第10話 ノートパソコン
「でもトオル……本当に別世界から来たのであれば、そのリュックサックの中身を見せてもらえるかしら?」
リュックサックの中身を見せて欲しいとエマが言ってきた。
やはり、一時間にわたる説明でも難しいと思ったところがあるのかもしれない。
そりゃそうだよね。
いくら俺が説明しても、ちゃんとしたモノを持っていないと信用が出来ない。
論より証拠……という言葉が手っ取り早い。
「勝手に触ったりしないと約束してくれるならいいよ。繊細で壊れやすい機材が入っているんだ」
「分かっているわよ。私だって職業柄……そういった品を運ぶときは慎重に扱っているわ」
「成程……それじゃあ、持ってきた物を見せるからね」
サバイバルに必要な品々をリュックサックに詰め込んでいたが、改めて思えばかなりリュックサックに詰め込んだものだと実感している。
パンパンに詰め込んでいたこともあって、ずっしりとしている。
エマに勝手に触らない事を条件に、リュックサックの中身を取り出していく。
塩や胡椒、片手鍋が出てきたときは普通に眺めていたが、チョコレートやウイスキーの瓶を取り出した辺りから、食い入るように見ていた。
特に電化製品であるノートパソコンに至っては、まるでダイヤモンドの宝石を眺める子供のように、目を輝かせながらマジマジと見ている。
「すごいわ……これ、動くのかしら?」
「勿論、問題なく稼働できるよ。型落ちのノートパソコンだけど、これを使って大学で使う論文を書き上げていたんだ」
「ノートパソコン……?」
「ああ、ノートブック型パーソナルコンピューターの略称だね」
「でも、これで書き上げる……って、インクとかはどうするのよ?ペンも見当たらないわよ?」
「ああ、文書を作るさいにはキーボードに文字を入力……打ち込むんだ。それで論文を出力する際には『プリンター』と呼ばれる機材を使って印刷をしないといけないんだ。プリンターはないけど、文字を打ち込む事ならすぐに出来るけど見てみるかい?」
「え、ええ……お願いするわ」
ノートパソコンを開いて起動する。
液晶画面にこのパソコンのOSを作った会社のマークが浮かび上がり、その周りに起動準備中として複数の点が動いている。。
「ヒィッ?!」
それを後ろで見ていたエマはビックリして、椅子に座っている俺の後ろに隠れてしまう。
何か、呪文のようなものかと誤解されてしまったのだろうか。
怯えた様子で、椅子の後ろから画面を覗き込んでいる。
「大丈夫だよエマ、これは起動すると映るものだから」
「だっ、大丈夫なんだよね?これ呪文とかじゃないんだよね?」
「うん、これはノートパソコンが起き上がっている証拠だから問題ないよ。……おっ、無事に起動したな」
ノートパソコンは無事に起動してくれた。
ユーザー名の下にはパスワードの入力欄が記載されている。
パスワードを入力すると、いつも使っている見慣れた画面が映り込む。
パソコンの壁紙はとあるゲームの壁紙だ。
そこから、パソコンに標準装備されているメモ帳を使って、文字を打ち込む。
『朝起きると、そこは異世界であった……なんという奇妙な出来事かと思うかもしれないが、これは現実である……まさに信じられない現象に巻き込まれたのであった……』
この文書を30秒ほどで打ち込むと、エマは俺が異質な存在……もとい、過去ないし別世界からやってきた人間であると理解してくれた。
話を長々と聞いてくれていただけでもかなり有り難かったが、やはりここは実際に異世界人であることを示したほうがインパクトもデカい。
「俺の言葉を信じてくれるかい?」
「ええ、勿論よ。これを見れば誰だってトオルの言葉を信じるわ」
「それは良かった」
「……これ、ノートパソコンだっけ?エルフで取り扱える人はいないし……私も初めて見るわ。まるでおとぎ話に出てくる魔法使いみたいだわね」
エマは俺の出来事を聞いた後、信じ難いモノを見た感じになっていた。
俺だってここにやって来てしまった事、そのものが信じられない状況だ。
何と言うことか、結果的にノートパソコンを持ってきたお陰で、相手を信じられることが出来たのは僥倖だろう。
異世界に持ってくるモノの定番がスマートフォンだけど、パソコンのほうがインパクトがデカいし、スマートフォンの場合は画面が小さいので限られたサイズでしか見る事が出来ない。
「……俺も、自分自身で起こった事が信じ難いよ。おとぎ話というか、俺の時代にはそうした出来事を題材にした小説とかが流行していたんだよね……」
「おとぎ話が……?」
「ああ、色んな本が出版されていたんだよ。色んな作家さんがしのぎを削って本を沢山出していたんだ……本を専用に取扱う店もあったんだ」
「それは……すごいね……ここにも本はあるけど、どれも仕事に関する本ばかりね」
俺には読めない文字で書かれている本は、仕事で使うものらしい。
俺はエマの仕事に興味が湧いてきたので、エマに詳しく聞いてみる。
「仕事か……さっきも言っていたけど、物を取扱う仕事をしているのかい?」
「ええ、そうよ……私、こう見えてもトレジャーハンターなのよ!」
「トレジャーハンター……?財宝を探すことを生業としているのか?」
「そう、トレジャーハンター……私はこのコンウェンを中心にお宝を探しているの!」
エマは、誇らしげに自分の行っている仕事について語りだした。
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