第12話 宝探しをする前に①

ガラス製の食器が現存しているであろう場所を探す。

普通であれば簡単に出来る仕事だ。

恐らく余程の山間部で交通のアクセスが悪い場所でない限りは、基本的にホームセンターやスーパーの100円均一商品のコーナーで買えてしまう。

それぐらいに、当たり前に存在していた食器が、ここではほとんど無い……。


それを踏まえると相当数のガラス製品は既に姿を消してしまっていたり、過去の再現が出来ない状態であるのは確実だ。

エマも現に今の技術で作られているガラス製は壊れやすいと苦言を言っていたぐらいだし……。


(そんな状態でガラス製の食器を見つけるのはかなり難しいんじゃないだろうか……いや、もう行くと言ってしまったからには、見つけやすい場所を選定しておくか……)


いくら土地勘があるとはいえ、様変わりしてしまっているこの世界で店を行き来するのは苦労の連続だ。

道には放置されて錆びたりして立ちふさがっている自動車だけではなく、建物の基礎部分が倒壊して塞がってしまっている脇道も多い。


このラブホテルに到着するまでに経験したから言えることだ。

エマもゴブリン達を撒くために複数の店舗の裏道などを使っていたから、地図にある場所なども、既に道が使えなかったり制約を受けている状態……。


部屋の奥から、手作り感満載の布製のリュックサックを取り出してきたエマは俺に渡してくれた。


「はいこれ、トオル用のリュックサックだよ」


俺はお礼を言ってから、主にどのあたりを既に探索しているか尋ねる。


「ありがとうエマ……ところで、このコンウェン周辺は既に探索済みなんだよね?」

「うん……といっても、私だと見落としている場所もあると思うから、トオルに探索すべき場所を示して欲しいんだ。一人でやっているとどの辺りが穴場なのか分からないからね……」

「成程……全部手探り状態でやっていたわけか……エマはトレジャーハンターをやってどのくらいになるんだ?」

「うーん……ざっと見習い期間を含めて1年ぐらいかな?それで一人でこのコンウェンで探索するようになったのが2か月前かな」

「2か月前か……いや、それでもスゴイと思うけどね」


トレジャーハンターになってまだ1年も経ってない。

ルーキーじゃないかと言いたいが、それを言えば俺なんて全くの未経験者だ。

全くの未経験者よりも、ルーキーのほうが初心者でも経験は上だ。


2か月かけてこの辺りを探索しているのであれば、確かに見落としている部分もあるかもしれない。

高円寺は狭いようで、高円寺駅を中心に1キロ四方で様々な店が入り乱れている。


ダンジョンとも揶揄される新宿駅や大阪の梅田駅ほどじゃないけど、それでもこの状況を鑑みれば 尚更か……。


エマは俺をトリュフを探す豚みたいに重宝するつもりかもしれないが、生憎戦闘力も無ければエマみたいな馬鹿力を発揮できるわけではない。


俺はお荷物もいいところなのだが、エマはそんな俺を頼りにしようとしている。

初対面ながらも、助けてくれた命の恩人だ。

少なくとも、知っている知識を使って場所を選定しよう。

行き当たりばったりになるよりは、ある程度場所を絞ったほうが、時間も労力も節約できるからね。


俺は自分のリュックサックから地図と筆記用具を取り出して、目星になりそうな店をピックアップする。

エマは取り出した地図に興味津々そうに覗き込んできた。


「それは……?地図?」

「そうだよ。今の状況とは異なっているかもしれないけど、少なくともどの場所にどんな店があるかぐらいは分かるようになっているんだ」

「すごい……かなり詳しく記載されているのね……文字は読めないけど」

「えっと……ガラス製の食器を多く取り扱っているとすれば、雑貨屋かスーパーかホームセンターだな……今もその場所が荒らされていなければ、が前提になるけど……このホテルの名称とかって分かるかな?」

「ホテル……?」


そうだった。

もう既に文字としての日本語が無くなっていたというのを失念していた。

喋っているのは日本語だけど、日本語という文字が無くなっているんだ。

だからホテルとか言ってもエマは困惑した上に、地図に書かれている漢字なども読めないと言っていたんだった。

しっかりしろ自分。


「っと、ここの建物の名前とかって知っている?」

「いいえ、知らないわ」

「そうか……うん、大丈夫。ちょっと廊下に出て調べるけどいいかな?」

「ええ、構わないわ」

「ありがとう。ちょっと待っていてね」


廊下に出て、避難経路が置かれている場所を探す。

ラブホテルといっても、避難経路図は建築法で必ず設置が義務付けられているものだからだ。

そこに必ずホテル名などが載っている。


丁度、避難経路図は階段の所に壊されずにちゃんと残っていた。

ホテル名と場所を確認する。


『KOUENZI SPECIAL RELAX HOTEL』


英語で書かれていたけど、高円寺スペシャルリラックスホテルか……。

高円寺駅からざっと500メートルほど離れた場所にある。

この地点を起点にして、ガラス製の食器が沢山ある場所を絞っていく。

部屋に戻ってから椅子に座り、場所の選定作業に入ることにする。

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