第18話 50年前の勇者マイルス

N

優志

ラデク

サラー

老父マーカス

メルル(ラデクの母)

村人A

村人B


N「コハータ村に戻ってきた、優志、ラデク、サラー。村に降り注いでいた〝生命の雨〟は、今は完全に降り止んでしまっている。

 魔王軍三幹部により〝生命の巨塔〟が破壊され、〝生命の水〟が全て奪われてしまったためだ」



優志「大丈夫ですか、ラデクくん、サラーさん……」


ラデク「げほっごほっ……。息が出来ない……!」


サラー「頭がー、くらくらするー……」



N「人々の健康の源〝生命の雨〟が止んでしまい、ラデク、サラーの病気が再発。優志の脇腹の痛みも悪化した」



優志「ぐっ……。このままでは……。ん? 宿屋に人が集まってますね……」



N「ラデクの実家である宿屋に、村民たちが集まっている。マーカスの姿もあった。

 何事かと思い、優志は痛む脇腹を押さえながら、ラデク、サラーと共に宿屋へと向かった。

 集まっている村民たちは、顔色も良く、見るからに健康そうであった」



村人A「楽になったあ! 助かった!」


村人B「メルルさん、ありがとうございます!」



N「ラデクの母、メルルにお礼を言う村民たち。

 メルルは——集まって来た村民たちに、あらかじめ蓄えておいた〝生命の水〟を飲ませていたのだった」



マーカス「おお、勇者ミオン様!」



N「マーカスが優志たちに気付き、声をかける」



優志「マーカスさん……!」


マーカス「勇者ミオン様、残念ながら……生命の巨塔の力は完全に失われてしまったようです。さあ、早く〝生命の水〟をお飲みになり、回復なさって下さい!」



N「優志、ラデク、サラーの姿にメルルが気付くと、集まっている村民たちに声をかけた」



マーカス「お待ちの皆様、すみません。世界を救う勇者様を優先して回復させねばなりません」



N「優志たちは、順番を譲る村民たちに頭を下げながら、メルルの元へ向かった」


 

メルル「ラデク……無事で良かったわ。さあ勇者ミオン様、サラーさん、そしてラデク……。早く〝生命の水〟を!」


ラデク「ごほっ……お母さん、ナイスだよ! 早速飲むね! ほら、ミオン様とサラーも!」


優志「ありがとうございます……いただきます」


サラー「助かったわー。いただきまーす」



N「コップ一杯の〝生命の水〟を飲み干した優志たちは、たちどころに症状が快復してゆく」



優志「おお……! ありがとうございます、メルルさん。おかげで痛みが消えました」


ラデク「ふうー……! 息が出来る! ありがとう、お母さん!」


サラー「わあー……頭の中がスッキリしてきたー。助かったー!」



N「優志、ラデク、サラーは、しっかりと身体を快復させるため、そのまま宿屋に泊まることにした」


 ♢


N「翌朝——。

 朝食を摂り、再びコップ一杯の〝生命の水〟を飲む優志たち」



ラデク「お母さん、〝生命の水〟は、あとどのくらい残ってるの?」


メルル「まだ、たくさん残ってるから心配いらないわ。冒険を続けるために、3人分、水筒に入れておいてあげるわね」


ラデク「ありがとう! じゃあ〝生命の水〟が無くなる前に、早く生命の巨塔を直さなきゃね、ミオン様!」


優志「そうですね……。あ、私の分の〝生命の水〟は結構です。私の持病は、元からですので」


ラデク「ダメだよミオン様。痛いのなら冒険に差し支えるじゃん! ちゃんと持って行って!」


優志「そうですね……。すみません」



N「〝生命の水〟を水筒にたっぷり入れ、準備を整えた優志、ラデク、サラー。

 まずはこれからどうすれば良いかを決めるために、マーカスに相談しに行くことになった」



優志「では、行って参ります。ありがとうございました」


ラデク「お母さん、絶対に生命の巨塔を復活させるから!」


サラー「また時々、寄らせてもらうわねー」


メルル「くれぐれも無理しないでくださいね。お気をつけて」



N「優志たちは、マーカスの家へと急いだ。

 果たして優志たちは、メルルが蓄えている〝生命の水〟が尽きる前に、再び〝生命の巨塔〟を復活させることが出来るのだろうか——」


 ♢


N「マーカスの家を訪れた優志、ラデク、サラー。

 こぢんまりとした丸いテーブルの近くでロッキングチェアに座ったマーカスは、彼の娘カレンと共に、温めた〝生命の水〟を口にしていた」



優志「お邪魔します、マーカスさん。娘さんは大丈夫でしょうか?」


マーカス「いらっしゃい。カレンは……一時は高熱で意識をなくしておりましたが、〝生命の水〟のおかげで熱は下がりましたよ」



N「〝生命の水〟のおかげか、カレンの顔色は良く、カレンは訪れた優志たちに微笑みかけながら軽く頭を下げる」



優志「大変な時にすみません。〝生命の巨塔〟から〝生命の水〟が、魔王軍の幹部たちに奪われてしまったせいで……。マーカスさん、私たちはこれからどうすれば良いか、相談に乗っていただけますでしょうか」



N「優志が頭を下げると、ラデク、サラーも続いてぺこりと頭を下げる」



マーカス「隣街モヤマへ行き、マイルスに会われるとよろしいでしょう。マイルスは、50年前に別の魔王がこの世界に現れた時、見事魔王を打ち倒しました。勇者を引退した今は、モヤマで農家をやっております」


優志「かつての、勇者……」


ラデク「凄いや! 僕が生まれる前にも、勇者がいただなんて!」


サラー「ラデクー、はしゃがないのー」



N「かつての勇者——マイルス。

 50年前に、魔王ガロアがオトヨーク島を襲った時、一人で魔王の島に渡り、魔王ガロアを打ち倒したのである。

 彼に会えば、魔王を倒すための知識と知恵が得られるはずなので、彼の住む隣街モヤマへ向かうよう、マーカスは優志たちに助言した」



優志「分かりました。マーカスさん、ありがとうございます。モヤマへはどうやって行けばいいのでしょう?」


マーカス「地図をお渡ししましょう。オトヨーク島全体の地図です」



N「優志はマーカスから、地図を受け取った。

 オトヨーク島は細長い形状の島であり、村が1つ(コハータ村)、街が3つ、そして島の中心部には〝ニジョー城〟と呼ばれる城と、城下町がある。南東には〝双子山〟と呼ばれる山が聳え立つ」



ラデク「ミオン様、早速モヤマってとこへ向かおう!」


優志「そうですね。その前にお店へ寄って、装備を整えませんか?」


サラー「そうねー。もっとキュートでセクシーな装備が欲しいわー」


マーカス「皆様、お気をつけて。モヤマへの道中は、魔物がたくさん出ます。しっかりご準備なさって下さいね」



N「マーカスは玄関の扉まで、優志たちを見送った」



優志「マーカスさん、ありがとうございます。では、行ってまいります!」



N「かつての勇者マイルスに会いに、隣街モヤマへ行くことになった優志、ラデク、サラー。

 モヤマへの道中は強い魔物が棲息している。出発する前に、装備と道具を購入し、しっかりと準備して行こうということになった。

 武器屋では、新しく〝レイピア〟が売られていたので、2本購入」



ラデク「ミオン様、鉄の剣と使い分ければ便利だよ。突く時はレイピア、斬る時は鉄の剣」


優志「なるほど……。さすが剣士を目指してるだけのことはありますね、ラデクくん」



N「さらに、サラーの武器として〝マグマの杖〟を購入。

 何と、マグマの杖を振りかざすと〝プチファイア〟と同じ効果が発動する。魔力の消費なしに、無尽蔵に火属性の魔法攻撃が可能になるのである」



サラー「うふふー。便利な杖ねー。さあ、早く防具屋へ行きましょー。セクシーな装備を探すのよー」


ラデク「サラー、遊びに行くんじゃないんだから!」



N「ラデクは顔を赤らめながら、そう言った。

 防具屋では、優志とラデク用に〝鉄の鎧〟2つ、〝鉄の盾〟2つを購入」



サラー「あらー? これ、すごく欲しいー! これくださーい!」



N「サラーが手に取ったのは——バニースーツだった」



サラー「試着してきまーす!」



N「サラーは嬉しそうに、店内に入っていった。

 無言の優志、顔を赤らめているラデク。


 2分ほど経ち、バニースーツに着替えたサラーが店内から出てきた。

 ぴょこんとした黒いウサミミ。足元から鼠蹊部まで地肌が見える網タイツ。そして巨大な胸の形がしっかりと分かるボディスーツ」



サラー「これ、買いまーす」



N「サラーはバニースーツを着たまま、店員にゴールドを支払う。

 その様子を見た優志とラデクは……」



優志「……ごほん。じ……じゃあモヤマへ出発しますか……」


ラデク「ブフッ……そ、そうだね」


優志「ラデクくん……鼻血出てますよ……」


サラー「あらー? 二人とも、どうしたのよー。体調悪いのー? 〝生命の水〟飲むー?」



N「こんな調子で、伝説の勇者一行は本当に大丈夫だろうか——?」

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