地底の神様とウサギ

みすたぁ・ゆー

地底の神様とウサギ

 

 はるかな昔のある日、神様にお仕えしている動物たちが相談事をするために集まりました。


 やってきているのはネズミ、牛、トラ、ウサギ、ドラゴン、ヘビ、馬、羊、猿、ニワトリ、犬、猪で、現在は十二支と呼ばれている動物たちです。


 早速、進行役を務めるネズミが話を始めます。


「噂では地底の国を治める神様が病気になってしまったらしい。神様にお仕えする僕たちとしては、このまま放っておくわけにはいかない。そこでこの場にいる誰かに代表としてお見舞いに行ってほしいのだ」


 その言葉を聞くと、全員の顔が真っ青になりました。中には俯いて、ネズミと目が合わないようにしている者もいます。


 なぜみんながそんな反応をするのかというと、地底の国を治める神様は乱暴で恐ろしいことで有名だからです。もし機嫌を損ねたら、どんな酷い目に遭わされるか分かりません。


 しかも地底の国へ続いている道は遠く険しく、鬼や化け物も住んでいて危険に満ちています。途中で命を落としてもおかしくないのです。


「僕は体が小さくて歩幅が狭い。だから地底の国に辿り着くまで時間がかかり、お見舞いに持っていくお菓子が腐ってしまう。体の大きな牛さんにお願いできないだろうか?」


 重苦しい空気を打ち破り、ネズミが牛に声をかけました。すると牛は目を丸くしつつ、首を激しく何度も横に振ります。


「私も無理です。足が遅いですから。それなら馬さんが適任でしょう」


 今度は全員の視線が馬に集まります。


 それに対して馬はブルルッと体を震わせ、思わず後ずさりをしました。


「ま、待ってくれ。俺は馬車を引いて荷物を運ぶ仕事がある。それを投げ出すわけにはいかない。猪くんの方がいいんじゃないか?」


「オイラがっ!? ダメダメ! 走り出したら真っ直ぐにしか進めないからカーブでは壁にぶつかっちゃうし、交差点ではうまく曲がれない! 結果的に遅くなると思うよ。やっぱり空を飛べるドラゴンの旦那に任せるのが一番だよ」


 猪は鼻息を荒くしながら、ドラゴンの方を向いて叫びました。


「ワシも無理だ。脱皮したばかりで体力を使ってしまっていてね。当分の間、安静にしていなければならないのだよ」


 ドラゴンは腹の辺りのウロコを指で突いて見せました。確かにグミのようにプルプルしています。


 結局、その後も話はまとまらないまま時間だけが過ぎていきました。みんな様々な理由を付けて引き受けようとしないからです。


 ただ、そんなやり取りを続けていくうち、ウサギの心境だけは変わっていきました。みんなに敬遠され続ける地底の神様が気の毒に感じてきたのです。


 確かに地底の神様は恐ろしい存在ですが、優しくて尊敬できる面もたくさんあるということをウサギは知っています。


「……分かった。みんながそこまで嫌がるなら、今回は私が行こう。このまま揉め続けるのは、地底の神様に対して失礼だ」


 それを聞くと、ほかの動物たちは安堵の表情を浮かべました。自分が行かずに済んだからです。


 こうしてウサギはお見舞いの品物を持ち、地底の国へ向けて旅立ちました。そしてその俊足を活かし、危険な地底の国を駆け抜けて地底の神様の屋敷へ辿り着いたのでした。


 やがてウサギは屋敷の中へ通され、そこに地底の神様が現れます。


「ウサギよ、よくぞ危険を顧みず、見舞いに来てくれた。嬉しいぞ」


「私は神様にお仕えする身。当然のことでございます」


「だが、ほかの動物たちはここへ来ようとしなかった。悲しんでくれたのもお前だけだ」


「ご存知だったのですか……」


「私は神だ、なんでも知っている」


 地底の神様は穏やかに微笑みました。やはり普段は優しい神様なのです。一部分だけを見て判断をしてはいけないのです。


「ウサギよ、褒美としてお前には月の世界に住むことを許す」


「えっ? 月の世界にっ!?」


 ウサギは驚いて声が裏返ってしまいました。


 地底の神様はこの地底のほかに月も治めています。特に月は聖域の中でも格式が高く、ほかの神様でもなかなか足を踏み入れることができません。そこへ住むことが許されたのですから、ウサギが驚くのも当然です。


 後日、ウサギは月に移り住みました。月の中に見えるウサギの姿、それは地底の神様とウサギの優しさが生んだものだったのです。



(おしまいっ)

 

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