第19話 かつての勇者の話

N

優志

ラデク

サラー

マイルス

オヤジ


————


サラー「プチアイスー!」



N「サラーの魔法が、〝火炎イモムシ〟に炸裂。水属性の魔法なので、火属性の〝火炎イモムシ〟には効果抜群」



ラデク「僕が新しく覚えた技だ! 必殺、二段斬りッ!」



N「ラデクの目にも留まらぬ2連続の剣技が、〝人喰い花〟にヒット、真っ二つに切り裂かれた。

 隣街モヤマへの道中は、マーカスが言っていたとおり、様々な種類の魔物が闊歩かっぽしていた。

 しかし優志、ラデク、サラーは見事なチームワークで、襲い来る魔物たちを蹴散らしていく」



優志「はあっ!」



N「優志は素早く飛び回る〝ホーネット〟の動きを的確に捉え、レイピアで突き刺した」



優志「今です、サラーさん!」


サラー「行くわよー、マグマの杖ー!」



N「サラーが振りかざしたマグマの杖から火の玉が飛び出し、〝ホーネット〟を直撃、火だるまにした」



ラデク「ミオン様、〝ワーウルフ〟は体力がある! 一緒に一気に攻撃するよ!」


優志「ラデクくん、分かりました!」



N「優志とラデクで立て続けに剣技を決め、3匹で襲いかかってきた〝ワーウルフ〟を一気に倒した。

 直後、優志の右手が茶色く光り始める」



優志「これは……? どうやら、新しい魔法が使えるようになったみたいです……」


サラー「えー、すごーい。ミオン様の魔法、見てみたーい!」



N「隣街モヤマが見えてきた時、巨大な脳ミソに2本の触手と2本の足がついたような魔物〝ヘルブレイン〟が、優志の前に立ち塞がる」



優志「……やってみましょう。〝プチクエイク〟!」

 


N「優志の右手から放たれた茶色い光が地面にぶつかり、〝ヘルブレイン〟の周りに地割れが起こる。

 〝ヘルブレイン〟は何も出来ぬまま、触手を振り回しながら地割れに飲み込まれ、直後、地面は元通りに戻った」



ラデク「すげーっ! ミオン様、さすが!」


優志「戦いを重ねることで、新しい技が身につくようですね。……では、街に入りましょう」



N「モヤマに到着した優志たちは、早速マイルスの家を探すことにした」


 ♢


N「夢の中の世界オトヨーク島で訪れる、初めての街モヤマ。

 街だけあって住宅や商店も多く、人で賑わっている。街の周りは魔物が入ってこないように石造りの高さ5メートルほどの壁で囲まれている。

 街の中心部には教会があり、建物の上部にある鐘塔が、街で最も高い場所である。

 バニー姿のサラーは、道行く人の注目の的になってしまっている」



オヤジ「おう、そこのカワイ子ちゃん! 俺と一杯飲まねえか?」



N「昼間から顔を赤くしているガタイのいいオヤジが、サラーに声をかけ、サラーの背中をぽんと叩いた」



ラデク「やめろよ! サラーに何する気だよ!」



N「臆せずにラデクは、酔っ払いオヤジの手を突っぱねる」



オヤジ「何だぁ、生意気なガキだなぁ」


ラデク「何だと、僕とやるのか⁉︎ 僕は剣士だぞ! 舐めるなよ!」


優志「ちょっとちょっと……、二人とも落ち着いてください。ちゃんと話し合うことが大事です」



N「優志はラデクと酔っ払いの間に入り、二人を落ち着かせると、サラーの前に立ち、再び酔っ払いがボディタッチ出来ないようにした」



オヤジ「ちっ。……お前ら、見たところ冒険者のようだな? そこのカワイ子ちゃんとお喋りさせてくれたら、お前らにとってお役立ちな情報を教えてやろうと思ったんだがな」



N「酔っ払いは、眉間に皺を寄せながら片方の口角を上げ、そう言い放った」



優志「……どうします? ラデクくん、サラーさん」


ラデク「ふーん。じゃあ、サラーに触らないなら、いいよ」


サラー「お喋りくらいならー、いいですよぉー」



N「許しをもらえた酔っ払いのオヤジは嬉しそうに、サラーに近寄った。

 すかさず、ラデクが立ち塞がる」



ラデク「待て! ただし二人きりにはさせないからな。僕たちが見張ってるから」


オヤジ「へぇへぇ。坊主、よっぽどこのカワイ子ちゃんが好きなんだな」


ラデク「あーもう、そんなんじゃないやい! サラーと話したいんならさっさと話せよ!」



N「酔っ払いのオヤジは眉毛をハの字にしながらサラーと15分ほどお喋りをしたのち、満足げに笑いながら優志の前に歩み寄った」



オヤジ「約束だぜ。耳寄りの情報ってヤツは、これだ」



N「優志に渡された、1枚の広告紙。

 そこに書かれていたのは——」


N『双子山の麓の街ウキョーにて、今月引退の海賊団〝キャスター〟主催、〝天下一武術大会〟開催! 優勝者には、海賊団が現役時に使用していた、海賊船が贈られます。開催は10月! 強者求む!』



ラデク「天下一武術大会?」


オヤジ「そうだぁ。冒険者なら、島の外行ってみてえだろ? 今時船なんざぁ、高くて手に入らねえが、こいつぁタダで船が手に入る滅多に無えチャンスなんだぜぇ。ま、お前らが勝ち抜ければの話だがなぁ。じゃあ、俺は行くぜぇ。あばよ!」



N「酔っ払いはカバンからまた酒瓶を取り出し、グイっとやりながら去っていった。

 優志は広告紙を眺めていたが、すぐに折り畳んでカバンにしまった」



優志「今はマイルスさんのところへ急ぎましょう。船は必要になるかも知れないですが、天下一武術大会が開催されるのは、まだずっと先です」


ラデク「そうだね。あーあ、街には変なヤツが多いんだなぁ。サラー、次に絡まれても無視だよ、無視!」


サラー「はぁーい。マイルスさん、確か農家だって言ってたわねー。……この街で畑に囲まれた家は、あそこしかないわー」



N「優志たちは、木々と畑に囲まれた家を目指した。

 畑では、銀髪の老人が作物に水遣りをしている。優志は畑の柵のすぐ外から、老人に声をかけた」



優志「すみませーん」



N「老人は顔を上げ、返事をする」



マイルス「……やっと参られたか。早く中に入るが良い」



N「眉間に皺を寄せながら手招きするその老人は、背筋は真っ直ぐに伸び、言葉もハキハキと話す。

 優志たちは少しばかり緊張しながら、柵にある扉を開け敷地に入り、老人の後をついて行った」



マイルス「入れ、新しき勇者一行よ」



N「囲炉裏のある、和風な木造の家に招き入れられる優志たち。そして囲炉裏の周りに座らされる。

 老人は優志たちにお茶を淹れると、優志の反対側に腰を下ろした」



マイルス「分かっていると思うが、私こそがかつての勇者、マイルスだ」



N「はきはきとした口調で、マイルスはそう言った。

 優志たちは緊張した面持ちで、マイルスの話に耳を傾けた」



マイルス「勇者ミオン……。お主、日本人であるな。ならば話が通じるだろう。……私の前世は、日本人の高校生であった。しかしある日、大型のトレーラートラックに轢かれ、僅か17歳で命を落としたのだ」


優志「前世……ですか」



N「優志は、マイルスの話をすぐには理解出来なかった。とにかくまずは話を最後まで聞くことにした」



マイルス「……その後私は天界にて、女神アイリスに命じられ、勇者としての使命を受け、転生することになった。そしてちょうど70年前……ここオトヨーク島にて生を受けた。私は、戸惑いながらも勇者となり、この〝グランアース〟を冒険し、前魔王ガロアを倒した。以後は世界を回りながら街の復興を手伝い、10年前に勇者を引退して今はこうしてスローライフを送っている。グランアースに長年、平和は続いたのだが……」



N「ゆっくりとした口調、落ち着き払った態度から、かつての勇者の威厳が垣間見える」



マイルス「……悲しいことに、新たな魔王が現れたのだ。しかも今回の魔王討伐は、一筋縄ではいかないであろう。新たな魔王ゴディーヴァの魔力は、


優志「……やはりここは、夢の世界なんですね。それで魔王の力が現実世界に及ぶということは……」


マイルス「現実世界においても、魔族や魔物が現れ、大変な事態が起き始めるであろう。そして行く行くは、。現実で起きたことが夢でも起こり、夢で起きたことが現実でも起こるようになる」



N「その言葉を聞き、優志はハッとした」


————————————————


優志「……ん? ……んん⁉︎」


N「優志は右手に違和感を覚える。

 見ると、右手が白い光に包まれている。身に覚えのある、この感覚」


優志「もしやこれは……。〝ドルチェ〟!」



N「そう言うや否や、優志の右手から白い光の弾丸が放たれる——!

 光の弾はクローゼットに炸裂。クローゼットは粉々に砕け散り、中にあった服までボロボロになってしまった」


————————————————


N「優志は先日、現実世界で、夢の中でしか使えないはずの勇者ミオンの技——〝ドルチェ〟が使えたのを思い出したのである。

 つまり、既に夢と現実の境界がなくなり始めているかも知れないということ——」

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