第11話 みんなでパーティー

N

ゴマ

ムーン

グレー柄の猫

額に菊の花の模様のある白猫

ねずみの父ピーター

ねずみの母マリナ

チップ

 

——


N「猫とねずみのパーティーの、準備が始まる。

 たくさんの猫たちと、9匹のねずみの家族は協力しながら、料理を作ったり、材料の調達に出かけたりしている。

 もちろん優志も一緒に、山芋料理を作るのを手伝った。

 たくさんの料理が置かれた庭の丸いテーブルを、猫とねずみみんなで囲んで座る」

 


ねずみの父ピーター「じゃあ手を合わせて」



N「ねずみのお父さんの号令で、みんなして手を合わせる。猫たちが前脚を合わせた時に、「ぽふっ」と可愛らしい音がする」



みんな「「「「「いただきまーーす」」」」」


 

N「パーティーが始まった。


 猫たちは、川魚の刺身を夢中で口に放り込んでいる。

 9匹のねずみの家族は、木の実のシチューや、山芋の味噌汁など——人間でも食べられる料理も彼らは熟知しているため、優志は安心して料理を口にする」



優志「ふふふ……、何だか夢みたいですよ。ねずみさんだけじゃなく、猫さんともこうしてお話が出来るなんて」


ゴマ「優志、楽しんでるか? いっぱい食ってけよ」



N「ゴマが口の周りに魚の肉片をつけたまま、優志に話しかける。

 優志は改めて、ゴマに尋ねた」



優志「ゴマくん、君が、愛美さんのところの猫なんですよね?」


ゴマ「ん? そうだぜ」


優志「愛美さん、心配してましたよ。ゴマくんが急に消えたって言ってましたから」


ゴマ「もぐもぐ……ああ、そうだな。気が向いたら帰るつもりだ……もぐもぐ、ああ、うめえ! ねずみの母ちゃん、おかわりだ!」


優志「でも、何でここに……?」



N「質問を重ねようとするも、またしてもゴマはお皿を持ってどこかに行ってしまった。

 今度は、ゴマと似た白黒模様の別の猫が、優志に話しかける」



ムーン「優志さん、何か困った事があったら、私どもに言って下さいね」



N「その猫も、優志は見覚えがあった。

 愛美が、ゴマと一緒に可愛がっていた〝ムーン〟という名の猫だったのである。

 しかし今、優志の目の前にいるムーンは、ローブを着てとんがり帽子をかぶった、まるで魔法使いのような格好である」



優志「……あなたは、ムーンさん……ですよね?」


ムーン「はい、私は星猫戦隊ほしねこせんたいコスモレンジャーの副リーダー、〝輝ける望月もちづきの大魔導 ムーン〟と申します。こうしてみんな一緒になれる日が来るなんて、……あの時には思いもしなかったです」


優志「……星猫……戦隊……? 望月の大魔道……? さっきから勇者だとか大魔道だとか……。この猫さんたちは一体……?」



N「優志の頭の中は、クエスチョンマークだらけである。

 しかも——。

 ざっと猫たちを見れば——ゴマ、ムーンだけでなく——稲村家のガレージで、愛美が可愛がっていた猫たち全ての姿があったのだ。しかも、みんな服を着て言葉を話している。


 既読放置状態になっている愛美に連絡をしようと思う優志だったが、今は手元にスマホがなく——というよりもそもそもこの世界で電波が届くわけもなく——連絡が取れないので、元の世界に帰ってから、愛美にこのことを報告せねばと優志は思うのだった」



優志「……いや、どう報告すればいいのでしょう。いなちゃんも愛美さんも、まさか飼ってる猫がみんな服着て喋っていただなんて知ったら、どんな顔するでしょうか……」



N「気付けば料理もほとんど無くなり、パーティーはひと段落ついたようだ。

 深緑色の、西洋の神官服のようなものを身につけたグレー柄の猫が席を立ち、口を開く」



グレー柄の猫「みんな、静かに! いまさっきChutopiaチュートピア2120にいいちにいぜろの市長チュータさんから連絡があって、3日後に、ねずみ族と、地底の猫族が手を取り合った事を記念する祝賀会が行われまーす! 会場は、ニャガルタの首都ニャンバラの中心街のホテルです。是非、みんなも出席しましょう!」


 

N「巻き起こる拍手」

 


優志(

 ニャガルタ? ニャンバラ?

 まるで、地球空洞説でよく言われる伝説の地底世界、アガルタ、シャンバラのような地名じゃないですか。

 まさか、地底奥深くには、猫の国があるというのでしょうか? そんな夢みたいな国、実在するというでしょうか——。

 そもそも、ここは現実なのでしょうか?

 本当に、おかしなことばかり起きますね——)



N「優志は唖然としながら、グレー柄の猫の話を聞いていた」



額に菊の花の模様のある白猫「我々は太陽の祝福を受けし民なのだ。これから力を合わせて、素晴らしい世界を作っていこう!」


みんな「「「「「おーーーー‼︎」」」」」



N「額に菊の花のような模様のある別の白猫が締めの言葉を言うと、全員が大きな拍手をする。

 こうして、猫とねずみのパーティーは締めくくられた」



ねずみの父ピーター「優志くんのベッド、3階のチップのベッドの隣に用意したからね。ゆっくりしてね」


優志「ありがとうございます……」



N「ねずみの父親は、以前に優志が来た時と同じように、優志のぶんのベッドを用意していた。まるで泊まっていくことが当たり前であるかのように。

 1階のテーブルで、ねずみの父親と一緒にお茶を飲む優志。

 35匹もの猫たちは、1階の床で雑魚寝したり、外で寝たりしている」



ねずみの父ピーター「優志くんも、3日後の猫の国での祝賀会、参加するでしょ? その日まで泊まっていってもいいんだよ」


優志「そ、それはさすがに……」


ねずみの父ピーター「ふふ、らしくないじゃないか優志くん。遠慮はいらないよ。せっかくまた会えたんだから。優志くんさえよければだけどね」



N「ねずみの父親は幸せそうな笑みを浮かべてそう言った。

 そこまで言われると、優志は断る気が失せてしまう。

 以前に一緒によく遊んだねずみの子供のチップとナナも、優志と会えて嬉しそうにしていたし、何よりねずみの世界は優志にとって、心からホッとする居心地の良い世界であった」


 

優志「じゃあ、せっかくなのでここで過ごさせていただきますね」


ねずみの父ピーター「うん、ごゆっくりね。じゃあ、寝ようか」


優志「はい。おやすみなさい」



N「コナラの木をくり抜いて作られた、9匹のねずみたちの家。

 1階には居間や台所、大人たちの部屋があり、ねずみ1匹分が通れる大きさの木の扉で仕切られている。

 居間は3階まで吹き抜けになっていて、見上げると2階、3階のフロアが見える。

 2階、3階は居間の面積の半分ほどの、木の枝を敷き詰められた床になっていて、それぞれ木のはしごで繋がっている。


 木のはしごを上って2階に行くと、ねずみの長女モモ、次女ナナ、三男ミライのベッド、そしておもちゃ箱とクローゼットがある。ねずみの子供たちは、3匹ともぐっすりと眠っている。

 3階に上ると、長男トーマスのベッドと次男チップのベッドの間に、優志のベッドが設置されていた。トーマスもチップも、深い眠りに落ちている。

 壁には、子供たちが描いた絵が貼られていた。


 窓から、満月の光が射し込む。

 用意されていた寝間着に着替え、優志はベッドに入った。ふわりと、柔らかな布団が優志の全身を包み込む。子守唄のように、虫たちのが真っ暗な空間に響く。


 ベッドに横になって、数分後」



ねずみの母マリナ「……優志くん」



N「はしごを上ってきたねずみの母親が、優志に声をかけた」



優志「あ……ねずみのお母さん。しばらくお世話になりますね」


ねずみの母マリナ「ふふ、こっちこそよろしくね」



N「ねずみの母親は優志に近づいてしゃがみ込み、そっと優志の頭を撫でる」



ねずみの母マリナ「優志くんにも子守唄歌ってあげるから、ぐっすり眠ってね」



N「そんな、子供ではないんですから……と一瞬思う優志だったが——その直後、優志の中で抑え込まれていた子供心インナーチャイルドが、突然暴れ出した」



優志「……ねずみのお母さん……」


ねずみの母マリナ「ふふ、どうしたの優志くん?」


優志「怖かった……辛かったです……うう……」



N「現実社会の大変さ。世間からのプレッシャー。うまくいかない人間関係。先の見えない不安。いつ再発するか分からない脇腹の痛み——。

 大人になってからは誰も甘えられる相手がおらず、緊張とストレスに満ちた現実生活と戦い続けていた優志。

 そんな生活から解放された優志の目の前には、優しいねずみの母親の微笑む顔。

 抑え込まれ、見て見ぬふりをされていた優志の〝本心〟が、涙と共に、止めどなく溢れ出して来たのである」


 

優志「うう……辛かったです……苦しかった……しんどかった……うあああ……!」


ねずみの母マリナ「よしよし。もう大丈夫だから。優志くんはいい子いい子、ふふふ」



N「ねずみの母親にしがみつく優志。

 小さい子供の頃、いじめられたり怪我をしたり怖い絵本を読んだりして、親や祖父母に泣きついた時と、同じような心情だった。

 あの時だって、まるで底のない無間地獄に引き込まれるような怖さ、そして辛さ、心の痛みがあったのだ。

 その怖い世界から救ってくれるのは——心の故郷ふるさとともいえるような、自分よりも大きな大きな存在。


 ねずみの母親は、今は、優志の中に押さえ込まれた子供の優志インナーチャイルドの、母親代わりだ。「うん、うん。大丈夫よ」と言いながら、しがみつく優志の頭を撫で続けるねずみの母親——。

 優志が落ち着いた頃合いで、ねずみの母親は、いつもねずみのきょうだいを寝かしつける時に歌っている子守唄を、小声で歌い始める。

 涙と共に苦しみが浄化され——優志はそっと、眠りについたのだった」

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