第6話 悲劇
N
優志=勇者ミオン
ラデク
サラー
メルル
ミニドラゴン
ピノ
ミニドラゴン「ギャアーーース!!」
N「ミニドラゴンはギャーギャーと鳴きながら尖ったツメを振りかざし、優志たちを威嚇する。下手に近づくと、鋭いツメに切り裂かれてしまう」
優志「これは迂闊に近づけないですね……」
ラデク「ミオン様、サラー! 魔法で攻撃だ!」
サラー「おっけー……〝プチファイア〟……あれっ?」
N「サラーは杖を振りかざすが、しかし、何も起こらなかった」
サラー「あらー。魔力切れみたいねー……。ミオン様、ラデクー、あとは頑張ってー」
ラデク「っちょ! サラー! マジかよっ!」
N「サラーの魔力がゼロになり、サラーの攻撃手段が無くなってしまった。なので、戦線離脱。離れた場所で座って休んでもらうことになった」
優志「ならば、私が! 〝ドルチェ〟!」
N「優志の〝ドルチェ〟が、ミニドラゴンの腹部にヒット! 煙が上がり、よろめくミニドラゴン」
ミニドラゴン「グルルル……ギャァーーース!!」
N「態勢を立て直し、こちらをひと睨みしたミニドラゴンは、大きく口を開け、ドッジボール大の火の玉を3つ、吐き出してきた」
ラデク「こいつ炎を吐くぞ!」
優志「うわあっ‼︎」
N「すぐに回復できるとはいえ、まともに食らったら大火傷だ」
優志「もう1発、……〝ドルチェ〟ッ……。ん? 魔法が出ない!」
ラデク「何だって⁉︎ ミオン様!」
N「さらに悪いことに、優志の魔力も底をついてしまったのである。
物理攻撃で戦うしかなくなった優志とラデクは、銅の剣を構えた」
ミニドラゴン「グギャオオオン……!」
ラデク「クソーーッ! 素早い!」
優志「……近づくのも、難しそうですね。ラデクくん、気をつけて下さい!」
N「おまけに、ミニドラゴンは羽を使って飛び回り、優志たちの攻撃をするりとかわしてしまう。
離れていても火の玉を喰らうし、近づくと鋭いツメの餌食だ」
サラー「二人ともー、頑張ってー」
ラデク「クソォッ! サラー、何か案無いか⁉︎」
サラー「うーん……。相手の動きを止められればねー……」
優志「動きを止める……?」
N「サラーの言葉を聞いた優志は、何かを閃いたようである」
優志「動きを止める……、そうか! なら、一か八か、試してみましょう!」
ラデク「ミオン様! 何する気なの⁉︎」
優志「10数年鍛えた、私の作曲術……見せてさしあげます!」
N「優志はミニドラゴンから距離を取り、目を
優志はプロの音楽家であり、主に作曲を担当している。長年の夢叶って、プロになることが出来たのである。まさかその作曲能力を戦闘で使うことになるとは、優志本人は思ってもみなかったのである。
目を閉じ、脳内にメロディが浮かぶのを待つ優志。1分後、優しい子守唄のメロディと歌詞が浮かんでくる——。
優志は目を開き、息を大きく吸い、心に浮かんだ歌をアカペラで、歌い始めた。
その優しい声は、遠くの山々までこだまし、響き渡る——」
ミニドラゴン「……グ……グゴゴゴゴ……」
N「するとミニドラゴンは、着地して羽を休め、そっと目を閉じたのである」
ラデク「ミオン様、すごいや。そんな技が使えるなんて……でもやべえ、僕まで眠くなってきた……」
優志「あっ……ラデクくん⁉︎」
N「何とラデクまでも、地面にへたり込んで眠ってしまった。振り返ると、サラーも岩にもたれかかってぐっすりと眠っている。
優志は剣を構え、眠るミニドラゴンを攻撃しようとした。……が、あまりに気持ち良さそうに眠るミニドラゴンの顔を見て、優志は剣を鞘にしまった」
優志「……倒すのはちょっと可哀想ですね。眠っている隙に、ゴールデン・オーブを持って行けないでしょうか。でもあの大きさですからね……」
N「優志は、直径約5メートルある2つのゴールデン・オーブの近くに、足を進めた。
そっと、ゴールデン・オーブに触れる優志。
すると——!」
優志「……んっ⁉︎」
N「2つのゴールデン・オーブは、金色に輝き出す。
するとゴールデンオーブがみるみるうちに小さくなっていき、2つとも直径10cmほどの大きさになった。
優志は、小さくなったゴールデン・オーブを拾い上げる」
優志「……何とも不思議ですね。でもこれで、ゴールデン・オーブを取り戻せた……のでしょうか。ミニドラゴンが目覚める前に、2人を起こして帰らないと!」
N「優志は、大の字になって寝ているラデク、岩にもたれたまま寝ているサラーを起こし、手にした2つのゴールデン・オーブを見せる」
ラデク「……んんん……? 僕、寝ちゃってたの……? あっ! それはゴールデン・オーブ! 取り戻せたんだね! でもどうやって小さくしたの?」
サラー「あれー? 何でだろー、私寝ちゃってたー。あ、ゴールデン・オーブを取り返したのねー。やったじゃーん」
優志「私の歌でミニドラゴンを眠らせたんですが、あなたたちまで眠らせてしまいました……すみません。その隙にゴールデン・オーブを取り返したんです。触れると、オーブは小さくなっていきました。……ですが、ミニドラゴンは倒してないんですよ。眠っている隙に、帰りましょう」
ミニドラゴン「グゴオオオオオ……」
サラー「じゃあー、〝ワープゲートの素〟で、コハータ村に帰りましょー」
N「村で購入した〝ワープゲートの素〟。
玉の形をしたそのアイテムを地面に投げると、虹色の空間が現れ、そこをくぐると今まで行った場所ならどこへでも行けるという、便利なアイテムである」
サラー「……それー!」
N「サラーは〝ワープゲートの素〟を地面に投げた。玉が割れ、虹色の空間が現れる」
優志「これで、また魔物だらけの洞窟を通らずに済むわけですね」
サラー「そういうことー。じゃあ、コハータ村へー!」
ラデク「レッツゴーだ!」
♢
N「コハータ村の門の前にワープした3人。時刻は、午後5時頃」
ラデク「それにしてもサラー、あの金の扉、気になるよね! 宝でもありそうだよ。鍵がかかってたよね、確か」
サラー「そうねラデクー。また別の日に、鍵を探しましょー」
N「〝竜の洞窟〟の出口付近にあった金の扉も気になるところだが、今はゴールデン・オーブを生命の巨塔に戻して、生命の巨塔を直すことを最優先しなければならない」
サラー「じゃあー、今日はもう暗くなるしー、一旦解散するー?」
優志「私は宿屋に行きます。皆様はどうします?」
サラー「私は家に帰りますー。貧血の薬も飲まなきゃだしねー。ラデクはどうするのー?」
ラデク「ぼ……僕はミオン様についていく! お母さんにも顔見せたいし!」
N「そう言うラデクの顔が少し残念そうなのを見て、優志はフフッと笑った」
優志「じゃあ、今日はゆっくり休んで、明日朝8時に集合にしましょう。このゴールデン・オーブを持って、ダイゴの森を抜けて生命の巨塔へ行きましょう」
サラー「はーい。じゃあねー、ラデクー、ミオン様ー」
ラデク「サラー、夜更かしせずにちゃんと寝ろよ! さ、行こ! ミオン様!」
N「優志はラデクと一緒に、宿屋へと向かった」
♢
N「朝7時40分。
宿屋の食堂でピザトーストを
メルル「ほんとに、2人とも無事で良かったですよ。ありがとうございます、ミオン様」
N「ラデクの母親メルルに頭を下げられる優志。何度かピンチには遭ったが、ラデクの無事な姿をメルルに見せることが出来た。
しかし、まだこれで終わりではない。
今日はいよいよ、2つのゴールデン・オーブを、生命の巨塔へ返還しに行くのだ。
道中のダイゴの森には
優志「生命の巨塔にゴールデン・オーブを返還するまで、ラデクくんは必ずお守りします!」
ラデク「ミオン様、ちゃっちゃと終わらせちゃおうぜ! じゃあ行ってくるよ、母さん!」
メルル「ラデク、念願の勇者様との冒険……叶って良かったわね。気をつけて行ってきてね」
N「朝8時——。
サラーと合流した優志、ラデクは、村内の店へと向かった。新しい武器と防具が仕入れられたとのことだ。
メルルがお小遣いとして優志たちにくれた
ラデク「これで、どんな敵が出てきてもへっちゃらだぜっ!」
サラー「塔へは森を抜けてすぐだけどねー。でもー、念には念をー、ねー」
優志「そうですね。気を抜かずに行きましょう。では、ダイゴの森へ出発しましょう」
♢
N「優志たちは、ダイゴの森へと足を踏み入れた」
ラデク「森が……枯れ始めてる」
N「緑いっぱいだった森の木の葉はほとんどが黄色くなり、幹が腐り落ちて倒れてしまった樹木もある。森の動物の死骸もそこかしこに見受けられる。なのに、スライムやガイコツなどの魔物だけは、元気に動き回っている」
ラデク「急がなきゃね。勇者ミオン様、一気に森を抜けよう!」
優志「……そうですね!」
N「3人は襲い来る魔物を避けながら、森の出口を目指して走った」
優志「……森を出ましたね。ラデクくん、喘息は大丈夫ですか?」
ラデク「ハァ、ハァ……。昨日よりはマシだよ。ミオン様の〝プチヒール〟のおかげさ、へへっ」
サラー「さあー、早くゴールデン・オーブを塔に戻しましょー!」
N「生命の塔は相変わらず無惨な姿で、塔の根本には、崩れたレンガの山があった。
優志は鞄から2つのゴールデン・オーブを取り出し、崩れ落ちた塔へと駆け出した。
その時だった——!」
ピノ「あんたたちぴのね! せっかく回収したゴールデン・オーブを持ってったのは! 許さないぴの!」
N「崩れたレンガの山から、可愛らしい声が響いた」
優志「……ん? 誰でしょう?」
N「優志は目を凝らすと、レンガの山の上に、ハムスターのような大きさと姿で、しかし頭にはウサギのような形の耳を持ち、目がクリクリとした黒色の体毛の、謎の生物がピョンピョンと飛び跳ねているのを発見する」
ピノ「魔王様の手先、〝ピノ〟だぴの! 魔王様の命令で村の奴らを病気にするために、せっかくゴールデン・オーブをミニドラゴンに運ばせたのに! お前たち、ぶっ潰すぴのー!」
N「ピノは飛び跳ねながらそう言い放つと、突然、優志たちの目の前の地面が割れていき、地中から直径4mほどの四角形の台座に載った、巨大なビーム砲台が現れた」
ラデク「何なんだあのチビは! そして何なんだよこの兵器は‼︎」
サラー「装備ー、整えておいて良かったわー。念には念をってー、大切ねー!」
優志「……すごく危なそうな兵器ですね……。ラデクくん、サラーさん、気をつけましょう!」
N「ビーム砲台はウィーンと音を立てて自動的に動き、サラーに狙いを定めた」
ピノ「キャハハ! 〝サイクロン・ジェット・キャノン〟、ファイヤーぴの! どっかーーん‼︎」
N「ビーム砲〝サイクロン・ジェット・キャノン〟は砲身にエネルギーを溜めていき、青白く輝く光線を、サラー目掛けて放射した——!」
ラデク「……サラー、危ないッ!」
サラー「ラデクー⁉︎」
優志「ラデクくんっ!」
N「ラデクは革の盾を構え、サラーの前に飛び出した!
光線がラデクにヒットする——!
爆発が起き、いくつもの火花が飛び散る。爆発の衝撃で優志、サラーは吹き飛ばされた」
優志「くっ……ラデクくん!」
サラー「ラデクぅーーーー‼︎」
N「煙が晴れると——そこには血を流して倒れているラデクの姿」
優志「ラデクくん! しっかり……〝プチヒール〟!」
N「優志はラデクの元へと駆け寄ると、手をかざし、エメラルドグリーンの光をラデクに当てる。
目を覚ましたラデクはガクガクと震えながら頭だけを上げ、口から血を流しながら言う」
ラデク「サ……ラー……は……無事……?」
N「優志は目に涙を溜めながらラデクの頭を支え、エメラルドグリーンの光を必死に当て続ける。
サラーはその後ろで、両手で顔を覆って震えていた」
優志「ラデクくん……! ラデクくんは、サラーさんのことを本当に大切に想ってるんですね……!」
ラデク「そ……そんなんじゃないやいッッ! ……ぐふっ」
優志「ラデクくん⁉︎」
サラー「ラデク……? 嘘でしょー? ラデクーーーーッ‼︎」
N「優志の必死の介抱も虚しく——ラデクはそれから目を開くことも口を開くことも、なかった」
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