第15話 再発

N

優志

ゴマ

ルナ

チップ

ナナ

ねずみの父ピーター

ミランダ

謎の声

中田幹夫


————


N「鎧を身につけた猫、魔法使いのような姿の猫——。2足で歩く個性豊かな猫たちが、虹色のワープゲートの中へと消えていく。

 優志は不思議そうにその様子を眺めていた」



ゴマ「どうした優志? アイツらとも友達になりたかったのか?」


優志「あ、ゴマくん。あの猫さんたち、みんなゴマくんの知り合いなんですか?」


ゴマ「知り合いっつーか、一緒に戦った仲間……だな。そうだ、まだここにいるボクの仲間たちを優志に紹介してやる。まずはボクの家族からだ」



N「ゴマはピュウッと口笛を吹くと、何匹かの猫がゴマの方を見て手を振った」



優志「ゴマくん、君の家族は愛美さんから聞いてるから知ってますよ。ムーンさん、メルちゃん、じゅじゅちゃん、ユキちゃん、ポコくん、ルナくん……そして、ライムさんですよね」


ゴマ「何でボクの家族の名前みんな知ってんだ! お前、愛美姉ちゃんの知り合いなのか!」


優志「そうですよ。前に言いましたよ、ゴマくん……。あれ、でも黒猫のポコくんがいないですね」


ゴマ「ポコは……ハハ、どこ行ったんだ、アイツ。ま、アイツは恥ずかしがり屋だからな」



N「ゴマはそう言って、顔を背けた。

 優志はくすりと笑うと、服を着て談笑するゴマの家族を不思議そうに見る」



優志「あれ、子猫が3匹……? 新しく生まれた子ですか?」


ゴマ「ああ、ポコとユキの間に生まれた子だ」



N「白いワンピース姿の、ユキという名のサビ柄猫が引くベビーカーの中には、スヤスヤ眠る3匹の子猫」



優志「ふふ、愛美さんに報告しましょう、子猫が生まれたこと……。あ、あそこにいる4匹の、剣や盾とか杖とかを持った猫さんたちも、ゴマくんの知り合いですか?」



N「騎士のような金ピカの鎧を身につけた、額に菊の花のような模様のある白猫。

 真っ赤な鎧に、長い刀身の剣を腰につけたキジトラ猫。

 忍び装束を身につけた、サバトラ猫。

 全身を金色のローブに身を包んだ、三毛猫。

 4匹は、ワープゲートの中へと消えていく」



ゴマ「……あの猫たちこそ、ボクら星猫ほしねこ戦隊コスモレンジャーの、初期メンバーだ。あの4匹に、ムーンさんを入れて全部で5匹で、当初は〝もふネコ戦隊星光団せいこうだん〟と名乗ってたんだ。そして後から、ボクやスピカが加入したって訳だ」


優志「その猫さんたちと一緒に、ニャガルタやねずみの世界を守るために戦ったんですね」


ゴマ「そういうことだ。……お、チップたちがもう帰っちまうみたいだ。優志、見送りに行くぞ」


優志「あ、待ってくださいゴマくん!」



N「9匹のねずみの家族は、今まさにワープゲートに入ろうとしていたので、優志は慌てて駆けつけた」



ゴマ「お、ナナ。今回は泣きべそかかねえんだな」



N「ゴマは、チップの妹のナナと話している」



ナナ「だって、また会えるもん! ミランダさんがいるからね!」



N「笑顔のナナを見てホッとしたチップは、両手を差し出しながら言う」



チップ「ゴマくん! ルナ兄ちゃん! 僕らはずーーっと、1番の友達だよ!」


ゴマ「チップお前、1番の友達は優志じゃなかったのかよ」



N「ゴマと同じ白黒模様であるゴマの弟、ルナは、もう、兄ちゃんたら! と言いながら、バシッとゴマの肩を叩いた。

 それを聞いた優志は、笑いながら話に入る」



優志「あはは、1番がいくつあったっていいじゃないか。難しく考えるのはやめてさ、楽しく行こうよ!」


チップ「うん、そういう事!」


ゴマ「どういう事だよ、全く。ま、それならボクにとっちゃあお前らは……1番の冒険仲間さ!」


チップ「わぁーい! 冒険仲間‼︎」



N「優志は微笑みを湛えながら、チップ、そしてゴマの手をしっかりと握った」



ナナ「あたしもー!」



N「チップの妹ナナも便乗して両手を差し出すと、ゴマの弟ルナはそっとナナの手を取った」



ルナ「じゃあナッちゃんも一緒に、みんなで手つなご!」


ナナ「うん、ルナお兄ちゃん!」



N「ナナにとっては、ルナはお兄さん猫である。ゴマにずっとチビガキ扱いされていたルナは、種族は違えど初めて妹ができたような気分である。

 優志、チップ、ナナ、ゴマ、ルナの手がそれぞれ繋がれ、円になった。

 今ここに、種族を超えた〝〟が、出来上がった——」



ねずみの父ピーター「じゃあねー! ありがとう! 猫さんたち!」


チップ「またねー! 優志兄ちゃんも、元気でねー!」



N「9匹のねずみの家族は、太陽のように眩しい笑顔を見せながら、ワープゲートの中に入っていった。

 優志も笑顔で手を振った。ゴマ、ルナも一緒に手を振る。

 また会う楽しみを胸に——」



ミランダ「優志くん、次はあなたの番よ。あなたの部屋に繋いだから、いつでも準備OKよ!」

 

優志「ありがとう、ミランダさん。……さあ、私もまた現実世界に戻って、元気に頑張りますよ。次会う時は、みんな一緒に冒険しましょう。ありがとう、ゴマくん、ルナくん。また会いましょう!」


ゴマ「ああ、約束だぞマサシ。いつでも待ってるからな!」


ルナ「優志さん、さようならー!」



N「優志も、幸せいっぱいの気持ちでワープゲートの光の中に足を踏み入れた。

 その時だった——」



謎の声『お前はダメだポン。幸せなんて、すぐに途切れるポン』


優志(また聞こえました。久しぶりに現れた謎の声……一体何なんでしょう……?)



N「不審に思いながら、虹色の光の中で景色が変わるのを待つ優志だった。

 光が晴れるとそこは——。

 元の世界、優志の住む部屋。

 本の散乱した、埃臭い寝室。キッチンの、洗い物が放置された流し台。見慣れたアパートの一室だったが、どうも〝帰ってきた〟という感じがしない優志だった。

 日付は12月28日のままである。ねずみの世界で数日を過ごしたのに、現実世界では数時間しか経っていない。時刻は午後6時を回ったところだ」



優志「寒い……とりあえず、シャワー浴びてきますか」



N「立ち上がろうとした、その時だった」



優志「……ん? ……んん⁉︎」


 

N「優志は右手に違和感を覚える。

 見ると、右手が白い光に包まれている。身に覚えのある、この感覚」



優志「もしやこれは……。〝ドルチェ〟!」



N「そう言うや否や、優志の右手から白い光の弾丸が放たれる——!

 光の弾はクローゼットに炸裂。クローゼットは粉々に砕け散り、中にあった服までボロボロになってしまった」



優志「ああ、しまった! また服を買わなければ……って、それより! 何故、夢の中で使っていた勇者の技が、今使えたんでしょう……?」



N「夢の中の世界にて、勇者ミオンだけが使えるという魔法、〝ドルチェ〟。それがどういう訳か、現実世界でも使えてしまったのである。

 優志はひとまずベッドに腰掛け、深呼吸を3回して気持ちを落ち着けた」



優志(ひとまず〝ドルチェ〟のことは置いておいて……ハールヤさんに教えてもらった、〝自然治癒力〟を活かして治療してもらえる医院を探さないと……)



N「バッテリーの切れたスマホを充電器に挿す優志。数分後、画面が点灯する。

 優志の住む京都府の近場で、目当ての医院は見つかるのか——。すぐに検索エンジンで、『自然治癒力 医院 京都』と入力し、検索した。

 ……が、残念ながら近場にそのような医院は存在しなかった。検索結果に出てくるのは、いずれも普通の——現代医学の医院ばかり。

 スクロールした下の方にそれらしき医院が何件かヒットしたが、ほぼ全て東京都に存在していた。しかも保険が利かないため、治療費が高額になる上に——」



優志(何だか怪しいですね……。宇宙エネルギーがどうのこうのって、何でしょう、一体……)



N「胡散臭さ満載であり、これ以上探す気を失ってしまった優志であった。

 せめて少しでも〝自然治癒力による治療〟に近いものをと思い、鍼灸でも試そうかと検索するも、年末のため何処も休業中」



優志(ダメ……ですか。ま、別に今は痛みもないし、放っときますか。それよりもニュース欄に出てる〝新型ウイルスによる肺炎〟ってのが話題ですね。それが日本に入って来たら大変ですね……)



N「結局、〝自然治癒力を活かした治療をする医院〟は見つからなかったが、脇腹の痛みも再発しなかったため、普段通り同級生と会って酒を酌み交わし、年を越す優志であった」


 ♢


N「年が明け、1月16日のことだった——。

『速報・新型ウイルス、国内初確認』

 ニュースサイトに、赤文字で出てきたトピックスを見て、優志は眉間に皺を寄せる」


優志(ついに、日本にも来ましたか……。まあ、ウイルスが広まったりすることは無いでしょう)



N「そう思いながら詳細を知るべく画面をタップする優志。『国内初確認の症状は肺炎、軽快した』と書かれていたが、『新型ウイルスによる肺炎は、重症化速度が速く、死亡例も報告されている』と追記されている」



優志(しかし、もし本当に広まったら大変ですね。ま、それより私は自分の病気を心配しなければ)



N「優志は立ち上がり、冷やしてあった野菜スープを冷蔵庫から出そうとする。

 その時だった」



優志「つうっ……!」



N「左脇腹に、電撃が走った——」



優志(クッ……今になって再発ですか……。薬も飲んでないし、まずいかもしれない……)



N「痛みを我慢しながら野菜スープと冷や飯を温め、冷や飯の上に小魚を振りかけると、優志は夕食を口にし始めた。

 優志の母からもらった野菜スープを飲み込んだ時、優志はふと喉の違和感に気付く」



優志(何ですかこれ……。食べた物が喉を通りにくい気がします……)



N「一気に不安感が増した優志は、すぐにスマホで『喉の違和感 飲み込みにくい』で検索した。

 すると、〝逆流性食道炎、下咽頭がん、食道がん〟などの不穏な病名が次々とヒットする——」



優志(……これ、やばいやつでは……)



N「不安が高じるほど、脇腹の痛みも比例して増してくる。

 すっかり取り乱してしまった優志はすぐにタクシーを呼び、以前搬送された先の病院である松田病院へ直行した」


 ♢


N「検査結果——。

 脇腹の痛みはやはり胆石症。以前よりも悪化していたのである。

 喉詰まり症状については、がんは幸い無く、胃腸炎と逆流性食道炎、そしてストレスによる自律神経の乱れで起こりうる咽喉頭異常感症いんこうとういじょうかんしょうと診断された。

 


中田「薬、一個も飲んでへんやって? ちゃんと飲まなあかんでしょ」


優志「すみません……」



N「担当医はまたも、白衣姿のいかにも昔やんちゃをしてそうな雰囲気の50代前半の医師——中田なかた幹夫みきお

 優志の苦手な医師である」

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