第24話

N

優志

ゴマ

ミランダ

ソール

ムーン

マーズ

マーキュリー

ヴィーナス


————


N「ゴマが言う“邪竜パン=デ=ミール”とは、何者なのであろうか」



優志「邪竜パン=デ=ミール? あ、前ちらっと聞いた……」


ゴマ「ああ。【ガイアドラゴン】から教えてもらったんだ」


優志「ガイアドラゴン……ですか」



N「ゴマは貧乏揺すりのように後ろ脚を忙しなく揺すりながら、解説を始める」



ゴマ「“ガイアドラゴン”は、ボクら【星猫戦隊コスモレンジャー】の味方の、機械で出来たドラゴンだ」


優志「ふ、ふむ……?」


ゴマ「で、“邪竜パン=デ=ミール”は、こないだ祝賀会で行った“地底国ニャガルタ”の首都、“ニャンバラ”の地下に眠ってやがったドラゴンだ。そいつが目覚めると、ウィルスとやらが発生して、みんなビョーキになっちまう。すでにボクらの世界でも、が流行り始めただろ?」


優志「まさか……、新型ウイルスが流行り出したのって……」


ゴマ「テメエの察しの通り、邪竜パン=デ=ミールが目覚めたからだ」



N「地底の猫の国に眠っていた謎のドラゴン——“邪竜パン=デ=ミール”。

 悪しき波動に染められたそのドラゴンがひとたび目覚めると、ウィルスを次々に変異させ、世界中に感染症を流行させるという」



ゴマ「ニャンバラでも既に、ビョーキが流行り始めてるんだ。ここ、ねずみの世界はまだ無事だが、いつ流行り出してもおかしくねえ。だからみんなに注意するように言いに来てたんだ」


優志「……私たちは一体、どうすればいいのでしょう」


ゴマ「“邪竜パン=デ=ミール”をために、星猫戦隊コスモレンジャーが対策を立ててる。また戦いが始まるんだ」



N「優志は、新たな戦いの予感に、不安の表情を浮かべた。

 ケタケタと笑いながら立ち上がったゴマに、ボフッと背中を前脚で叩かれる」



ゴマ「なあに、この最強の、暁闇ぎょうあんの勇者ゴマちゃんに任せとけ! ……ん? 優志、お前右手どうしたんだ?」



N「優志の右手が、白く輝き始めている。

 ゴマに言われて初めて、それに気が付いた優志。

 ふと思い立ち、優志はゴマを庭へと連れ出す」



ゴマ「何だ優志、どこへ連れてく気だ!?」


優志「……ゴマくん、ちょっと見ててくれますか?」



N「庭の真ん中で、優志は右手を構える。そして“勇者ミオン”の技の名を叫ぶ」



優志「“ドルチェ”ッ!」



N「優志の右手から白い閃光が放たれ、近くの岩場に炸裂。以前より威力が増しており、岩は白煙をあげながら粉々に砕け散った」



ゴマ「な、何だ、テメエその技は!?」


優志「実は私も、勇者なのです。“勇者ミオン”……私も、戦えます!」


ゴマ「優志テメエ……。一体何者なんだ!」



N「ゴマくんこそ一体何者なんだとツッコみたい気持ちを抑え、優志は“勇者ミオン”になった経緯をゴマに話した。

 腹を括ったためか、先程までの不安は消し飛んでしまっていた。


 夢の中で勇者になったこと——。

 夢の世界で、仲間と共に魔王を倒す旅に出たこと——。

 夢の世界で数々の敵を倒しながら、“生命の巨塔”から奪われた“ゴールデン・オーブ”を取り戻したこと——。

 夢と現実の境界が無くなりつつある影響で、現実世界においても勇者の技が使えるらしいこと——。


 ひととおり説明した優志だが、ゴマは頭の上にハテナマークを幾つも出していた」



ゴマ「よく分かんねえが、テメエも戦えるってこったな。ボクは【転身】したら、相手のステータスを見ることが出来るんだ。優志、ちょっとテメエのステータスを見てやるよ」



N「ゴマは、前脚を天に向けてかざした」



ゴマ「“聖なる星の光よ! 我に愛の力を!”」



N「するとゴマは紫色の光に包まれ、黒い鎧に青色のマントが現れてゴマの体に装着される。次いで刀身の長い剣が現れると、ゴマの腰にある鞘にしまわれた。

 優志は、ただただ目を丸くしながらその様子を見ていた」



ゴマ「【暁闇ぎょうあんの勇者、ゴマ】! どうだ。コイツがボクの真の姿だ。ハハハハ」


優志「ゴマくんが……戦隊ヒーローみたいに変身しました……」



N「信じられぬ光景に、一歩後ずさる優志」



ゴマ「じゃあ今からテメエのステータスを見てやる。どれどれ……?」



N「ポカンと口を開けている優志を凝視したゴマは、すぐに目を閉じた。

 優志の戦闘能力を見ているらしい」



ゴマ「……フン、まだまだひよっこだな」



N「鼻で笑ったゴマは紫色の光に包まれ、元の姿に戻った。

 優志は、勇者としては“まだひよっこ”——」



優志「……ですよね。まだ魔物と戦ったりした経験は浅いですから……」


ゴマ「だが、一緒に戦うってんなら、ボクについて来い。但し、“星猫ほしねこ戦隊コスモレンジャー”に加わりてえんなら、守護神の加護を得られなきゃなんねえ。せいぜい、頑張ることだな。ニャハハハ!」


優志「星猫戦隊って……私も猫になるってことですか……?」


ゴマ「おら、早速ミランダ呼んで、地底国“ニャガルタ”へ行くぞ!」



N「質問を無視し、ミランダを呼ぶゴマ。

 光の中から現れたミランダは空中で8の字を描くように舞いながら、地面にワープゲートを出現させる。


 何も分からぬままの優志はゴマに連れられ、再び地底国“ニャガルタ”を訪れることとなった」


 ♢


ミランダ「はい、サイズ調整終わり。ここでも新型ウイルスが流行ってるから気をつけてね! じゃあね!」



N「ミランダは言い残し、光となって消えて行った。

 ゴマと、猫サイズになった優志は、猫の国“ニャガルタ”の首都“ニャンバラ”の、街外れにある住宅街にいた。

 道行く猫たちはみんな、マスクを装着している」



ゴマ「優志、マスクつけろ」



N「小さなマスクを手渡される優志。ゴマもすぐに、マスクを装着した」



優志「サイズがきついですよ……」


ゴマ「猫用だからな。まあ我慢しろ。さ、“星猫戦隊コスモレンジャー”の仮設基地へ向かうぞ。こっちだ」



N「住宅街から、鬱蒼と茂る森の小道に出る。

 十数分ほど歩いて行くと、青々と茂る木々の上に、ドーム状の大きな屋根が見えてくる。

 森の中の開けた場所に到着すると、そこには外壁が銀色に塗装された、巨大なドームが建てられていた」

 


ゴマ「ここが“星猫戦隊コスモレンジャー”の仮設基地だ。中に入る前に、手ェ消毒しろ」



N「基地の正面玄関にある消毒液を、手に擦り込む。

 自動ドアをくぐると、左右に階段があり、正面には狭い廊下が続く。

 ゴマは、突き当たりの扉を開いた。そこは、部屋の中央に丸テーブルがある会議室のような場所。ニャーニャーと猫の鳴き声が、優志の耳に入る。


 テーブルの周りに、服を着た猫が5匹、座っていた。座っているといっても、ゴマと同じく人間のように椅子に腰掛けている。


 5匹とも、9匹のねずみの家で行われたパーティーと、ニャンバラで行われた祝賀会にいた猫たちであった。

 そして、そのうち1匹は——愛美がゴマと共に飼っている、【ムーン】という名の猫だ。ねずみの家でのパーティで会話を交わした覚えがあるので、優志はすぐに思い出した」



ゴマ「【ソール】さん、戦える人間を連れてきたぜ。チップたちの家でのパーティーの時にいた、優志まさしだ。実はコイツも、勇者だったんだぜ」



N「ゴマが猫たちに優志を紹介すると、額に菊の花のような模様のある白猫、【ソール】が立ち上がって優志の方を見た」



ソール「人間の勇者さんですか! 僕は、星猫戦隊コスモレンジャーのリーダー、ソールといいます! みんな、自己紹介してくれ!」



N「順番に、猫たちが名乗っていく」



ムーン「またお会いしましたね、優志さん。改めまして、【ムーン】です」


マーズ「俺は【マーズ】だ。期待してるぜ、優志! よろしくな!」


マーキュリー「わ……私は【マーキュリー】! き……緊張する……」


ヴィーナス「ふん。私は【ヴィーナス】。別にあんたに助けてもらおうなんて、思ってないから」



N「星猫戦隊コスモレンジャーのリーダーである白猫の騎士、ソール。

 白黒猫の魔導士、ムーン。

 キジトラ猫の剣士、マーズ。

 サバトラ猫の忍者、マーキュリー。

 三毛猫のヒーラー、ヴィーナス。

 そして、白黒猫の“暁闇の勇者”、ゴマ」



優志「このかたたちが……猫さん戦隊……ですか」



N「今後優志は、この猫の戦士たちと共に“邪竜パン=デ=ミール”と戦うことになるというのである。


 ソールの説明によると、星猫戦隊コスモレンジャーにはこのメンバー以外にも、あと7匹のメンバーがいるらしい。

 優志が以前に会った白猫の女の子——“暁光ぎょうこうの勇者”スピカ、ニャンバラの海岸で優志と話したずんぐりとしている体格の三毛猫“ライム”も、メンバーのうちに入る。

 この場にいないメンバーは現在、ニャガルタで感染状況の調査に出ており、ライムだけは基地の厨房でご飯を作っているらしい」



優志「猫さん戦隊の皆様、こんな私でもよろしければ、力になろうと思います。宜しくお願い致します」



N「優志が猫たちに向かい頭を下げた時だった。

 突然、マーズが立ち上がり、腰に付けていた剣をするりと抜いて優志に向ける」



マーズ「優志! 俺たち星猫戦隊コスモレンジャーの仲間になりたいんなら、その力を俺たちに示してみろ!」


優志「……な!? どういうことですか!?」


マーズ「表に出ろってことだ。優志、この“たぎる熱情のソードマスター”、マーズ様と勝負だ!」

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