第27話〜僧侶リュカ〜


N……

優志……

ゴマ……

ソール……

稲村……



ゴマ「ま、こんだけいりゃあ“邪竜パン=デ=ミール”なんざ、敵じゃねえな! ニャハハハ!」



N「ゴマが口の周りに魚汁を垂らしながら得意げに笑う。

 一足早く食事を終わらせたソールは、ゴマの笑い声など全く気にしないかのように、タッチパネル式の画面が映る薄いボード【ニャイパッド】に触れ始めた。

 そして“ニャイパッド”の画面をコスモレンジャーのみんなに見せ、“邪竜パン=デ=ミール”についての説明を始めた」



ソール「“邪竜パン=デ=ミール”は、ニャンバラの森の奥地にある地下洞窟の、奥深くにいるようだ」



N「地底の猫の国ニャガルタの首都ニャンバラの郊外には、大きな森の奥地に地下へと続く洞窟があるらしい。

 中は複雑に入り組んでおり、危険な生物も棲みついているので、立ち入り禁止区域となっているようだ。

 優志は口を結びながら、説明に耳を傾け続けた」

 


ソール「“邪竜パン=デ=ミール”は、生体反応を分析する限り、かなりの巨体だ。出会ったら何とか地下から外におびきだして、戦わなきゃいけない。そのために、【守護神】たちに力を貸してもらおう」


優志「あの……守護神とは何でしょう?」



N「ついていけなくなりそうだと感じた優志は、思い切ってソールに質問をぶつけた」



ソール「星猫戦隊コスモレンジャーには、1匹1匹それぞれに【守護神マシン】がついているんだ。僕の場合は、【守護神アポロ】。呼べば、すぐに来てくれる。守護神は戦闘機に姿を変えることもでき、我々が操作して敵と戦うことが出来るんだ」


優志「なるほど……」



優志(昔よく観た、戦隊ヒーローの猫バージョンそのもの……ですね)



N「優志は子供の頃、戦隊ヒーローの番組を見てはキャラクターの塩ビ人形やロボットの玩具を親にねだって買ってもらい、コレクションしていた。それぐらい、戦隊ヒーローが好きだったのである。

 目の前にいるのは、戦隊ヒーロー、それも猫の——。そして優志も、そこに仲間入りしてしまった。

 子供の頃の優志は、大人になってからこのような体験をするとは、夢にも思っていなかったであろう」


 

ソール「それぞれの守護神マシンは、合体すれば【スーパー・スターマジンガ】になるんだ」


優志「それは、是非見てみたいものです……!」


ゴマ「何言ってんだ。優志」


 ゴマが口を挟む。



ゴマ「テメエもボクらと一緒に“スーパー・スターマジンガ”の中に入って、敵と戦うんだよ!」


優志「な……本当ですか!?」



N「幼い頃に観た戦隊ヒーローが、巨大ロボで巨大モンスターが戦うシーンを思い出す。

 巨大ロボと言えど、強力な敵の攻撃を受け、ピンチになることもしばしばあった。

 オトヨーク島での戦いは、あくまで夢の中での戦い。しかし、ここは現実世界。地底の国で、喋る猫と一緒に戦うという夢のような状況ではあるが、紛れもなく現実世界である。つまり、本当に命がけの戦いとなる。

 優志はごくりと唾を飲んでから、引き続きソールに質問した」


優志「その“スーパー・スターマジンガ”で、“邪竜パン=デ=ミール”という怪物を倒すんですよね……?」


ソール「いや、倒してしまってはダメなんだ。元は、生物の遺伝子の方向性を司るドラゴン。邪悪な波動を取り除き、のが我々の目的だ。つまり、まずは邪悪な波動の正体を探る必要がある」


優志(戦隊ヒーロー番組では、シリーズ後半にあるような一筋縄ではいかない展開ですね……)



N「邪悪な波動に毒され、ウィルスを変異させて世界中に流行させる“邪竜パン=デ=ミール”を、正気に戻す——。

 その邪悪な波動の正体とは、一体何であろうか——」



ソール「必ず邪竜パン=デ=ミールを正気に戻そう! 明日から、森の奥地にある地下洞窟への探索を開始する。みんな、今日はよく休んでくれ」



N「ソールの言葉で、会議は締め括られた。

 星猫戦隊コスモレンジャーは仮設基地で仮眠を取り、翌日の8時に再び集合。邪竜パン=デ=ミールの棲む地下洞窟へと向かうこととなった」



優志「私も、ここに泊まって良いのでしょうか?」


ソール「ああ。優志くんの寝室も用意させてもらった。地底では昼夜のサイクルが、地上よりずっと遅い。外は明るいままだが、シャッターを下ろすなどして気にせず寝てくれ。集合30分前になったらアラームが鳴るから、起きたらすぐに支度してくれ。それじゃあ宜しく!」


優志「分かりました、お手数おかけてしすみません。あ、ソールさん! 少しの間でいいですから、この地底世界のことをざっくり教えてもらってもいいですか……?」



N「ソールの説明によると、地球は実は、中が大きな空洞になっており、猫だけが暮らす地底世界は、地上世界のにあるという。

 つまり、地球の重力の中心は地殻にあり、今、優志たちは、地上の裏側に重力でくっついてるというのである。


 そして、空洞となっている地球の中心に、地底世界における小さな太陽【セントラル・サン】が浮かんでいるのである。

 つまり、地底世界においての空の上が地球の中心であり、そこにもうひとつの太陽が存在するのだ。


 “セントラル・サン”は、以前は24時間周期で明るくなったり暗くなったりを繰り返す——つまり、地上と同じサイクルで昼夜が訪れていた。しかし近年、天変地異が起きた影響により、そのサイクルが7日周期まで延びてしまったらしい。地底の生態系や、猫たちの健康状態への影響も小さいものではないだろう。

 要は、昼と夜がそれぞれ1週間続くというわけであるが、日数のカウントは、地上と同じ24時間とされている」



優志(少々疲れました。この世界では今は23時ですか……。若い時みたいに無理はできないから、すぐに寝ることにしましょう)



N「部屋にあるシャワーを浴びると、優志はすぐにベッドに横になった」

 

 ♢


稲村「……い、おーい! 起きてくれ! 勇者ミオン!」


 の名を呼ぶ、聞き覚えのある声。

 目を覚まし、体を起こす。視界に入った光景は——コハータ村の隣街、モヤマの宿屋の一室だった。

 つまり、ここは夢の世界。

 しかし、呼び声がする方に目を向けると、意外な人物が、半開きの扉の向こうから大きく手を振っていた」



優志「い、いなちゃん!?」



N「黒々とした短髪。低く豪快な大声。ほんのり匂う酒臭さ。180cmはある身長、はちきれんばかりの脂肪を蓄えた巨体が、かろうじて留められたチェックのワイシャツのボタンを今にもはじいてしまいそうである。

 優志のことを声を掛けていたのは——親友の、稲村いなむら誠司せいじだったのである。

 稲村は、スカした顔をして言葉を返した」



稲村「ノーノー。ここでは俺のことは【リュカ】と呼んで欲しいな、“勇者ミオン様”」



N「悪戯っぽく口角を上げる稲村は、十時のマークのついたコバルトブルーの帽子をかぶってみせた。

 そしてずかずかと部屋に入ってくると、バッグから帽子と同じ色の、十時のマークの描かれたエプロンを取り出し、身につける。

 首には、金色のロザリオのネックレスが輝いていた」

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