第28話〜タヌキ野郎〜

N……

優志……

稲村……

ラデク……

マイルス……

ポンタ……


————


N「【僧侶リュカ】となった稲村誠司と、夢の世界で出会った優志まさし=勇者ミオン。

 何で、この男がここにいるんだろう。

 体を起こし、軽く深呼吸をして落ち着きを取り戻した優志勇者ミオンは、稲村リュカに尋ねた」



優志「いなちゃ……いや、リュカ。前に電話した時に話してた異世界の夢というのは……やはり私と同じ夢だったんですね」


稲村「ああ。何度も夢を見るうち、実はここモヤマで何度かお前を見かけていたんだ。やっと合流できたな、“勇者ミオン様”」



N「しつこいぐらいに“勇者ミオン”呼びを繰り返される。弾むような口調で。

 稲村僧侶リュカは嬉しげに目を細め、口角を上げている」



優志「……もしや一緒に私と、魔王討伐の旅についてきてくれるのですか?」


稲村「ああもちろんだ。回復役、必要だろう?」


優志「ありがとう、いな……リュカ。なら、一緒にかつての勇者、マイルスさんのところへ行きませんか? 魔王について詳しく聞きましょう」



N「優志ミオンは、稲村リュカとともにモヤマの宿屋で軽く朝食を済ませ、水筒に“生命の水”を補充してから、かつての勇者マイルスの家へと向かうことにした。

 ゴマとムーン——稲村いなむらの家で飼われている猫——と共に、猫たちの暮らす地底世界において“邪竜パン=デ=ミール”を見つけ出すことになった話については、現時点では稲村リュカには黙っておくことにした」

 

 ♢


マイルス「魔王ゴディーヴァをはじめとする魔族たちは……世界を滅ぼそうとする神の意思の残滓ざんしに、人間の心の闇から生み出されたエネルギーが宿り、魔族として具現化した存在だ……という説がある」



N「マイルスの家に招き入れられた優志ミオン稲村リュカは、以前と同じように囲炉裏の周りに座ってお茶を飲みながら、反対側に座るマイルスの話に耳を傾けていた」



マイルス「魔族たちは、夢の世界と現実世界を統合し、病気や戦争を引き起こすことで人間を滅ぼそうとしている。それでも生き残った人類は恐怖心で支配、奴隷化。世界を、復活した魔族の天下にしようとしておる」


優志「だから、現実世界でも新型ウイルスが……? マイルスさん! “邪竜パン=デ=ミール”はご存知ですか?」



N「少し前のめりになりながら、優志ミオンはマイルスに質問した」



マイルス「邪竜……。現実世界における存在か?」


優志「はい。地底世界に眠る、邪悪なドラゴンです。そのドラゴンが原因で新型のウイルスが発生して、それによる感染症が世界中で流行しているのです」



N「隣で稲村リュカが目を見開きながら何か言いかけたが、それを遮るように優志ミオンは言葉を続ける」



優志「夢の世界と現実の世界が統合され、境目が無くなりつつある、というお話でしたよね。もしかしたら、“邪竜パン=デ=ミール”も、魔王に操られているのでしょうか……? 世界中で流行っている新型ウイルス感染症も、魔王ゴディーヴァのせいなんでしょうか!?」


マイルス「その可能性は高い」



N「答え、ぐいっとお茶を飲み干すマイルス」



稲村「ちょっと待ってくれよ。ミオン、お前何でそんなこと知ってるんだ? 新型ウイルスの原因がドラゴン? 地底世界? 夢と現実の境目? もう訳わかんねえよ」


優志「いなちゃ……リュカ、詳しくはまた後で話しますから、今はマイルスさんの話を聞きましょう」



N「目を瞑りながら、稲村リュカが落ち着きを取り戻すのを待っていたマイルスは、ようやく口を開く」



マイルス「勇者ミオンよ……。そなたには守護神、【夢幻獅子むげんじし】がついておる」



N「突如知らされた、優志ミオンについているという守護神の存在。

 守護神、“夢幻獅子むげんじし”とは——」



マイルス「“夢幻獅子”とは……オトヨーク島より遥か東の大陸——【チャイ大陸】に棲む伝説の生き物だ。その偉大なる力が、今の勇者ミオンのオーラから感じられる」


優志「全く、気付きませんでした。その……守護神さんは一体、どのようなことをしてくれるのでしょうか……?」


マイルス「もしもお主が窮地に陥った時、“夢幻獅子”がお主の元へと駆けつけ、力を貸してくれるであろう」



N「優志ミオンは目を瞑り、心の中で守護神・“夢幻獅子”の存在を感じようと試みたが、全くそのような気配は感じなかった」



優志(マイルスさんの言う通り、ピンチにならないと助けてくれないのでしょうか。……そういえば星猫戦隊コスモレンジャーの猫さんたちには、みんな守護神がいるという話でした。もしや、私も星猫戦隊コスモレンジャーに仲間入りしたから、守護神さんがついてくれたのでしょうか……?)



稲村「あの、俺にはその守護神ってのは、ついてくれてないんですか!?」



N「稲村リュカの大きな声で、優志ミオンはハッとする」



マイルス「リュカ、お主はこの“夢の世界”に来たばかりだ。お主の力がこの世界の神々に示されれば……縁はあるかも知れぬ」


稲村「そうですか……。なら、気張ってかなきゃな! なあ、勇者ミオン!」



N「稲村いなむらから勇者ミオンと呼ばれ慣れぬ優志まさしは、ただ苦笑いをしながら頷くだけだった」



マイルス「それからお主らが戦うべき魔族は……死ぬと、紫色の血が残るはずじゃ。覚えておくが良い」


優志「分かりました。色々とありがとうございます。また伺いますね」



N「マイルスの家を後にした優志ミオン稲村リュカは、モヤマの噴水公園へ行き、今後どう動くかを話すことにした」


 ♢


優志「リュカって呼び慣れないですよ……」


稲村「ほら、こういうのはしっかり成り切らなきゃ。世界を救う勇者ミオン様だろ!? もっと胸張って堂々としろよ、ガハハハ」



N「公園のベンチに座り、商店で買ったポテトスナックを口にしながら話す優志ミオン稲村リュカ



優志「そうですね。でも……色々と不安なんですよね……」



N「そうこぼして青い青い空を見上げた時——。また、謎の幻聴が聴こえてきたのだつた」



ポンタ『お前には無理無理。世界は魔王に支配され、破滅するポン』



N「優志ミオンはハッとして、すぐに目を瞑り、自分の心に集中した」



稲村「ん? どうした、ミオン」


優志「シッ。リュカ、静かにしててください」



N「首を傾げる稲村リュカを気にも留めず、再び目を瞑ると——優志まさしが小学生低学年の頃、一緒にサッカーをしていたクラスメイトに「飛田には無理無理。お前がシュートしたら絶対失敗するから」と言われたことを、鮮明に思い出し始めた」



優志(それです……!)



N「幻聴の原因を突き止めた、その時——。

 頭の中から何か出て来るような感覚がして、思わず目を開ける」



ポンタ「チッ、見つかったか! ポンポコリン!!」



N「何と、優志ミオンの頭の中から灰色のもやが出てきたのである。その靄は瞬く間に、おでこに葉っぱをくっつけた身長50センチメートルほどの、二足で立つへと姿を変えたのである」



優志「……タヌキさんですか!?」


ポンタ「……逃げるポン」


優志「む……逃がしません……!」



N「呆気に取られている稲村リュカを他所に、優志ミオンは逃げようとするタヌキを両手でふん捕まえた」



優志「ど、どうですか! 捕まえましたよ! 観念してください!」


ポンタ「ヘヘッ、オイラは、【ポンタ】。お前を化かして本心を見えなくして、悩むお前を見るのを楽しんでるんだポン。お前に世界を救うのは、無理と言ったら無理だポン……」



N「捕まってもなお余裕そうなそのタヌキ——“ポンタ”の表情が、小学生の頃の優志まさしに嫌がらせを繰り返したクラスメイトの顔、そっくりであった」



ポンタ「お前はドジだから見てて面白いポン。この後、お前は犬のウ◯コ踏むポン。ポンポコリン!」



N「当時の悔しさと悲しみが思い出され、溢れ出して抑えきれない」



優志「やめてください!」


ポンタ「うがっ!?」



N「バチン、と痛々しい音が響く。

 優志ミオンはポンタの首根っこを掴み、ポンタの頬に1発、ビンタをかましたのだ」



ポンタ「な、殴ったポン、暴力反対ポンー!」



N「ポンタは涙目になりながら、草叢の中へそそくさと逃げて行ってしまった。

 優志ミオンはしばらく息を弾ませていたが、心の深いところが早朝の青空のように、スッキリと澄み渡ったのを感じていた」



稲村「アッハハ、何してんだ1人で! お前、やっぱ天然だなァ!」



N「稲村リュカには、“ポンタ”の姿は見えていないようだ」



優志「いなちゃ……いや、リュカでしたね。リュカって、いつも楽しそうですよね……。どうやったらそんなに楽しそうになれるんですか……」


稲村「どんな時だって、自分から楽しむって気持ちが大事なんだぜ。人生の先輩からのありがたいアドバイスだ、なんつって! それはさておき、お前も防具がだいぶボロボロじゃんか。新しい武器と防具でも調達しにいかないか?」


優志「……そうですね。その後は、魔物を倒しながら街の周りでも探索しますか? またゴールドを貯めなきゃですし」


稲村「そうするか!」



N「優志ミオンは気を取り直し、稲村リュカと共に人で賑わうモヤマの中心部、商店が立ち並ぶ通りへと向かった」


 ♢


N「モヤマの武器屋、防具屋では、コハータ村とは比べ物にならないほど多くの種類の武器、防具が売られていた。

 中には、身につけると特定の属性攻撃を軽減するなど特殊な効果を発揮するものもあり、優志ミオンたちは店主に武器や防具の性能を尋ねては、1つ1つ教えてもらっていた」



優志「これだけ種類があると迷いますね。でも今の手持ちで買える手頃なものは……【ミニゴールデンソード】と、【銀の胸当て】、【鉄兜】……ですか。リュカは何にしましたか?」


稲村「俺は【ロングスピアー】、【ウンディーネの羽衣】、【神官帽】だな。ウンディーネの羽衣は、火属性のダメージを軽くしてくれるんだぜ」


優志「なかなか似合いそうですね。私が買うつもりの“ミニゴールデンソード”は、攻撃自体が“かね”属性になるみたいです。木属性の敵に効果抜群らしいですね。今持ってる他の剣は売らずに使い分けることにして、要らない武器防具もここでみんな売っちゃいましょうか」


稲村「そうすっか!」



N「優志ミオンは、“ミニゴールデンソード”、“銀の胸当て”、“鉄兜”を新たに購入。

 “鉄の剣”、“レイピア”、“ミニゴールデンソード”を使い分け、盾は以前と同じ“鉄の盾”を使用。

 稲村リュカは、“ロングスピアー”、“ウンディーネの羽衣”、“神官帽”を新たに購入。

 盾は、優志ミオンと同じく“鉄の盾”を装備している」



稲村「さて、軽くメシ食ったら、サクッと魔物を倒しに行くとすっか! 回復は俺に任せとけ、勇者ミオン!」


優志「リュカ、ほんとに楽しそうですね」



N「モヤマの商店でホットドッグを買い、小腹を満たした優志ミオン稲村リュカは、繁華街モヤマの周りの探索へと向かうことにした」


 ♢


優志「ぐ……! 新しい装備を調達したのに、手強いです……」


稲村「勇者ミオン! 【ヒール】!」



N「モヤマを出たばかりの優志ミオン稲村リュカは、早速魔物と遭遇し、戦いの火花を散らしていた。

 稲村リュカの左手から淡い緑色の光が放たれ、優志ミオンを包む」



優志「ありがとうございます、リュカ……。この2体の魔物、力も守りも、モヤマへの道のりの魔物たちの比じゃないです」



N「優志ミオンたちが戦っているのは、筋肉隆々で、頭に1本の角を生やした人型の魔物、【オーガ】。

 同じく人型で力士のような体型、1つ目の魔物、【サイクロプス】

 両者共に、動きは鈍く隙も大きいが、攻撃力と防御力が高く、何度攻撃を加えても倒れる気配が無い」



稲村「逃げるか? ミオン」


優志「そうですね、無理はしない方が良さげです……ん?」



N「その時だった。

 赤橙色せきとうしょくに輝きを放つ火炎魔法が、オーガとサイクロプスを包み込む!」



優志「な、何が起こったんですか……?」



N「優志ミオンが言う間に、今度は金髪の少年が2ちょうの【バタフライナイフ】で、怯んだオーガとサイクロプスに切りかかった」



ラデク「ミオン様、今だ!」



N「少年の声を聞いた優志ミオンは、オーガとサイクロプスに“鉄の剣”で力の限り斬りつけた。

 オーガとサイクロプスは緑色の体液を撒き散らしながら、地響きを上げて倒れる。そしてゴールドを残して、光となり空へと消えて行った」



優志「ありがとうございます……、ラデクくん、サラーさん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る