第25話〜作曲家の意地〜

N……

優志……

マーズ……

ソール……

ムーン……

ゴマ……

謎の声……



————


N「突然、星猫戦隊コスモレンジャーの剣士マーズに戦いを挑まれた優志まさし

 まさか、猫と戦う——それも等身大の——? 頭の中が整理できない。

 そんな優志のことなど構わず、マーズは突然短剣を取り出し構える。鋭い銀色の刃がギラリと光る」



マーズ「そりゃあっ!」



N「マーズは短剣を、優志目掛けて真っ直ぐに投げつけてきた!」



優志「な……!?」



N「危ない——!

 ソール、マーキュリーは目を覆う。

 が、その時!」



ムーン「やめなさい、マーズ!」



N「ムーンがすかさず立ち上がり、前足の肉球から紫色の光の球を放つと、それを短剣にぶつけた。

 光の球は炸裂、短剣は勢いを失い地面に落下。

 優志は力が抜け、その場にくずおれた」



ムーン「力を貸していただけるというのに、失礼ではないですか? マーズ!」


マーズ「ムーン! これから大事な戦いが始まるんだ! もしこの人間が足を引っ張るような奴だったら困るだろ? だから力を見せろって言ってんだよ! ……さあ優志とやら、外に出ろ。俺と勝負だ!」



N「ムーンに叱責されても、マーズは変わらない気迫で反論する。

 優志は息を整えながら立ち上がり、マーズに尋ねた」



優志「……勝負するのはいいですが、一体どんな勝負をするのでしょう……?」


マーズ「外に出たらルールを説明してやる。さあ、みんなも早く外へ出た、出た! 俺の強さ、よーく見ておけよ!」



N「マーズに連れられ、優志はしぶしぶ仮説基地の外へと移動した。

 星猫戦隊コスモレンジャーも、後からぞろぞろとついてくる。

 基地のそばの木々に囲まれた草地に、全員集合した」



マーズ「ほらよ。コイツで勝負だ」



N「マーズに木刀を手渡された優志。見た目以上に、ずっしりと重い。

 木刀の持ち方を色々試している間に、マーズは地面に大きな円を描いた」



マーズ「この円の中で、どっちかが3回攻撃を当てた方が勝ちだ。木刀で相手を叩いてもいいし、ブン殴ってもいいし、魔法を使ってもいい。俺は魔法は使えねえから、木刀だけで勝負してやる。円から出たら、その場で負けだ。さあ、早速始めるぞ。円の中に入れ!」


優志「わ……分かりました」



N「地面に描かれた円の中で木刀を構え、マーズと睨み合う」



ソール「審判は僕がやらせてもらおう。優志くんもマーズも、いい試合を期待してるぞ!」


ゴマ「優志、テメエ気ぃ抜くなよ。マーズさんはマジで強えからな!」



N「ソールとゴマの激励を受け、唇を噛み締める。既に木刀を握る手には、じわりと汗が滲んでいた」



謎の声『お前には無理ポン。この勝負、負けるポン』



N「またしても幻聴が聴こえてきたが、ハールヤの言葉を思い出し、無視を決め込んだ」


 ♢


ソール「では……勝負、開始!」



N「ソールの掛け声と共に、勝負が始まった。

 1秒も経たぬうち、マーズは体を屈めて優志の近くへと駆け寄る」



マーズ「遅いぜ! そりゃ!」


優志「……あ」



N「衝撃が、右の太腿に走る。

 木刀による一撃に、思わず膝を折る優志」



ソール「マーズ、1点!」



N「矢継ぎ早に、今度はをバシンと木刀で叩かれる」



優志「うぐあ!」



N「右脇腹——そこは、胆石症を患い痛みのあった場所である。ハールヤの施術を受け症状は和らいではいたものの、衝撃を受けるとやはり、鋭い痛みが電撃のように全身を走り抜ける。

 優志は、再び膝を折った」



ソール「マーズ、2点!」


マーズ「どうした。そんなものか、優志!」



N「優志は、持病のことをゴマたちに話してはいない。しかし今それを話してしまうと、とても気まずい空気になるに違いない——。

 後に退けなくなった優志は息をふうと吐き、再び立ち上がる。……が、自分からは攻撃を仕掛けられなかった。

 攻撃を躊躇う理由があったのだ」



マーズ「どうしたんだ。何で攻撃してこねえんだ、優志!」


優志「ね……猫を攻撃するだなんて……可哀想で……出来ません!」



N「そう言った途端、マーズの表情が険しくなる」



マーズ「あ? 舐めてんのか?」


優志「いや……そういう訳では……」


マーズ「この先の戦いは、命がけなんだよ。攻撃してこねえってんなら……」



N「マーズは木刀を投げ捨てると、腰からするりと別の刀を抜いた。

 だ。

 ギラリと光る刃先を、真っ直ぐに向けられる」



マーズ「お前はここで死ぬぞ」



N「刃先を向けたまま、今にも突っ込んで来そうなマーズ。

 意図せず、足がガクガクと震え出す」



ムーン「やめなさい、マーズ!」


マーズ「手ぇ出すんじゃねえ、ムーン!」



N「ムーンの言葉を遮ったマーズは刀を構え、ついに駆け出した!」



優志「……分かりました」



N「覚悟を決めた優志は目を見開き、木刀を左手に持ち替えてから右手をグッと握りしめた。

 右手が、太陽の如く煌々と輝き出す」



優志「“ドルチェ”ッ!」



N「流れ星のような白い光の弾丸が、マーズに向け放たれた。

 だがマーズは、スルリとその弾丸をかわし、距離を詰めてくる」



マーズ「峰で決めてやる。もらったぞ、優志! ……ぐわああああッ!?」



N「マーズの顔面に炸裂したのは、“ドルチェ”——。

 爆竹が弾けるような音が森に響くと、マーズは後ろ方向へ飛ばされ、地面に倒れた」



ソール「優志くん、2点!」


マーズ「馬鹿な……。その魔法、1発目はおとりで、実は3発撃っていただと……?」



N「地面に手をつきながら、悔しげな表情を見せるマーズ」



優志「これでも私は、37年間生きてきました。君たち猫の2、3倍といったところでしょうか。戦いに限らず、私は色々経験を積んできました。動くものに気を取られやすいという君たち猫の習性も……私は良く知ってます。マーズさんが1発目のドルチェを見ている隙に、2、3発目を放ったのです」


 

N「優志は落ち着き払った口調で、そう言い放った。足の震えも止まり、しっかりと地を踏みしめている」



マーズ「へへ……やるな。そうだ。そうこなくっちゃな! さあ! これで互いに後が無くなった。次で絶対に決めてやる!」



N「マーズはよろめきながら刀を拾い、態勢を立て直す。優志も木刀を構え直し、1つ深呼吸をした。


 10数秒間、いや、20秒間ほどだろうか——ビョオオオと、風が吹く音だけが響く」



マーズ「行くぞぉッ!」



N「マーズは刀を構えると、優志の懐目指し、駆け出した。


 森に、弾けるような打撃音が高らかに響き渡る——」



優志「作曲家は、集中力が命なんです。人間の力、見くびらないで下さいね……」



N「膝から崩れ落ちたマーズを見届けた優志は、木刀をトンと地面に突き立てたのだった」

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