第39話 激痛足ツボ
N……
優志……
ハールヤ……
看護師ねずみA……
看護師ねずみB……
看護師ねずみC……
N
帰宅し、大きなあくびをする
優志(マスターが、2人のアイドルの卵との話に夢中で、仕事の話をしそびれてしまいましたね……)
若き2人の少女の、夢に向かって頑張る姿——。
その姿を見て、優志は思うのだった。
優志(私の病気……自然に治すのには時間がかかりますし、その間ずっと痛みと悪化を恐れて過ごさなきゃいけません。ならやはり、いっそのこと、ちゃんと手術して治療して——気兼ねなく勇者ミオンとしての使命を務め、それから私の人生でやりたいことを、全力でやりましょう)
田井中という素晴らしい医師と出会えたことで、逆に手術の怖さ、現代医療への不信感が払拭されたのだ。
優志(そうだ。念のため、ハールヤさんにも相談しておきますか。明日、早速ミランダさんを呼んで、ねずみさんの世界へ行くことにしましょう)
優志は、湧き上がってきた希望を胸に、眠りについた。
♢
翌朝。
朝食のおかゆとサラダを食した優志は、早速ミランダを呼び出した。
ミランダ「うん、まだワープゲートは使えるわ。でもなるべく早く用事を済ませてね。帰って来れなくなったら大変だから」
優志「大丈夫ですよ、ハールヤさんと少し話すだけですから。ねずみさんの世界へ繋げてください」
ミランダが作り出した虹色のサークルが、部屋の床に広がる。
優志は迷うことなく、7色の輝きの中へと足を踏み入れた。
着いた場所は、ねずみと猫が仲良く暮らす街、
雪がちらつく商店街を抜け、ハールヤの医院“
待合室には誰もおらず、優志はすぐに診察室へと呼び出された。
ハールヤ「こんにちは、優志様。ずいぶん顔色が良くなりましたね」
にこやかな笑顔で優志を迎える、ねずみの医師ハールヤ。
優志「はい、ハールヤさんのマッサージのお陰でもありますし、私の住む世界でもいい主治医と出会えたんですよ」
ハールヤ「それは何よりです。主治医との信頼関係は大切ですからね」
優志「検査してもらったところ、症状もかなり良くなってました。このまま生活習慣を正して治そうということになったんです。ただ……治るまではやはり時間がかかるようで……。そこでハールヤさんに相談しようと思いまして」
ハールヤが首を縦に振ったのを確認すると、ひとつ呼吸をしてから、相談内容を口にした。
優志「時間をかけて治すより、やはり手術をしようと思うんです。手術して、スッキリ治して、それからやるべきことに取り組もうと思うんですが……どうでしょうか」
するとハールヤは、両手をポンと打って立ち上がる。
ハールヤ「そうですか。では早速……」
優志「え……?」
ハールヤがパチンと指を鳴らすと、診察室の入り口から、看護師のねずみが3匹入ってきた。
看護師ねずみA「失礼しますね」
看護師ねずみB「術前の触診です」
看護師ねずみC「10分後に手術を始めますので」
3匹の看護師ねずみに、肩、背中、太ももを触られ始めた。
優志「え、ちょ!? ちょっと待ってください!」
ニコニコ笑顔で、優志の肩をポンと叩くハールヤ。
ハールヤ「優志様、手術室へご案内します」
手術着に着替えることもなく、そのまま“” 手術室”と書かれた部屋へ案内された
しかしその手術室は——。
9帖ほどの部屋に、ベッドが1つ、ハールヤが座るであろう椅子が1つ、観葉植物が1つあるだけの、ごく普通の部屋であった。
窓があり、日除け越しに外が見える。
そう、そこは以前優志が、ハールヤからマッサージを受けた部屋と同じ部屋だったのである。
ハールヤ「では優志様、ストレッチをして体の凝りをほぐしてから、ベッドに横になってください。その間に私は爪を切りますから」
看護師の3匹のねずみは退室し、静かになった部屋にハールヤの爪を切る音だけが響く。
優志(手術って、まさか……)
爪を切り終えたハールヤは、お湯が入った風呂桶のような容器を持って来た。
ハールヤ「優志様、両足をお湯に浸してもらえますか?」
優志「あ、はい……」
靴下を脱ぎ、両足をお湯に浸す。
氷のように冷えていた足先が、じんわりと温かくなってゆく。
優志(足を……。ま、まさか……)
2分ほど経ったのち、ハールヤはニッコリ微笑んで言った。
ハールヤ「では、手術を始めさせていただきます。優志様、左足を私の膝のところに出して頂けますか?」
優志(まさか……まさかまさかまさか。ハールヤさんが仰る“手術”というのは、ものすごーく痛いという、アレのことでしょうか……?)
恐る恐る、左足をハールヤに預ける。
ハールヤは優志の左足を支えると、指の腹で足裏の真ん中をグッと押し込んだ。
優志「ぎょぇぇーーーーッッ!?」
魔物の断末魔の如き、叫びを上げてしまった。
優志の予感は的中。ハールヤの言う“手術”とは、足ツボマッサージのことだったのである。
ハールヤ「やはり痛いですか……。少し加減しましょう」
ハールヤは湯気の上がる温かいタオルで、優志の左足裏を温めてから、再び指圧を開始した。
優志「ふんぎょおおおーーーー!?」
それでも痛みのあまり、叫び声を上げて腕をばたつかせてしまう。
優志「はあ、はあ……勘弁……してください……」
ハールヤ「これはなかなかの老廃物の溜まり具合ですねえ……」
優志「老廃物って、足に溜まるんですか……?」
ハールヤ「はい。私どもが言う手術、“足の
足ツボマッサージ——正確には、“足の
足には、身体全体の器官、臓器と繋がる神経が集まっている。例えば足裏の中心には腎臓、土踏まずの
反射区を刺激すると、反射区と繋がる器官も刺激され、血流が良くなりその器官の本来の機能が発揮される。それで各部位の不調が改善されることも多いのだが——。
現代の人間は靴を履き、さらに歩くことが少なくなったため——本来血流に乗って流れるはずの老廃物が足裏に溜まっていき、沈澱してしまっている場合が多いという。
その場合、足の反射区を押すと——沈殿物が神経に触れ、激痛が伴うのである。
しかし沈殿物を溜めたままにすると、その部位と対応する器官も悪くなってしまう。
そのため、多少の痛みを忍んで足を揉み、沈殿物を静脈に乗せて流さなければならないというのである。
沈殿物を流し、同時に反射区を刺激することで、体の不調を解消させるのが——この“手術”の目的だというのだ。
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