!」


 ねずみの世界は、今は春だ。近くの公園には、飛田たちよりも背丈が高いたくさんの野草が、色とりどりの花を咲かせている。少し暑いぐらいの陽射しが降り注ぐ。

 飛田はじわりと滲む汗を拭いつつ、4人の後を追った。


 ◯●◯●


 何者かが、飛田たちの後を追いかけている——。


白モフ「ワープゲート潜入成功だみゅ! 急ぐみゅー! 見失っちゃうみゅー!」


黒モフ「はぁ、はぁ……分かってるぴの……! みんな足速いぴの……! でも勇者ミオンに見つかるわけにはいかないぴの……!」


 ピョンピョンと飛び跳ねながら飛田たちを追いかけているのは——小さな白いモフモフと黒いモフモフ。

 不思議そうに見てくる、ねずみや猫たちの視線を掻い潜りながら、ひたすらに追いかける。


 モフモフたちは飛田たちを追いかけているのだが、飛田勇者ミオンには見つかってはいけない——。

 つまり、モフモフたちの目的は飛田ではなく、別の何かなのだ——。

 

 ◯●◯●


飛田「はぁ、やっと追いつきました……。では、玉城さんに紹介するねずみのお医者さんの所へ行きましょう」


雪白「愛音、勝手な行動はしないの。飛田さんに謝りなさい」


塚腰「浩司、あなたもいい歳してはしゃがないの!」


悠木&玉城「「ふぁーい……ごめんなさぁい……」」


 悠木は雪白に叱られ、玉城は塚腰に叱られる。2人はシュンとして飛田に頭を下げる。


飛田「いえ……お気になさらず。まあ、夢みたいな世界ですからはしゃぎたい気持ちは分かりますよ、あはは……」


悠木「あ! あの!」


飛田「はい、愛音さん、どうされました?」


悠木「何か、あたしたち、に後をつけられてる気がするー!」


飛田「ぴょんぴょんしてる変な生き物……ですか?」


 飛田たちは後ろを振り返った。が、そこには歩道を行き交う、服を着た二足歩行のねずみと猫たちしかいない。

 の姿など無い。


飛田「いませんね……」


悠木「ほんとにいたんだもん!」


飛田「……じゃあ、探してみますか?」


 歩いてきた歩道上にあるベンチ、街灯、置かれた荷物の陰などを飛田たちは見て回ったが、それらしき生き物の姿は見つからない。

 それでも10分ほど探し続けていると、雪白はため息をつきながら言う。


雪白「……気のせいでしょ、愛音。それよりも急がなきゃ、夕方になっちゃうよ。早く帰るって約束でしょ?」


悠木「……そっかー、気のせいかー。じゃ、行こ! 飛田さんっ!」


飛田「……切り替えが早いですね。では行きましょう。玉城さんに塚腰さん、待たせてしまいすみません」


 飛田たちは少し足を早め、ねずみの医師ハールヤの医院“Chutopiaチュートピア厚生医院こうせいいいん”へと向かった。


 

 飛田とびたたちは、ねずみの医師ハールヤのいる“Chutopiaチュートピア厚生医院”へと到着した。


ねずみの受付嬢「人間様お一人、玉城たましろ浩司こうじ様ですね。すぐお呼びしますので、待合室でお待ちください」


 ねずみの受付嬢にカードを手渡された飛田は、悠木たちを手招きし、待合室へと向かった。


悠木「ふーっ! やっと着いたね。ねえ友莉ゆうり、お腹すかないー?」


雪白「ドーナツ屋さん、寄れば良かったわね。私たちが食べられる物が分からないけど、美味しそうな匂いだったもんね」


玉城「ねえ邦子ぉーくにこ、ねずみのお医者さん……どんなお医者さんなんだろー」


塚腰「ここまで来て言うのもなんだけど、ちょっと不安よね……」


 飛田、悠木と雪白、そして玉城と塚腰は、待合室のふかふかのソファに腰を下ろした。

 

 待合室には、川のせせらぎと鳥の声に混じってうっすらとオルゴールの音が流れており、空気もまるで森の中のように澄んでいる。


塚腰「……すごく、居心地がいいですね。ここにいるだけで体調が良くなったかも? 肩も全然凝ってないし」


 塚腰が肩を押さえながら言う。

 はしゃぎ回っていた悠木も今は落ち着いているし、悠木のせいで苛立っていた友莉も今はホッとしている様子だ。


 音楽が流れているスピーカーの下に目をやると、“1/fエフぶんのいちゆらぎ”と書かれたプラスチックボードが貼られていた。

 “1/fエフぶんのいちゆらぎ”とは、自然界のリズムと同じゆらぎであり、これを含む音楽は、リラクゼーション効果があると言われている——というのを、どこかで聞いたことがあるのを飛田は思い出す。


ハールヤ「玉城浩司たましろこうじ様、診察室へどうぞ」


 その“1/fエフぶんのいちゆらぎ”の音楽がボリュームダウンし、ハールヤの声でアナウンスが流れた。


飛田「では玉城さんと塚腰さんを案内しますから、悠木さんと雪白さんはここで待ってていただけますか?」


悠木「うん! 終わったらまたねずみさんたちの街を探検しようね!」


雪白「はい、本でも読んで待ってます」


 悠木と雪白は待合室で診察が終わるのを待つことになり、飛田は玉城、塚腰を診察室へと案内した。



ハールヤ「はじめまして、玉城浩司様。私は院長のハールヤと申します」


 ねずみの医師ハールヤが大袈裟なほどに深々と頭を下げると、玉城と塚腰は思わず後退りする。


飛田「玉城さん、ハールヤ先生は病人が来たら必ず手をついて頭を下げられるんですよ。私の時もそうでした。気にせず、ハールヤさんにお悩みを話して下さい」


 玉城にそう伝えた飛田は、少し離れて椅子に腰を下ろした。


玉城「は……はぁいぃ。あのぅ、僕ぅ……太りすぎなんですぅ」


ハールヤ「あはは……見れば分かりますよ。あ、マスクは外して頂いて結構ですよ」


 玉城がマスクを外し、荷物を塚腰に渡している間に、飛田はハールヤに質問を投げかけた。


飛田「ねずみさんの世界では、新型ウイルスは流行してないのですか?」


ハールヤ「新型ウイルスですか? 風邪が少し流行っているくらいで、その他の特定のウイルスが流行する兆候はありません。心配はいりませんよ」


飛田(……ということは、まだねずみさんの世界は魔王の力が及んでいない、ということですか。でもいずれはこの世界も……。早く戦線復帰しなければいけませんね)


 玉城の診察が終わって全員を元の世界に帰したら、すぐにミランダに頼んで地底の猫の街ニャンバラに行き、星猫戦隊コスモレンジャーと合流することに決めた。


ハールヤ「では浩司様、少し背中を触診してよろしいでしょうか」


玉城「は、はぁいぃ」


 玉城は上着を脱ぎ、ブヨブヨにたるんだ脂肪たっぷりの背中をハールヤに見せていた。

 ハールヤは指で玉城の背中の何箇所かをグッと押さえ、触診する。


ハールヤ「ツボに……入らないですね。まずは脂肪を落としてもらわないと……」


 普通とは違う診察方法に、玉城は戸惑った様子だ。

 首周り、肩などをひととおり触診し終えたハールヤは、ふうと息をつく。


ハールヤ「肝臓の機能が著しく下がっており、膵臓にも炎症があります。体内の脂肪量がとても多いですね……これは少々手強そうです」


玉城「ええー! 触っただけでどこが悪いか分かるんですかぁ!?」


ハールヤ「ツボを押さえた時の感覚で分かりますよ。浩司様には、しばらく入院していただきたいと思います。人間様用のダイエット食をご用意致しますので」


玉城「にゅぅ……入院……」


塚腰「異世界の病院に入院ですって!? さすがにそれは……」


 玉城と塚腰は、ハールヤの提案を受け入れることを渋っている。

 飛田は2人にどう言おうかと悩んでいたが、その時、診察室の扉が乱暴に開かれた。


ダスティ「ハールヤのじーさん、今日だいぶ体調いいんだ。ちょっと美味いもん食いに行っていいか?」


 以前、不摂生のあまりハールヤに呆れられていた、元ニャンバラの民であるトラネコの若者、ダスティだ。

 飛田が以前見た時は毛並みに艶が無かったが、今はフワフワとした毛並みになり、表情も生き生きとしている。


ハールヤ「ダスティ様、まだしばらくは病院食での食事療法が必要ですよ。退院まであと数日ですから、ここは欲望をグッと抑えてこのまま治してしまいましょう」


ダスティ「ちぇー」


 ハールヤの答えを聞き、ダスティは残念そうに斜め上を向く。

 玉城と塚腰は唖然としていたが、構わず飛田はダスティに話しかけた。


飛田「ダスティさん……ですか。この間はどうも。ダスティさんも入院なさってたんですね」


ダスティ「ああ。あの日から入院させられちまった。そこのゴツい人間も入院するんだろ? ハールヤんとこでの入院生活、なかなかいいもんだぜ。どんなもんか、教えてやろうか?」


 飛田たちが返事をする前に、ダスティは勝手に自身の入院生活について話しはじめた。


 Chutopiaチュートピア厚生医院での、入院生活の内容とは——。

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