第13話 猫とねずみの祝賀会

N

優志

ゴマ

チップ

ミランダ

グレー猫

市長チュータ

プロキオン総理大臣

ニャルザル国代表オレオ

白衣のねずみ



N「地底奥深くにあるという、猫だけが暮らすもふもふの国——。

 そこで行われていた戦争や災害が収束し、平和が取り戻された記念に開かれる祝賀会に、ねずみたちと猫たちが参加するという。

 共に行くことになった優志は、すっかり夢心地になっていた」



優志「もっとたくさんの喋る猫たちがいるのか……。夢のような国だな……。うーん、本当にこれは、現実なのか……?」


ゴマ「さあ、ミランダを呼んでワープゲートを出してもらうぜ。ワープゲートをくぐれば、そこは猫の国だ。楽しみにしとけ、優志!」



N「ゴマはそう言うと、空に向かって「ミランダ、来てくれ!」と叫んだ。

 金色の光が現れると、チョウのような羽を持つ風の精霊ミランダが現れる」



ミランダ「優志くん、ねずみさんたちとのひと時はどうだった?」


優志「君は、あの時の妖精さん……! ああ、とても充実した時間でしたよ。今からは、猫だけの国に行くんですよね?」


ミランダ「うん! 〝地底都市ニャンバラ〟へ、ワープゲートを繋げるわね。それっ!」



N「ミランダが手に持ったステッキのようなものを振ると、庭の地面に虹色に輝く円形の〝ワープゲート〟が出現した。

 ゲートというより、3Dゲームなどでよく見かけるワープゾーンのようなイメージだろう。

 優志の後ろに9匹のねずみの家族と猫たちが、ずらりと並んでいる」



ゴマ「じゃあ、最初はボクと優志から行くぜ。優志、飛び込め!」


優志「はい!」



N「ゴマと共に、〝ワープゲート〟に足を踏み入れた優志。

 周囲の景色が溶け、光に包まれていく——」


 ♢


優志「す、……凄い。全てが猫サイズの街なんですね……」



N「光が晴れ、優志は周りを見渡した。

 そこは、地底にある猫の街〝ニャンバラ〟。

 しかし地底である筈なのに、空にはオレンジがかった一回り大きな太陽が輝き、空の色はピンクがかっている。

 建物、道路、街灯、全てが猫サイズである。植物は、地上には無い形をしたものばかり。

 だが戦争の後なので、建物のほとんどは崩れ去っていた。祝賀会が開かれるという高級ホテルのような建物だけが、綺麗に残っている。

 全てが猫サイズの街なので、そこでの優志は巨人のようになってしまっている」



優志「……しかし私がこのサイズだと、建物に入れないのでは……」


ゴマ「優志、ミランダに頼んでボクらと同じサイズになるように、魔法をかけてもらえ!」



何「優志の足元で、ゴマがぴょんぴょん飛び跳ねている。

 虹色に光る地面からは、次いで9匹のねずみの家族が到着。ねずみたちも、本来のねずみのサイズになっており、優志の足元をちょろちょろと走り回っていた。

 チップが優志を見上げながら何やらピーピー言っているが、声が小さ過ぎて優志は聞き取ることが出来ない。

 ねずみの世界に来ていた猫たちもみんな到着したのを確認したミランダは、優志のところへと飛来した。

 優志はゴマに言われた通り、サイズ調整を頼むべくミランダに話しかける」



優志「あ、ミランダさん。このサイズだと建物に入れないので……」


ミランダ「優志くん、分かってるわ、優志くんもねずみさんたちも、猫さんたちと同じサイズにするわね! そーれっ!」



N「ミランダが優志と9匹のねずみたちに魔法をかけると、優志はみるみるうちに体が小さくなっていく。ねずみたちは逆に体が大きくなっていき、各々、みんな猫と同じサイズになった。



ミランダ「じゃああたしは帰るわ。あたしのことを知ってさえいたら、人間でも猫さんでもねずみさんでも、あたしを呼んでくれたらいつでも来るからね。〝ワープゲート〟が必要な時は、いつでも呼んでねっ!」


優志「……つまり、私も……ねずみたちの世界へは、〝ワープゲート〟でいつだって行けるということなのでしょうか?」


ミランダ「もちろん! あたしが知ってるところなら、どこへだって行けるわ。ここニャンバラへも、優志くんの家からだって行けるわよ!」


優志「それじゃあ、これからはいつでもチップくんたちに会いにいけるんですね!」


ミランダ「そういうこと! ちなみにねずみさんの世界では体のサイズが勝手にねずみサイズに調整されるけど、ここ猫の国はさっきみたいにサイズ調整が必要だから、覚えといてね。それじゃあまたねー!」


優志「ありがとうございます、ミランダさん!」



N「優志は湧き上がる嬉しさを噛みしめ、先に行った9匹のねずみの家族を追いかけた。

 建物の入り口で、チップくんが待っている」



チップ「優志兄ちゃん! 早く中に入ろうー!」


優志「はい! ……うわあ、本当に猫がいっぱいですね!」



N「建物の中に入った優志。

 ロビーでは様々な種類の猫が、服を着て、二足歩行で歩き、お喋りしている」



ゴマ「んなとこで何やってんだ優志、チップ! 早く会場の中へ入るぞ」


優志「あ、ゴマくん!」


チップ「うん! 早く入ろう! お腹すいたー!」



N「優志とチップはゴマに腕を引っ張られ、祝賀会の会場となる大広間の扉をくぐった。

 周りは、もふもふ、もふもふ——。優志と9匹のねずみの家族以外は、もふもふの猫だらけ——。

 話し声に、ニャーニャーと鳴き声が混ざる。猫好きにとっては天国のような光景だろう。

 いくつものシャンデリアがある高い天井。朱色の絨毯のフロア。白く細長いテーブルには、魚中心のたくさんの料理。

 壁にはビデオカメラが設置され、祝賀会の様子がねずみたちの世界でも放映されるようになっている。

 フロアの端には、学校の体育館にあるような壇があり、マイクスタンドが置かれている。

 チャイムが鳴ると、途端に静かになる。

 程なくして、深緑色の神官服のようなものを着たグレー柄の猫が壇上に現れた。——9匹のねずみの家に来ていた猫のうちの1匹である。

 グレー猫はマイクを手に取り、口を開く」



グレー猫「Chutopiaチュートピア2120にいいちにいぜろ市長チュータ様、ニャガルタ代表プロキオン総理大臣、ニャルザル代表オレオ様、宜しくお願い致します」



N「拍手が巻き起こる。

 ねずみの街——Chutopiaチュートピア2120にいいちにいぜろの市長である、スーツを着こなしたチュータという名のねずみ。

 地底国ニャガルタの総理大臣である、プロキオンという名の白猫。

 ニャガルタの隣国である地底国ニャルザルの代表の、軍服を着こなした背の高いオレオという名のトラ猫——。

 各国代表が壇上に出てくると、マイクが手渡された。

 まずは、ねずみの街代表チュータが、マイクを手に取り口を開く。ミランダによってサイズ調整が行われていたのか、チュータの背丈も他の猫と同じサイズである」



市長チュータ「私たちは、今後も太陽の教えに従い、私どもの住まうこの星と調和し共生する道を歩んでまいります。その教えを胸に、今後は猫族、ねずみ族……共に平和と発展を願い、よろこびに満ちた世界を我々の子孫に残すよう、全力を尽くしてまいります。皆様、今後ともよろしくお願いいたします」


 拍手と歓声。

 次いでマイクは、地底国ニャガルタ代表プロキオン総理大臣に手渡される。プロキオン総理大臣は軽く髭を整え、口を開いた。



プロキオン総理大臣「皆様、お集まり頂きありがとうございます。かつて我々は、利益を優先するあまり、地底の環境を汚染し、罪のない民を巻き込み醜い戦争を繰り返してしまいました。ねずみ族の世界を侵攻した際、ねずみたち、そして猫族の戦士たちは、我々の間違いに気付かせ、正しい道を示して下さいました。次なる太陽の時代では……、地球環境を守り、調和と共生し、恒久の平和を次の世代に残していく、そんな世界を皆様と築いて行こうと思っております」



N「再び巻き起こる拍手と歓声。

 最後に、地底国ニャルザル代表オレオがマイクを手に取り、力強い口調で話し始める」



ニャルザル国代表オレオ「これは、歴史的瞬間だ。強い者のみが勝ち残る時代から、優しき心を持つ者が世界をリードする時代になった。我々は思い知った。いかなる科学技術をもってしても、この地球の大自然は支配出来ない事を。いかなる作戦をもってしても、民の心は支配出来ない事を。その様な事をせずとも、民と共に力を合わせれば、我々は悦びと共に生きていける事に気付かされた。我々は神と、勇敢なる猫の戦士たち、そして我々の罪を許してくれたねずみ族、猫族に、大いに感謝申し上げたい」



N「またも大きな拍手と歓声が起こると、最後にまたグレー猫へとマイクが手渡される」



グレー猫「神様が我々に恩恵を与えてくださっているように、我々も、与え合えば良いのです。そして、感謝すれば良いのです。それこそが、神様のお望みになる世界です……。では、三者、握手を」



N「チュータ、プロキオン総理大臣、オレオの3匹は、それぞれ手を取り合った。

 直後、グレー猫が紫色の飲み物の入ったグラスを掲げ、声を上げる」



グレー猫「それでは、ネズミとネコの友好を祝して、乾杯!」



N「乾杯の音頭と同時に、フロアの猫たちはテーブルの上に並べられた料理を、自分の皿に取り始める。

 壇上では、チュータとプロキオンとオレオが料理を味わいながら、色々と今後の政策についての話し合いや、取り決めが行われ始めた。

 優志はというと——ねずみの国とニャガルタとニャルザルの間で友好が結ばれたのは理解できたが、詳しいことは何も分かってはいなかった。ただ、猫とねずみ、ずっと平和に仲良くしていって欲しいなと願いながら、もふもふだらけの会場を眺めていた。

 それに、この場にいる人間は優志だけ。出されている料理は猫が対象なので、人間が食べて大丈夫か不安なのもあり、ただボーッと眺めているしか出来ないでいたのだった」



ねずみの医師ハールヤ「ああ、ボトルが!」



N「優志の後方で、瓶の倒れる音。

 咄嗟に優志は振り返る。転がってテーブルから落下しようとする、ジュースのボトル。優志は身をかがめ、落下するボトルをキャッチした」



白衣のねずみ「ふう……、良かった。人間さん、ありがとうございます」



N「お礼を言ったのは——白衣姿の、初老のねずみだった。

 ねずみだったが、サイズは猫や優志と同じ。彼も、ミランダにサイズ調整の魔法をかけてもらったのだろうか——?」

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