第32話 邪竜パン=デ=ミール

N

優志

ゴマ

ソアラ

ソール

ムーン

マーズ

マーキュリー

ヴィーナス

ヴィット

サクビー

サーシャ

邪竜パンデミール


————


N巨大ヴィットは魔剣に、再び黒い稲妻を纏わせ始める。


優志「もう1発来ます! 逃げて下さい!」


ゴマ「なあに、ボクに任せろ!」


N躍り出たのは、最強猫勇者——ゴマ。

 ゴマは瞬時に力を溜めると、紫色のオーラを纏った。そして崩れた洞窟から地面の上に大ジャンプで飛び出すと、巨大ヴィットの足元へと駆けていく。


ゴマ「喰らえ、デカブツ!」


ヴィット「何だ……小癪な猫め!」


Nゴマはもう一度大ジャンプをすると、“魔剣ニャインライヴ”を構え、巨大ヴィットの腹部に狙いを定めた。


ゴマ「ギガ・ダークブラスト——回転斬りローリングアタック!」


N紫色の光に包まれたゴマは、魔剣を構えたままコマのように空中で高速回転し、突撃。巨大ヴィットの腹部を切り裂いた。

 巨大ヴィットの鎧が砕け、破片が飛び散る。


ヴィット「グフッ……! 何だ……コイツは……⁉︎ こんな奴がいるとは聞いてない!」


Nたまらず巨大ビットは膝を折り、倒れる。地響きと共に土埃が舞い上がった。


ゴマ「観念しろ、鎧野郎!」


ヴィット「おのれ、チビ猫ごときにこの俺が……覚えていろ!」


N巨大ヴィットは倒れたまま捨て台詞を吐くと、姿を消した。


優志「ゴマくん……。すごく強いのですね……」


ゴマ「ニャハハハ! 当たり前だ!」


N自分の体よりもずっと大きい相手にも恐れず立ち向かい圧倒したゴマの強さに、優志は驚きを隠せなかった。


 別の場所では、巨大サクビーが大暴れしている。

 ソールが剣から光線を、マーズが剣から火炎を、ムーンが杖から魔法弾を巨大サクビーに浴びせようとしているが、全て“クリスタルボウル”という名の盾で防がれてしまっていた。

 その様子を見て駆けつけたのは、最強猫勇者ゴマに触発されたソアラだった。

 ソアラは右前脚に空色の光を纏わせると、大きくジャンプ!


ソアラ「オレに任せろッ! オレの拳を防げた奴は、誰もいねえッ!」


Nソアラに気づいた巨大サクビーは、“クリスタルボウル”を構え身を守った。

 そこに、ソアラの渾身の一撃がヒットする——!


ソアラ「“200万馬力・猫パーンチ”!!」


Nところが——。

 鈍い金属音が響き渡ると同時に、サクビーはクリスタルボウルの陰から余裕の笑みを見せたのだった。クリクリとした目がギラリと光る。

 巨大サクビーのクリスタルボウルは、どんな物でも打ち砕く200万馬力・猫パンチをも完全に防いだのである。 


ソアラ「痛ってぇー!! そ、そんなバカな!」


サクビー「ギャハハハ! そんな技、僕ちゃんの“クリスタルボウル”には通用しないビー! 喰らえビー! 【カカオスマッシュ】!」


ソアラ「ぬわあっ!」


優志「ソアラくんっ……!」


N巨大サクビーの鋼鉄のような右拳が、ソアラを潰そうとする。間一髪、ソアラは攻撃を避けるが、バランスを崩し転んでしまった。巨大サクビーの拳は地面を抉り、地割れを巻き起こす。

 優志は駆けつけて盾を構え、飛んでくる小石を防いでソアラを守った。


サクビー「僕ちゃんのクリスタルボウルは、どんな攻撃だって防げるビー! お前らに勝ち目は無いビー! ギャハハハ……ん?」


ゴマ「うるっせェ、このちんちくりんが! ギガ・ダークブラストォォォ! 回転斬りローリングアタック!!」


Nまたも、ゴマの声が耳に入る。

 見ると、再び紫色の光に包まれたゴマが、“魔剣ニャインライヴ”による高速回転斬りで巨大サクビーに突撃する!

 だが、激しい金属音が繰り返し鳴り響くだけで、サクビーの体にもクリスタルボウルにも、傷一つつかない。クリスタルボウルは最強猫勇者ゴマの攻撃すらも、防いでしまったのであった。

 それでもゴマは、空中回転斬り攻撃を継続、ゴリ押しする!


サクビー「な、何だコイツは……ビー!!」


N回転しながら迫るゴマの勢いに押され、とうとう巨大サクビーはクリスタルボウルごと、近くの断崖に激突、転倒した。


ゴマ「オラァッ! 大人しく降参しやがれ!」


サクビー「クッソゥ……やるなビー! ここは一旦退いてやるビー!」


N自力で立ち上がれなくなった巨大サクビーは、そのまま姿を消した。

 呑気に観戦していると、優志とソアラの後ろで大きな音と共に、爆発が巻き起こった。


優志「うわあ!」


ソアラ「優志ィ! 大丈夫か!」


N爆発の直撃は免れた。振り向くと、そこにいたのは「オホホホ」と高笑いする巨大サーシャ。“ロリータ・ホワイトステッキ”から、爆発魔法を放ったようである。挑発しようとしたためか、わざと攻撃を外したらしい。

 優志は反撃しようと、右手を構えた。


優志「“サンデー”! “バースト”!」


N必死で、魔法を連発する。しかし巨大サーシャは“ロリータ・ホワイトステッキ”から放った虹色の光で、優志の繰り出した魔法を跳ね返した。


サーシャ「オーホホホ! そんな技、ワタクシには通用しませんわよ! 無駄な抵抗はやめて、ワタクシの愛する王子アルス様の居場所を教えなさい、勇者ミオン! さもなければ……」


優志「一体、何のことですか……!」


N跳ね返された“サンデー”と、爆発寸前のエネルギー弾“バースト”が、優志に迫る!


優志「そんな……!?」


サーシャ「オホホホ! 勇者ミオン自身の魔法で、自滅なさい!」


Nところが——。


優志「……と見せかけて、実は私はもう1つ、魔法を覚えていたのです! 【リターン】!」


N優志は前方に、オレンジ色のバリアを張った。すると、戻ってきた“サンデー”と“バースト”が、さらに“リターン”によって跳ね返される!


サーシャ「……何ですって!? きゃあああああッ!!」


N油断した巨大サーシャに、“サンデー”と“バースト”が同時に炸裂! 爆炎と黒煙が巨大サーシャを包み、凄まじい爆発音が鼓膜を震わせる。

 黒焦げとなった巨大サーシャは地面に倒れ伏し、土煙を上げた。


サーシャ「フ……フン……。生意気な、チビ勇者ですこと……!」


優志「誰がチビですか! 元々のサイズなら、あなたは私より背が低いではないですか!」


サーシャ「こ……の……。ぐぬぬぬ……。オ……オホホホ……。お、覚えてなさい‼︎」


Nサーシャは口元をピクピクと震わせながら負け惜しみを言うと、地面に這いつくばったまま姿を消した。

 ちなみに腕をジタバタさせながら「誰がチビですか!」と言う優志を見て、


マーキュリー「か……可愛い……」


Nとこぼしていたのは、マーキュリーである。


 ♢


優志「ゴマくん、めちゃくちゃ強いんですね……」


N魔王の幹部であるヴィット、サクビーをたった1匹で戦闘不能に追いやったゴマに、優志まさしは驚きを隠せないでいた。


ゴマ「当たり前だ。ボクは最強の猫だからな。ボクは自分とか相手とかのステータスを数字で見られるんだが、ボクのステータスは全部しているんだ。ニャハハハ!」


N先程の戦いを見ても、ゴマの強さは他の星猫戦隊コスモレンジャーのメンバーの比ではないことがハッキリと分かる。

 ただ、なぜゴマが最強の猫になれたのかは、ゴマ自身も知らないという。


ゴマ「優志も、なかなかやるじゃねえか」


優志「いや、私がここまで強くなれたのは、ゴマくんたちも含め、私を支えてくれた方々のお陰ですよ……」


N優志の脳裏に、この不思議な冒険が始まってから今までに出会った人々——稲村、ラデク、サラー、マーカス、マイルス——の姿が浮かぶ。そして、星猫戦隊コスモレンジャーの面々に目を向けた時、ソアラが俯きながら唸り声を上げていることに気付いた。


ソアラ「オレの拳が効かねえなんて……!」


Nどんな物でも打ち砕くはずの“200万馬力・猫パンチ”をサクビーに防がれたことにショックを受けているようだ。


優志「また会った時に、リベンジすればいいんですよ、ソアラさん」


ソアラ「……クソッ!」


N優志の心ばかりの励ましは空振りに終わり、ソアラは崩れ落ちた岩盤にストレートパンチをぶつけた。

 すると岩盤は破裂するように砕け散り、洞窟の続きとなる道が現れた。


ソール「お! ソアラくん、ナイスだ!」


ムーン「皆さん、引き続き探索を続けます。気をつけて行きましょうね」


Nそんなソアラの事情を知らないソールたちは、砕けた岩盤から再び洞窟へと足を踏み入れていく。


ゴマ「気ィ落とすな、ソアラ。らしくねえじゃねえか。ほら、行くぞ」


ソアラ「ゴマ相棒……」


ゴマ「相棒じゃねえっての」


N優志、ゴマ、ソアラも、続いて洞窟内へと歩いて行った。


 ♢


N30分ほど、ジメジメとした一本道を進んで行った時だった。


マーズ「シッ……静かにしろ」


ソール「どうした、マーズ?」


マーズ「何か聞こえないか……?」


N進路の先に広がる真っ暗な空間に、何やら唸り声が響いている。


ムーン「本当ですね。もしや、この先に邪竜パン=デ=ミールが……?」


ヴィーナス「ムーン、気をつけて。この先に縦穴があるわ」


Nヴィーナスの忠告通り、コスモレンジャーの進路の先には、巨大な縦穴が口を開けていた。

 抜き足差し足、慎重に縦穴に近づくコスモレンジャー。優志も、足跡を立てぬよう気をつけながら最後尾をついていく。

 先頭のソールは、そっと、縦穴の下を覗いた。


ソール「……いたぞ。邪竜パン=デ=ミールだ」


マーズ「何てデカさだ……。あんなにデカいとは予想外だ」


N優志も恐る恐る、覗き込んだ。


 縦穴の下にいたのは、巨大な竜。羽を畳み、体を丸くしてじっとしていた。

 深緑の体色に、肉食恐竜のような頭部。鋭い4本の爪のある4つの脚と、体全体を包む羽。

 頭部から尻尾までの全長は、50メートルほどだ。優志は現在猫サイズなので、それよりもさらに大きく見える。約3倍、150メートルほどだろうか。


ソール「いけない! すぐマスクとゴーグルをつけるんだ!」


Nソールが声を荒げると、星猫戦隊たちはすぐに防毒マスクとゴーグル取り出し、装着する。


ゴマ「優志! すぐに着けろ!」


優志「は……はいっ!」


N優志はゴマから防毒マスクとゴーグルを手渡され、素早く装着した。

 マーキュリーは首を傾げ、ソールに尋ねる。


マーキュリー「ソ……ソール、い……一体何があったの……?」


ソール「これを見てくれ。ウイルス検出試験紙だ。新型ウイルスが検出されると色が青からピンクになるんだが……全面ピンクになっている。つまり」


Nソールは体を硬くし、震えながら言葉を続けた。


ソール「邪竜パン=デ=ミールの体から、新型ウイルスが放出されている。周りはウイルスだらけだ」


ムーン「迂闊に近づくことも出来ませんね……。新型ウイルスは感染力も強いので、星猫戦隊コスモレンジャーの誰かが感染したら、あっという間に全員が感染してしまいます」


マーキュリー「い……今までにないタイプの敵よね……」


N作戦を立てるべく一度退却しようとした、その時。


パンデミール「来たか……愚かな戦士ども。魔王ゴディーヴァ様より、世界を滅ぼせとのご命令だ。邪魔はさせぬ」


N邪竜パン=デ=ミールは星猫戦隊コスモレンジャーがいることに気づき、オレンジ色の目を光らせた。


マーズ「な……喋った!?」


ソール「気付かれたか! まずいぞ!」


N邪竜パン=デ=ミールは大きな羽を広げ、羽ばたかせ始めた。

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