第3話 初めての魔法

N

優志=勇者ミオン

マーカス



——


N「〝ダイゴの森〟——。

 何十メートルもの高さに育った木々。鼻をくすぐる土や葉の匂い。木漏れ日が射し込み、近くでせせらぎの音が聴こえる。

 森に足を踏み入れた優志、マーカス。

 自然の美しさに思わず見とれる二人。

 だが、そんな風景にミスマッチな物が地面に転がっているのを、二人は目にする」



優志「……は、白骨死体! こんなところで遭難した人が……?」



N「地面に転がる、白骨化した屍。

 だが——それはただの屍ではなかったのである!」



マーカス「勇者ミオン様、こいつは魔物の〝ガイコツ〟です」


優志「え、魔物なんですか……?」


 

N「優志がそういう間に、地面に転がる白骨死体が、ガシャ、ガシャ、という音と共に動き出す!

 瞬く間に、白骨が人型に組み合わされ、手に持った銅でできたつるぎを、優志の方に向けた」



マーカス「この魔物は少し危険です……! 勇者ミオン様、注意してくだ……ぐふうっ、こ、腰が!」


優志「マーカスさん、大丈夫ですか!」


 

N「マーカスには腰痛の持病があることを、優志は思い出した。突如腰に走った痛みのあまり、よろめくマーカス。ガイコツは幸い動きは鈍い。優志はマーカスを支え、近くの切り株に座らせた。

 銅の剣を構えながら、徐々に迫るガイコツ」



優志「せいっ……!」



N「優志は棍棒を構え、思い切ってガイコツの頭めがけ一撃を加えた。

 ガイコツの頭が吹っ飛び、岩場にぶつかって粉々に砕け散った。……が、ガイコツの胴体は動きを止めることなく、銅の剣が優志の頬をかすめた。傷口から血が飛び出る」



優志「い……つう……! ……てやあああ……!」



N「それでも怯むことなく、優志はガイコツの胴体を2発、棍棒で殴りつけた。

 ガイコツのあばら骨が粉々になり、周囲に飛び散る。

 最後に脚の部分を殴りつけ、こちらも粉砕。

 するとガイコツは、金色の光となり、天に昇っていった」



優志「はあ、はあ……、倒しました……」


マーカス「勇者ミオン様、頬から血が……。〝薬草〟をお使いください!」


優志「は、はいっ……!」



N「優志はカバンから、先ほど購入した薬草を取り出し、よく分からぬまま傷口に押し当てた。するとみるみるうちに傷が塞がり、血が止まった。次の瞬間、薬草は光となって消滅してしまった」



マーカス「薬草はさっきのようにちょっとした怪我はすぐに治してくれます。病気治療にも使えますが、慢性の病気の場合は症状を一時的に抑えるだけで、根治こんちはできません。ワシもさっき薬草を使い、腰痛がおさまったところです」


優志「なるほど……」


 

N「優志の頬の傷は治った。……が——」



優志「……い、痛たっ……⁉︎」


 

N「マーカスの腰痛を見てまるで思い出したかのように再び、脇腹の痛みが優志を襲った。

 優志はすぐに、薬草をもう1枚、脇腹にあてがった」



優志「……あ! 本当ですね……少しだけお腹の痛みが引きました。でも、もう薬草を2枚も使ってしまいましたか……」


マーカス「勇者ミオン様、見てください。ガイコツは、宝箱を持っていたようですぞ」



N「マーカスにそう言われた優志は、ガイコツが倒れた場所を見てみた。

 するとそこに、またもゴールドと、何と小さな宝箱が落ちているのを発見したのである。

 優志は宝箱を開けた。中には、薬草が1枚入っていた」



優志「薬草1枚と、金貨1枚……つまり100Gですか。助かります。これなら多少怪我をしても大丈夫ですね」


マーカス「勇者ミオン様、少しずつ慣れてきたようですな。その調子です」



N「再び、森の奥へと足を進めようとした時だった。

 優志は、両手の先から何かビリビリとした感覚があることに気付く。

 その感覚はだんだんと強くなっていき、やがて手の先が白く輝き始めた」



優志「な……何なんでしょうか、これは……!」


マーカス「……勇者ミオン様! それは……! さあ、あの木にでも向けて、その光を放つのです!」


優志「こう……ですか!」



N「優志は棍棒を地面に置き、白く光り輝く両手のひらを、細い木の幹に向けた。すると!

 手の先から、白いエネルギー波が球状になって飛び出し、木の幹に衝突。幹は破裂音と共に砕け、細い木はガサガサと音を立てて倒れた」



優志「……こ、これは」


マーカス「〝ドルチェ〟という魔法です! これは、〝勇者〟にしか使えない魔法! やはりあなたは、世界を救う〝勇者ミオン〟様、本人でした!」


優志「……私が……」


マーカス「勇者ミオン様は、最強の魔法、〝パフェ〟を使うと預言されています。今の魔法、〝ドルチェ〟をしっかりと鍛え上げパワーアップすると、〝パフェ〟を使えるようになる……と言い伝えられております。……勇者ミオン様、期待しておりますぞ!」


優志「魔法? パフェ? ……私は、一体……」


 

N「優志イコール、〝勇者ミオン〟——それは確定してしまった。

 優志はまだ、その事実が飲み込めない。

 今のが魔法? 世界を救う? そんな大きな使命を自分なんかが受け持って良いのか——?

 考えている間に、二人は森を抜けた」


 ♢


N「森から出ると原っぱが広がり、崖の向こうは一面の海であった。

 崖の近くには、高さ10メートルほどある、崩れた赤レンガの塔が建っている」



マーカス「あれが、生命の巨塔です……」



N「無惨にも破壊された〝生命の巨塔〟——。

 塔の根本ねもとには、崩れたレンガの山。塔の真ん中あたりで崩壊したらしく、崩れる前は高さは15〜20メートルはあったと思われる」



マーカス「ここまでひどく壊されているとは……2つのゴールデン・オーブも、持ち去られてしまっている……!」


優志「ゴールデン・オーブとは、一体?」


マーカス「塔の両脇に安置されている、塔のエネルギーの源です。直径5メートルほどの球状の物です。……勇者ミオン様、どうか2つのゴールデン・オーブを取り戻してはくれませぬか?」


優志「えええ⁉︎ そんな大きなものをどうやって……? それに、一体誰が持ち去ったのでしょう?」


マーカス「それはワシも分かりかねます……。一旦村に戻り、手掛かりを集めるとしましょう!」



N「生命の巨塔の惨状を知った優志とマーカスは一度、コハータ村に帰ることにした」


 ♢


マーカス「その調子ですぞ、勇者ミオン様!」


 

N「森の中に潜んでいたスライム、ガイコツ、そして体長3メートルほどもある〝なめくじ〟を、棍棒や〝ドルチェ〟で次々と倒す勇者ミオン——優志。

 怪我をしたり脇腹が痛んでも、薬草ですぐに治療する。戦闘のコツも、少しずつ掴んできたようだ。

 この間、580Gと薬草3枚を手に入れ、二人はダイゴの森を抜けた。

 ようやくコハータ村に帰ってきた優志、マーカス。

 慣れないことをしたため、優志は精神的にも肉体的にもクタクタになっていた」

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