第10話 ねずみと猫たちが仲良く!?

N

優志

ミランダ

チップ

ナナ

ねずみの祖父ダン

ねずみの父ピーター

ねずみの母マリナ

ゴマ


N「12月28日。真冬だというのに、ぽかぽかと暖かな朝のことだった。

 その日も優志は仕事も休み、部屋で好きな音楽を聴きながら、ぼおっと考え事をしていた。


優志『——病気も完治はしていないし、お金も無いです。不安もたくさんあります。しかし、自らの才能を発揮して好きな仕事をしてこれた上に、良き仲間にも恵まれています。幸せな人生になったなとは思えますね。将来のことで口うるさく小言を言ってきた母親とも、今は仲良くやれています。人生においてやりたい事も少しずつやれてますし——』


N「思い切り伸びをして、部屋を出ようとしたその時、優志は気付いた。

 部屋の隅の床が、7色に光っている。

 不審に思った優志は、恐る恐る近づいてみた」



優志「うわあ! 何ですか⁉︎」



N「その光を覗き込んだ時だった。優志の周りを真っ白な光が包む。

 そして光の中から、アニメでよく聞くような女の子の声が聞こえてくる」



ミランダ「びっくりさせてごめんね、優志くん。初めまして」


 

N「何が起きたか分からず、唖然とする優志。

 光が晴れると、そこは——。

 薄暗いジメジメとした洞窟の中に、優志はいた。ひんやりとした空気が、優志の頬を撫でる。

 ——と、優志の目の前に、金色に光るモンキチョウのような生き物が、光を撒き散らしながら飛んできた」



ミランダ「あなたが、優志くんね」


 

N「そのチョウが、優志に話しかける。

 よく見ると、羽以外は人のような姿。耳が尖っており、緑色の薄手の服を着ている。

 優志は、ただただ唖然とする。



ミランダ「あたしは風の精霊、ミランダよ。君の、〝〟という思いを感じ取ったから、試しにワープゲートを開いてみたんだ。びっくりさせてゴメンね!」



N「風の精霊ミランダはそう言うと、光を撒き散らしながら嬉しそうに、優志の周りを飛び回った」



優志「チップくん……? あっ!」



N「優志が大学生の時に見た、絵本の世界に行く夢——小さな小さな9匹のねずみの家族の、自然いっぱいの森の中で生活する様子が描かれた絵本の世界——。

 そこでかつての優志は、ねずみの家族のきょうだいの次男——青いキャップの似合う〝チップくん〟と仲良くなったのだった。

 あの頃は良かった——最近そう思ったばかりの優志。チップくんたちと過ごしたひと時を思い出しながら、洞窟の中を見渡す。そこはどこか、優志にとって見覚えのある風景だった」



優志「思い出しました! この洞窟は、絵本の中の……チップくんたちの遊び場、〝ヒミツキチ〟です‼︎ ……ということは、ここは夢の世界なんでしょうか?」



N「優志は試しに自分の頬をつねってみたが——はっきりとした痛覚を感じた。目は覚めない。

 信じられぬ気持ちになる優志。

 ——チップくんたちと出会ったあの時のことは、夢ではなく現実だったのか——?

 十数年前のその時の感覚が、どんどん思い出されていく。そして若い頃の気持ちが、戻ってくる

 ……ねずみさんたち、みんな元気かな——。

 そう思い、飛び回るミランダに優志は話しかけた」



優志「ミランダさん……? 私が前にこのねずみさんたちの世界に来てからは、15年経ってるんですけど……。ここは15年後のねずみさんたちの世界なのですか?」


ミランダ「15年⁉︎ あたしの時間調整ミスね……。キミが帰ってから十数日後にゲートが現れるよう設定したはずなのに……。だからここは今、君が帰ったあの日から、まだ30日くらいしか経ってないわ。でも、またねずみのみんなに会えるのなら、どっちにしても良かったじゃない。ほら、行っておいでー!」


優志「はい……! ありがとうございます! ミランダさん!」



N「優志は、当時の記憶を頼りに、〝ヒミツキチ〟という名の洞窟の出口へと向かった」


 ♢


N「洞窟を出ると、巨大な草花が優志を見下ろしている。そう、優志は〝ねずみサイズ〟になっているのである。

 優志は若い頃のようにウキウキとした気分で、初冬の野道を歩いて行った。

 程なくして、大きなコナラの木が見えてくる。その木には玄関の扉と、小さな窓がある。この木が——9匹のねずみたち——チップくんたちの家族の住処である。

 ——15年前、9匹のねずみたちとの別れ際、彼らに「ステキな人生を生きる」と約束をしていた優志。そして、「一度元の世界に帰ると、二度とねずみたちの世界には戻って来れない」と、ねずみのおじいさんに聞かされていたのである——。

 しかし、不安はあれど、優志は自身の人生を〝ステキな人生にする〟ことができたから——」



優志「神様からのごほうびとして、またここに来れたのでしょうか」



N「優志はそうつぶやいて、胸を弾ませながら、9匹のねずみの家族の住むコナラの木の、玄関の扉をノックした。

 1分ほど経ったのち、扉が開く。

 扉から、青いキャップをかぶったねずみの男の子——チップが姿を現した。

 その後ろには、オレンジ色の服とスカートを着たチップの妹のナナと、赤いエプロンをつけた彼らの母親の姿」



優志「チップくん、みんな。また会えましたね」



N優志は笑顔をたたえ、チップたちに話しかけた。

 するとチップは目を丸くしたのち、大声ではしゃぎ出す」



チップ「あーーーー! 優志兄ちゃん! やったあ! また会えたよ! ナッちゃーん!」



N「すぐ後ろにいた妹のナナを呼ぶチップ。

 チップの呼び声に気付いたナナは、優志の姿を見るや、喜びの声をあげて駆け寄り、優志に抱きついた」



ナナ「優志兄ちゃん! 会いに来てくれて嬉しい! わーい!」


優志「ふふ、チップくん、ナッちゃん。ちゃんと会いに来ましたよ! ……あれ? 猫さんたちもいますね。チップくんたちの友達でしょうか?」



N「玄関の扉をくぐると、そこには9匹のねずみの他に何と!

 言葉を話す猫が、十数匹いたのである。

 しかも、ねずみたちと同じサイズで、服を着て、二足で歩いている——!

 服を着て言葉を話す猫が何匹もいたのである。そして何故か、ねずみたちとほぼ同じ背の高さである」



優志「は、はじめまして、猫さんたち?」



N「優志は思い切って、すぐ近くにいた白黒模様の猫に話しかけた。

 すると……」



ゴマ「おう、ニンゲン……優志とやら。お前一体どうやって、またここに来たんだよ」



N「白黒模様で、鼻のあたりにちょび髭のような黒い模様のある、白いシャツと青いズボンを着たオス猫が、返事をした。

 なぜこの猫は、優志の名前を知っていて、また、なぜ優志が以前にこの世界に来たことを知っているのだろうか。そんな疑問はさておき、優志は白黒猫の質問に答えるべく、ことの顛末を説明した。

 9匹のねずみの家族も優志の話を聞きに、集まってくる」



優志「……それはですね……」



N「——病気になり不安もあるけれど、〝音楽家になるという夢を叶え、幸せな人生になりつつある〟……そう実感した日に、不思議な7色の光〝ワープゲート〟が部屋に現れ、そこをくぐると、再びこのねずみの世界を訪れることができた、ということ——。

 ——〝ワープゲート〟を作り出した〝風の精霊ミランダ〟によると、優志がたどり着いたねずみの世界は、以前、大学生の頃の優志がねずみの世界から帰った30日後。

 つまり22歳の優志が帰って30日後、37歳の優志がねずみの世界に現れた、ということ——」

 


優志「……というわけなんです」


ゴマ「なるほどな。よくわからねえな」



N「白黒猫が、腕を組んで首を傾げる。

 優志はかまわず、隣にいたねずみのおじいさんに話しかけた」



優志「……おじいちゃん、約束、果たしたよ! あの時からずいぶん、歳を取っちゃったけどね」



N「22歳の時、ねずみたちとの別れ際、〝幸せな人生を生きる〟と約束していたねずみのおじいさんに、右手を差し出す優志」



ねずみの祖父ダン「ああ……、また会えて嬉しいよ、優志くん」



N「ねずみのおじいさんも右手を差し出し、優志は再会の握手をした。

 その様子を見て、相変わらず白黒猫は首を傾げていた。

 今度はねずみのきょうだいの母親が、優志に話しかける」



ねずみの母マリナ「優志くん、何だか痩せたんじゃない? しっかり食べて、元気出さなきゃ。優志くんは今だって、私たちの大事な家族なんだから。ずっと元気でいて欲しいのよ、ふふふ。この後みんなでパーティーするから、たくさん食べてってね」



N「すっかり安心した優志は、子供のような笑顔を見せて返事をする」



優志「はい! ねずみのお母さん、ありがとう。久しぶりの美味しいごはん、楽しみですね」



N「続いて、ねずみのきょうだいの父親が、優志に話しかける」



ねずみの父ピーター「優志くんが来るの、このタイミングで本当に良かったね」


優志「え、ねずみのお父さん、このタイミングで……って?」



N「優志が首を傾げると、チップが笑いながら応える」



チップ「ま、色々あったんだよ。ね、〝ゴマくん〟!」


優志(……ん? ゴマくん?)



N「優志は、先ほど優志に話しかけた白黒猫の肩をポンっと叩くチップを見て、ハッとする。

 ゴマくんと呼ばれた白黒猫も、優志に応える」



ゴマ「……ああ、優志。詳しい事は後で話そう。ボクら猫族がここにいる理由もな!」


優志「……すごく興味あります。是非聞かせて下さい! あ、君の名前は、ゴマくんって言うのですか?」



N「優志は、白黒猫に尋ねる」



ゴマ「ああ。暁闇ぎょうあんの勇者、ゴマだ。しっかり覚えとけ、ハハハ」


優志「……え、勇者⁉︎ 猫の勇者……? どういう事ですか……? ……ていうか、やっぱり君は愛美さんのところの猫だったんですね!」



N愛美に送られてきた写真と同じ柄だったので、この猫が愛美のもとから失踪したというゴマという名の猫だと、優志は確信した。

 愛美の言う通り、確かに言葉を喋っている。



優志「あ、ゴマくん! 愛美ちゃんが心配してましたよ?」



N「優志は話しかけたが、ゴマは既にその場にはいなかった。さすがは猫、気まぐれな生き物だ」



チップ「ねえ、この後は庭でパーティーがあるんだ。優志兄ちゃんも参加するよね?」



N「入れ替わるように、チップが優志に話しかける」


優志「あ……うん。せっかくだから、じゃあ参加させてもらいますよ」


チップ「やったあー!」



N「猫とねずみのパーティーが、この後に庭で始まるという。


 9匹のねずみたちの家の中にいたのは、生まれたばかりの子猫も含めて総勢35匹もの猫たち。

 鎧やかぶとを身につけていたり、魔法使いのようなローブを着ていたり、個性豊かな猫たちが、ワイワイガヤガヤと談笑している。

 そのさまを、唖然として見ている優志であった」

 

 

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