第11話 トレジャーハンター
「トレジャーハンターといっても、私は組合に入っていないから一人で探索をやっているんだ……」
「組合に加盟していないのか?」
「うん、組合に入ると高値で引き取ってもらえるけど、その分費用も高額だからね……私みたいなのは荷が重すぎるから、一人で気ままにやっているってワケ」
「それでトレジャーハンターをしていたというわけか……俺を見つけたのも、その活動の一環で?」
「ええ、朝日が昇るまえに起きてから探索をしていたけど、あまりいい品が見つからなかったから、一旦拠点に帰って休憩しようと思っていたのよ」
「成程……ここがエマの拠点か……」
エマは、ラブホテルを拠点にして辺りの廃墟を探索していたようだ。
高円寺周辺にもお宝が眠っていると言われても、正直どれがお宝なのか分かりずらいが、エマ曰く現代では当たり前にあるガラス製の食器類がエルフの間では金になると語った。
「……ところで、エマは何を集めていたんだ?」
「主に食器類よ、それも壊れやすいガラス製のやつ」
「ガラス……?」
「ええ、ガラスよ。ガラス製品は壊れやすい上に、現存しているものが少ないのよ」
「そうなのか……あー……それだと、俺の部屋にあったガラス製のコップを持ってくるべきだったわ……」
「えっ?!トオルの部屋にもガラス製の食器あったの?!」
「コップだけどね……話を聞いたら、コップでもガラス製であれば高値で取引されるんだよね?」
「そうよ。ガラス製コップが一個でも見つけることが出来れば、三日間は食事に困らないわよ」
「そんなに価値があるのか……」
こりゃ、持ってくるべき物資を間違えてしまったかな?
ガラス製のコップ……アパートにやってくる友人や、家族が来たとき用に4つ用意してあったことを思い出した。
「エルフだけじゃないわ。人間の方でもガラス製の食器は価値のある商品なのは確かよ。特に、均一化されたガラス製品は文明が最高潮に達していた証でもあるんだから……」
「ガラス製品で評価されるとはね……でも、ガラス製品が作れないわけではないでしょ?」
「ええ、でも作れたとしても脆いからいけないのよ。ちょっとした衝撃で破損することが多いから、コンウェンで発掘したガラス製品のほうが強度があるわよ」
「マジか……持ってくるべきだったな」
電化製品に関しては、恐らく文明が崩壊等で継承知識を失った関係で役に立たなくなったのだろう。
代わりに、衣食住で欠かせない食に関する食器類が評価されて、今日までエルフや人間の間でも使われるようになったと思えば、自分なりに納得はした。
この推測が当たっているかは定かではないけどね。
「それにしても、ここで一人トレジャーハンターか……大抵財宝捜しの場合はチームを組んで捜索することが多いけど……」
「あら、トオルの世界でもトレジャーハンターがいたの?」
「勿論、まぁ陸よりは海で探索している人が多かったね。難破して沈んだ船を捜索するやつ」
「へぇ~……そっちだと海を探索していたんだ……」
「大抵、陸地はほとんど人類が走破していたからね……海は波が荒い関係で、近年まで手つかずだったんだよ」
トレジャーハンターという職種もあるにはあったけど、俺の知っているのでは欧米に拠点を構えている人が多かった。
特に、ドーバー海峡や北海を中心に中世から近世までの貿易船が沈んだ所を調査艇を使って捜索し、見事難破船の中から数十億円規模の金銀財宝が見つかった……という話もあるぐらいだ。
時代や場所が変わっても、かつて人が行き来をしていた場所で、そうした財宝捜しをするのは変わりがないようだ。
(いつの時代でも、人はお宝を求めているもんなのかもしれないなぁ……)
そんな事を思っていると、エマが俺にある提案をしてきた。
「私普段は一匹狼だけどさ……トオルが良ければ、一緒にトレジャーハンターをやってみない?」
「トレジャーハンター?俺が?体力無いけど……」
「ああ、トオルはコンウェンに詳しいみたいだし、ガラス製の食器類が多くある場所を知っているんじゃないかなと思ってね、もし心当たりがある場所があれば一緒に来てほしいのさ。今日だけでもいいから……さ?トオルの体力に合わせるから……」
エマ曰く、ガラス製の食器類が見つかる場所に探索してほしいとのこと。
……どうしようかと思ったが、ゴブリン達の群れから俺を助けてくれた恩がある。
恩ぐらいは返しておくべきだろう。
「……俺を助けてくれた恩もあるからな、分かったよエマ、協力するよ」
「ありがとう!それじゃあ、少し休憩をしてからここを出発しよう!」
「分かった。荷物はここに置いておいてもいいかな?」
「勿論!そこのロッカールームに入れておいておくよ。あと鍵もかけておくからトオルは心配しなくてもいいよ。リュックサックもこっちで用意するから」
「有り難い。助かるよ」
こうして俺は、エマと一緒にガラス製の食器を探す探索をすることになったのであった。
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