第4話 少年ラデクと巨乳美女サラー

N

優志=勇者ミオン

マーカス

メルル(ラデクの母)

ラデク

サラー


——


マーカス「お疲れのようですな。ワシの家で休んでもよろしいですが、コハータ村の〝宿屋〟には美味しいご飯があります。勇者ミオン様、いかがなさいますか?」


優志「……では、お腹も空いたので、宿屋にしましょう。腰の方は大丈夫ですか?」


マーカス「今は平気です、ありがとうございます。では、宿屋に向かいましょう」



N「コハータ村に戻った優志とマーカス。2人は、丸太を組んで出来たログハウス風の、2階建ての宿屋に到着した。

 扉を引くと、チリンチリンと鈴の音が鳴る。

 フロントにいたのは、10歳ほどの金髪の少年」


 

ラデク「……あ! お客さんだよ、お母さん! ……ゲホゲホッ」



N「少年はそう言って、フロントの奥の階段を上って行った。

 壁には、マーカスが優志に見せたものと同じ〝勇者ミオンの絵〟が飾られている」

 


マーカス「……あの少年も、何かしらの病を抱えているみたいですな。一刻も早く、ゴールデンオーブを取り戻し、生命の巨塔を修復せねばなりませぬ」


優志「……はい」



N「優志は下を向き、ため息をついた。

 階段を、ゆっくりと下りる足音が聞こえてくる」



メルル「お待たせして、すみません。お二人ですか? すぐにお部屋の支度しますね」



N「少年の母親が、少年と一緒に階段を下りてきた。母親の片方のふくらはぎが、腫れて膨れ上がっている。

 それを見た優志は再びうつむく。

 自分は本当に、〝勇者ミオン〟としての務めを果たすことができるのか——。自分なんかには無理なんじゃないか——。

 疲れもあって、考えがどんどんマイナス思考になってしまっていた。

 少年の母親は足を引き摺りながら、再び階段を上っていく。先にドタドタと階段を昇って行った少年の声が、2階から聞こえる」



ラデク「お母さん、ベッドとか用意しとくね! ゲホッ……」



N「2人とも辛そうなのに——。

 優志は手伝おうと、慌てて階段を上ろうとしたが、マーカスは引き止める」



マーカス「勇者ミオン様、無理をしてはなりませぬ。もし勇者ミオン様がここで倒れられては、他に〝生命の巨塔〟を直せる者はおりませぬ。どうか、お休みになることを優先してください」


優志「……分かりました、すみません」



N「掛け時計の長針が2つ進み、午後5時の鐘が鳴った。

 少年と母親が再び階段を下りてくる」



メルル「お待たせしました。お部屋の支度が出来ましたので、どうぞお休みください。食事の時間は午後6時半ですので、時間になりましたら1階の食堂にどうぞ。棚の中にはお着替えもご用意しております。それではごゆっくり」



N「優志とマーカスは靴を脱ぎ、2階へと向かう。

 少年はじっと、優志の顔を眺めている」



ラデク「……あの顔、もしかして……!」


 ♢


N「ドアを開けたら、そこは木の匂いがする4畳くらいの部屋。ベッドが2つ、丸いテーブルが1つ。ふかふかのソファに、ロッキングチェアもある。

 優志はまず鎧を脱ぎ、その下に着ていた汗臭くなった服を着替えようと、部屋の端にある洋服棚を開けた。

 するとそこに、金貨1枚が入っているのを発見したのである」



優志「……こんなところにお金が?」


マーカス「おお、ラッキーですな。もらっておくが良いですぞ」


優志「えっ、そ、それは……」



N「他人の家にあるものを勝手にもらうのは泥棒である。優志は自身の良心に従い、金貨を棚に戻した。

 着替えを済ませ、ベッドに横になる優志。マーカスはロッキングチェアに揺られながら、パイプをふかしている。

 タバコの煙が苦手な優志はため息を一つつき、窓を開けた。


 1時間ほど経った頃。

 コンコンと、扉をノックする音が聞こえる」



優志「はーい」


 

N「優志は立ち上がり、扉を開けた。

 そこには、先程の少年が立っていた」



ラデク「おじさん、〝勇者ミオン〟様でしょ⁉︎」


 

N「少年は無邪気な笑みを浮かべながら、優志に話しかける。

 優志が〝勇者ミオン〟であることは確定事項なので、ためらうことなく優志は頷いた」



優志「ええ、そうですよ」


ラデク「やっぱり! 伝説の勇者様が来てくれたんだ! 僕とお母さんの病気も治るんだ! やったあー! ……ゲホッゲホッ!」


優志「……だ、大丈夫ですか?」



N「途端に咳き込む少年。喉からヒューヒューと喘鳴ぜんめいがする。

 優志は、この少年が喘息ぜんそくであることを理解した。

 喘息は重症化すると、命に関わる病気。優志は喘息に罹ったことはないが、その大変さはある程度、理解していた」



ラデク「……大……丈夫。僕はラデク。いつか、〝伝説の勇者様〟と冒険をしたいと思ってたんだ……ゲホッ。その日が来るまで、剣術を練習してて……。やっと、夢が叶うんだね!」


優志「ラデクくん、よろしくお願いします。私と冒険がしたい、と……?」


ラデク「うん! 聞いて、勇者ミオン様! 村はずれにある〝竜の洞窟〟に向かって、ドラゴンが空を飛びながら金色に光る玉を運んでいったのを目撃したんだ! あれ、絶対〝生命の巨塔〟にあった〝ゴールデン・オーブ〟だよ! ねえ、一緒に取り返しに行こうよ‼︎」



N「勇者ミオンと共に冒険できると知り、途端に、元気になる少年ラデク。

 ロッキングチェアから腰を上げたマーカスも口を開く」



マーカス「勇者ミオン様、良かったじゃないですか。はじめての〝仲間〟ですぞ」


優志「……しかしこんな子供が、命懸けの旅に……」



N「ラデクの眼は、キラキラと輝いていた。優志は、こんな子供に危険な旅をさせて良いのか心配だったが、その眼力に押され、渋々了承した」



優志「わかりました。お母さんに聞いて、OKなら一緒に行きましょう」


ラデク「やったあ! えっとね、知り合いにサラーっていう魔法使いのお姉ちゃんがいるんだ! 明日、誘ってみるね!」



N「そう言ったラデクのテンションは、さらに上昇する。ちょっと顔が赤くなっている。「子供ってやっぱり、無邪気で可愛らしいな」と思う優志と、「ははーん、なるほど」と思うマーカスだった」



ラデク「えへっ! 勇者様と冒険、楽しみだなあ……! あ、そうだ。もう夕ご飯の時間だった! 食堂に案内するね!」



N「顔を赤らめたまま、嬉しそうにしているラデク。

 優志の後ろからマーカスが、そんなラデクをからかう」



マーカス「ほっほ、やはりラデクくんはサラーさんのことが大好きなんですね」


ラデク「ちょっ……! そんなんじゃないやい! もうっ早くご飯食べに行くよっ!」



N「ラデクはバタバタと階段を下りて行ってしまった」


 ♢


N「美味しそうな匂いに満たされた、1階の食堂。

 ラデクの母親メルルが作った夕ご飯のメニューは、特製デミグラスソースのかかったチーズ入りハンバーグに、キャベツのサラダ、皿に盛られた炊きたてライス。

 四角いテーブルの上に4人分、用意されていた」



ラデク「どう? 勇者ミオン様! おいしいでしょ?」



N「ラデクが、優志の目をじっと見ながら言う。

 普段インスタント食品ばかり食べていた優志は、ラデクの母親手作りの料理の味に、ただただ感激していた」


 

優志「いやあ、これは美味しいです……。ところでラデクくん、さっきの〝竜の洞窟〟とは一体?」


ラデク「マーカスおじちゃん、説明してあげて!」



N「ラデクに話を振られたマーカスは、赤ワインをクイッと飲んでから答える」



マーカス「村から徒歩15分のところにある〝竜の洞窟〟は、現在は魔物の巣になっており、立ち入り禁止区域です。かつては、村の若者が修行のために使っておりました。〝竜の洞窟〟の奥にある〝精霊石〟を採取してきて、初めて自立した大人として認められていたのです」


優志「マーカスさんも、昔は〝竜の洞窟〟で修行を?」


マーカス「ええ、行きましたとも。しかし、今はすっかり魔物が蔓延はびこるようになり、その制度は廃止され、立ち入り禁止になりました。しかし、〝ゴールデン・オーブ〟が〝竜の洞窟〟に運ばれて行ったからには、勇者ミオン様! ここは行くしかありませぬぞ!」


ラデク「うん! 大丈夫、僕もついてるから! それに、サラーの魔法があれば、無敵だい!」



N「意欲満々のラデクの顔を見た優志は大きく頷き、ハンバーグの最後の1かけらをフォークで突き刺した」



優志「……分かりました。それが私の使命なのであれば……、精一杯やらせていただきます」



N「そう言って口にハンバーグを放り込む優志。

 マーカスはまた赤ワインをグラスに注ぎながら言う」



マーカス「村の者には、ワシから話をつけておきましょう。勇者ミオン様がいれば、魔物など怖くはありませんぞ」


ラデク「ゲホッ……僕も頑張るから!」



N「……ということで、まずは生命の巨塔より持ち去られた2つの〝ゴールデン・オーブ〟のうちの1つを取り戻すため、〝竜の洞窟〟に向かう方針に決まった」



優志「ごちそうさまでした。美味しかったです」


マーカス「いやあ、メルルさん。美味いワインでしたよ。また飲みに来ます」


ラデク「お母さん、ごちそうさま! ……あ、お母さん! えっと……」



N「ラデクは優志とともに旅に出ることを、母親メルルに伝えた。

 メルルは、快く承諾した」



メルル「心配だけど、ラデクの夢だったものね。応援するわ。気をつけてね」


ラデク「やったあー! じゃあ、勇者ミオン様、よろしくね! ……ゲホゲホッ」


優志「……ラデクくん、一緒に頑張りましょう。でも、無理はしないで下さいね」



N「ラデクが、こうして仲間になった。

 ラデク、11歳、勇者ミオンと旅に出ることをずっと夢見ていた少年剣士。

 これは命懸けの旅——ラデクをしっかり守って、無事にこの宿屋に帰すことを、優志は誓った。

 満天の星空の下の、コハータ村。ただただ虫の声と、時折吹く風の音だけが聞こえる」



マーカス「ではワシは、そろそろ帰ります。娘の様子も見なければなりませんから」


優志「そういえばマーカスさん、娘さんは胃腸炎で熱を出していたって……一人にして大丈夫だったのですか?」


マーカス「日に2回、医者様が来てくださってますので、ご心配なく。また何かあったら、いつでも訪ねてきてください。それでは勇者ミオン様、ワシはここで失礼致します」



N「夜9時半。優志は玄関までマーカスを見送る。メルルとラデクは1階の部屋に戻り、寝る支度をしている。

 1人、部屋に戻った優志。

 怖いぐらいの静寂。

 不安もあるし、脇腹の痛みも相変わらずだが、優志は疲れた頭で考えるのをやめ、お風呂に入ってすぐに眠ることにした」



N「翌朝——。

 カーテン越しに入り込む陽射し、ふんわりと優志を包み込む木の匂い。

 優志は目をこすりながら窓を開けた。澄んだ空気が、風に乗って部屋に入ってくる。

 ノックの音。すぐにドアの向こうからラデクが姿を見せる」



ラデク「ゴホッ……勇者ミオン様、おはよう!」


優志「ん……おはようございます、ラデクくん」


ラデク「パン焼けたから、食べに行こ!」



N「食堂で朝食のバタートーストとスープを、メルル、ラデクと共に食したら、いよいよ出発の支度だ」



メルル「気をつけてね、ラデク。無理しないでね。勇者ミオンさん、どうかラデクをよろしくお願いします」


ラデク「お母さん、絶対村のみんなの病気を治してみせるから!」


優志「はい! しっかりラデクくんを守って、無事に帰ってきます」



N「笑顔で見送るメルルに一礼し、優志は宿屋の扉を閉めた。チリンチリンと鈴の音が鳴る。

 まずは、ラデクの知り合いである魔法使いのサラーに会いに行くところからだ。

 コハータ村の門から一番遠く離れ、畑に囲まれた木造の民家に、優志とラデクは足を進めた。

 到着し、ラデクは玄関のドアを叩く」



ラデク「サラー、来たよ、ラデクだよ。サラー!」



N「だが、返事がない」



ラデク「おかしいなあ。ドアが開いてるから、入ろう」



N「ラデクはドアをバタンと開け、家の中に入って行った。優志はその後を追って中に入る」



ラデク「え、サラー……?」



N「そこでラデクと優志の目に映ったのは、床に横たわったまま動かない、ブロンドのロングヘアの女性だったのだ」



ラデク「サラー! サラー‼︎」



N「ラデクは慌てて、女性のもとに駆け寄った」



ラデク「サラー! しっかりしろ、サラー!」



N「目に涙を浮かべながら、サラーという名の女性をゆするラデク。

 すると何と!

 サラーは勢いよくむくりと起き上がり、突然ラデクをぎゅーっと抱きしめたのである」



サラー「あらー、ラデク! 会いに来てくれたのー?」



N「サラーは見た目20歳ほど、ブロンドのロングヘアに色白の肌、身長は165センチあたりだろうか。そして—— Gカップ以上はあるであろう巨乳である。

 ラデクの顔面は、そんなサラーの巨乳に埋もれてしまっている!」



ラデク「ちょっと! 息ができないー!」



N「苦しそうにもがくラデクを、全く気にせずに抱きしめるサラー。

 壁に飾られた、凛々しい表情の勇者ミオンの絵。それとは対照的に、本物の勇者ミオンは目のやりどころに困っていた」



サラー「ごめんねー、また貧血の発作が出ちゃったのー。もう大丈夫よー」


ラデク「っぷはあ! もうサラー! 何してんだよ! まったく! 心配したじゃん!」


サラー「で、こんな朝からどうしたのー?」



N「ラデクは、隣にいる優志が〝勇者ミオン〟であること——これから魔王討伐の旅に出ること——そしてまずは〝生命の巨塔〟から盗まれた2つの〝ゴールデン・オーブ〟を取り戻しに行くこと、そのために魔法使いのサラーの力が必要であることを、順次説明した」



サラー「あらあ、よく見たら本当に勇者ミオン様じゃないー。じゃあ私の魔法も、いよいよ実戦で使えるわけねー」


優志「……はい、じゃあサラーさん、お力になって頂けるということで?」


サラー「もちろーん。生命の巨塔が直れば、私の貧血も、ラデクの喘息も治るんだからー! 一緒に頑張りましょ?」



N「そう言ってサラーは、優志の右手を両手で包んだ。

 優志は、至って冷静だった。若くて綺麗な女の子に手を触れられても、ぷるんぷるんのおっぱいを見ても、何とも思わない。優志は、早すぎる性欲減退も自覚していたのである——。

 サラーが、こうして仲間になった。

 サラー、22歳、父母を亡くし、コハータ村で1人暮らしをしていた若き女性。ラデクの幼い頃、よく遊び相手をしていた。魔力を持ち、初歩の魔法を2種類使うことができる」



サラー「じゃあ早速、実戦の練習といきましょー?」


ラデク「魔物の弱点とかについては任せてよ! 僕は魔物には詳しいんだ!」



N「サラーとラデクは早速、装備を整え、支度をする」



優志「……はい、私も戦う練習はしたいので……。よろしくお願いします」



N「優志は革の鎧をしっかりと装備し直し、棍棒を手に持つ。

 ラデクも革の鎧を着ると、短剣を鞘から出して錆がないかを確かめる。

 サラーは、とんがり帽子をかぶり、杖を持ち、いかにも魔法使いといった格好に着替えた——優志とラデクの目の前で。

 ラデクは顔を赤らめながら目を逸らしている。紫色で光沢のある服はやはり胸がはだけて谷間がしっかりと見え、体のラインがはっきりと分かる。脚も、太腿から靴までは肌が露出している。

 顔を赤らめ続けるラデクと、そんなに肌を出しては怪我をしないかを心配する優志であった」


 ♢


N「3人はコハータ村の門から出て、すぐ近くの草原をうろつくスライムを探した。

 早速、3匹のスライムを発見。

 後ろから近づき、先制攻撃をしかけるラデク」



ラデク「やあああ!」



N「ラデクの剣技が炸裂、一撃でスライムが飛び散る。優志の棍棒では2回叩かないと倒れなかったのに。その攻撃の正確さに驚きの表情を見せる優志。そして残りの2匹も同じように、ラデクは一撃で葬り去った。

 ダイゴの森の入り口付近に、今度はガイコツを発見。優志たちに気づいたガイコツはガシャガシャと音を立て、迫ってくる」



サラー「見てなさーい、〝プチファイア〟!」



N「サラーがそう叫ぶと、杖から炎が迸り、遥か遠くのガイコツに向け放たれる。

 ガイコツは瞬く間に火に包まれ、天に昇って行った。ガイコツも優志の力では3回攻撃してやっと倒れたのに、一撃で倒してしまったサラー。

 初めて本物の〝魔法〟を見て、目を丸くする優志」



サラー「やったわー!」


ラデク「サラー、僕だって強いでしょ?」


サラー「ほんとね。ラデク、凄いわね。褒めたげるー! えーい!」


ラデク「むぎゅ……だから息ができないって!」



N「再び、サラーの大きなおっぱいに挟まれ、窒息寸前になるラデク。

 予想していたよりも、ずっと頼もしい仲間に恵まれた勇者ミオン——優志であった。

 この3人で、2つの〝ゴールデン・オーブ〟を取り戻す旅が、始まるのである——!」

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