第29話 ニャンバラの地下洞窟

N

優志

稲村

ラデク

サラー

ソール

ムーン

ゴマ

ソアラ


————


N「“バニースーツ”に代わり、何故か【メイド服】を身につけたサラーが、“マグマの杖”を掲げながらウインクする。

 優志ミオンと同じく“銀の胸当て”を身につけ、援護してくれたラデク。彼は眉毛を逆ハの字にしながら稲村リュカに声をかけた」



ラデク「そこの僧侶のおっちゃん! サイクロプスは“土”属性だから、“水”属性の“ウンディーネの羽衣”をつけてちゃダメ! “水”は“土”に弱いんだよ!」


稲村「お、おう……。俺はリュカって言うんだ。そうなのか、俺、何も知らなかったよ。教えてくれてありがとな、坊っちゃん」


ラデク「坊っちゃんじゃないやい! 僕はラデク。覚えてよ!」



N「ラデクに散々言われ、稲村リュカは頭を掻く」



サラー「ミオン様ー、リュカさんー。また魔物ですよー。次も、力を合わせて戦いましょー」



N「サラーの声にハッとして周りを見ると、今度は3匹の新たな魔物に取り囲まれていた。休んでいる暇などない。

 【魔術師】——紫色のとんがり帽子とローブを身につけた、人型の魔物。

 【スタグビートル】——身長1メートルもの、巨大なクワガタ。

 【ウッドボーイ】——枝と根を手足のように動かす、樹木の魔物」



ラデク「ミオン様は“ドルチェ”で魔術師を攻撃して! “ドルチェ”は“光”属性だから、“闇”属性の魔術師に効くはず! サラーは“プチファイア”か“マグマの杖”で、ウッドボーイを攻撃するんだ! “木”属性は“火”に弱いから!」


優志「分かりました、ラデクくん! ……“ドルチェ”ッ!」


サラー「任せてー! “マグマの杖”ー!」



N「ラデクの指示通り、優志ミオンは“ドルチェ”を魔術師に放った。だが動かれたせいで綺麗には当たらなかったので、さほどダメージは入らなかったようだ。

 サラーは“マグマの杖”を振りかざし、放たれた火炎放射でウッドボーイを黒焦げにしていた。

 魔術師は“闇”属性の魔弾を放つ。鉄の盾で防いだが、衝撃で転倒」



優志「くっ……」



N「頬と膝に擦り傷を負った。ジンジンと痛む」



稲村「優志ミオン、俺に任せろ! “ヒール”!」



N「間髪入れず、稲村リュカが傷を癒してくれた。瞬く間に傷が塞がり、心地よい冷感が全身を覆う」



優志「リュカ、ありがとうございます! 行きますよ、“ドルチェ”ッ!」


 

N「2発目の“ドルチェ”。今度は魔術師にしっかりとヒット。

 魔術師は地面に倒れ伏し、光となって天に昇っていった。

 思わず、ふうとため息をつく」



ラデク「サラー! スタグビートルは“かね”属性で“火”属性に弱いから、また“マグマの杖”で弱らせて!」



N「スタグビートルと戦闘中のラデクが指示すると、サラーは“マグマの杖”を再び振りかざす。高熱の炎が杖から放たれる。

 炎が迫るギリギリのタイミングでラデクがスタグビートルの近くからダッシュで離れると、炎はそのままスタグビートルに直撃」



ラデク「ミオン様、行くよ!」



N「スタグビートルが火だるまになったところで、ラデクに声をかけられる」



優志「はい!」



N「燃え上がるスタグビートルめがけ、ラデクと共に剣を構え突撃。ラデクが一撃を加えると、矢継ぎ早に優志ミオンも敵の腹部を斬りつけた。

 火の粉が舞い散ると、スタグビートルの体はバラバラになり、やがて光となって昇天した」



稲村「凄いな、坊っちゃ……いや、ラデク! 子供なのに戦い慣れてるじゃないか!」



N「駆けつけた稲村リュカがラデクの頭にポンと手を乗せるが、ラデクは頬を膨らませている」



ラデク「僕は一流の剣士になって、ミオン様と一緒に魔王を倒すんだから! 作戦とか魔物についてとか、いっぱい勉強したんだ! このぐらい当たり前だよ!」


稲村「おお、そうかそうか! 偉いな、ワハハ!」


ラデク「ああもう、頭わしゃわしゃしないでよ!」



N「なかなかのチームワークだった——優志ミオンは今の戦いで、確かな手応えを感じていた。

 仲間たちと力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられる——。


 グゥー……。


 優志ミオンの腹の虫が鳴る」



優志「あ……お腹空きました……」



N「食欲不振に悩まされていた優志ミオンだったが、久しぶりに“お腹が空いた”という感覚になれた。

 症状というのは、知らぬ間に治ることが多いものである」



稲村「じゃ、宿屋に戻ってみんなでメシでも食うか!」


サラー「さんせーい」



N「稲村リュカの提案で、優志ミオンたちのパーティーはモヤマの宿屋へと向かうのであった」


 ♢


N「腹を満たした優志ミオンは、急激な眠気に襲われ、宿屋の一室で一眠りすることにした。

 因みに、食後の急激な眠気は、血糖値の急上昇が原因の一つである可能性があるので、早食い癖のある優志まさしは、なるべくゆっくり食べる方が良いことを知るべきだろう。


 そして目を覚ます。そこは——。


 地底都市ニャンバラにある、星猫戦隊コスモレンジャーの仮設基地の一室だった。

 けたたましく鳴り響く、警報音のような目覚ましアラームの電子音。

 夢から覚めたのである。


 ベッドから起きあがろうとした優志まさしは、身体全体に違和感を覚える。

 何だか、重い。頭も、体も。

 金属のこすれる音を気にしながら起き上がると、優志まさしは気づく。


 何と、夢の世界で身につけていた装備—— “ミニゴールデンソード”、“鉄の剣”、“レイピア”、“銀の胸当て”、“鉄兜”、“鉄の盾”が装備されたままの状態で、目が覚めたのである」



優志(……これもきっと、夢と現実の境目が、無くなりつつあるから……でしょうか)



N「現在の優志は猫サイズ。身につけている装備も、優志に合わせてサイズが小さくなっていた。

 時刻は、集合10分前の7時50分。大急ぎで身支度を済ませ、部屋を出た」



ソール「いよいよ、“邪竜パン=デ=ミール”のいる地下洞窟の入り口へ向かう。気を引き締めて行くぞ!」



N「星猫戦隊コスモレンジャーのリーダー、ソールの号令に、一同は「応!」と返事をする。

 地下洞窟へと向かうメンバーは、ソール、ムーン、マーズ、マーキュリー、ヴィーナス。

 そしてゴマ、ソアラに、優志だ。

 

 仮設基地の玄関先でライムとグレに見送られ、優志たちは地下洞窟のある森を目指して出発した」


 ♢


N「新型ウイルスの感染対策として全員マスクを装着し、森の奥地へと向かう星猫戦隊コスモレンジャー。

 紫やオレンジの蔦、1つ1つの花弁の形が違う巨大な花、生物のようにウネウネと動き回る木々など、見たことのない植物で覆われた奇妙な森だ。


 ソールはニャイパッドの地図アプリで、地下洞窟へ続く入り口への道を探る」



ソール「かなりの獣道だな。誰も踏み入ってないんだろうな……お、あれは!」



N「ソールは、地面に空いている大きな穴を発見し、近くへと駆け寄った。警戒しながら、ついていく。

 穴の周囲は、太い巨大なミミズのような草に覆い尽くされていた。穴の中からはヒンヤリとした風が吹き上がっており、緩い下り坂となって中へと道が続いている」



ソアラ「ついに来たなァ、オレ、ワクワクすっぜ!」


ゴマ「ソアラよぉ、テメエ遊びに来てるんじゃねえんだからな」


ソアラ「イイじゃねーか、ゴマ相棒! 楽しむ気持ちってのは大事だろォ?」


ゴマ「誰が相棒だ!」



N「ゴマとソアラがじゃれあっているのを他所に、優志はソールたちの後に続き、洞窟の中へと足を踏み入れた。

 刺すように冷たい空気。段々と暗くなり、前が見えなくなってくる。体がブルッと震えた」



ムーン「ここから先はライトをつけましょう。気をつけて進みましょうね」



N「ムーンに懐中電灯を手渡された。

 前方を照らしつつ、ジメジメとした洞窟を、列になってひたすら進んで行く。優志は最後尾だ。

 段々と道幅も天井も広くなり、下り坂も平坦になってくる。洞窟に潜入して20数分経った頃だった。

 前方より、複数の獣の唸り声が聞こえてくる」



ソール「シッ! 何かいるぞ……」


ムーン「皆さん、足を止めてください!」



N「ソールとムーンの声を聞き、優志は気を引き締める。

 慎重に、ライトで前方を照らすと——。

 そこにいたのは、3匹の獣型のモンスターであった」



ゴマ「何なんだアイツらは!? ソールさん、あんなの見たことねえぞ!」



N「ゴマが大声を発すると、ライオンのようなモンスターが黄色い眼を光らせ、ゴマを睨んだ」



ソール「静かにするんだ、ゴマくん。 ……【ニャンバライオン】、【ニャンバラット】、【ニャンバルー】だ。地下深くには、やはり危険な生物が棲みついていたか!」



N「オレンジ色の長いたてがみを持つライオンのようなモンスター、“ニャンバライオン”。体格は今の優志の3〜4倍ほど。

 丸々と太った巨大なハムスターのようなモンスター、“ニャンバラット”。体格は優志と同程度。

 その場をピョンピョンと飛び跳ね、今にも飛びかかろうとしているカンガルーのようなモンスター、“ニャンバルー”。こちらも体格は優志と同程度だ」


 

ソール「みんな、転身するぞ!」


ゴマ「応ッ!」



N「ソールの号令で、猫たちの面々は前脚を真上にかざし、声を揃えた」



ソール「聖なる星の光よ、我に愛の力を!!」



N「白、紫、赤、青、黄色、青紫、空色——カラフルな光が、それぞれの猫たちを包み込んでいく——」

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