第7話 君は誰……?

俺の右手を左手で引っ張っているのは、フード付きの赤い色のパーカーを被っていた人物だ。

所々、パーカーが破れたりしたのか別の素材の布で縫い付けて補強した跡がある。


顔はフードを被って見えないけど、声からして女性とも声変わり前の男性っぽい感じに聞こえた。


見ず知らずの顔も見れない相手に手をグイグイと引っ張られるがまま、俺は「GAME」のネオンが特徴的な建物の奥に入っていく。


ここは元々ゲームセンターとして栄えていた建物だ。


いくつものUFOキャッチャーや、レースゲームやメダルゲームの筐体が鎮座しているが、どれも商品を保護しているガラスケースや、筐体の画面がヒビが入っており、到底使えそうにない。


そしてトイレの前にたどり着くが、トイレの前には見るからに重そうなメダルゲームの筐体が横倒しにされている上に、壁に打ち付けられた木の板で塞がってしまっている。


「ちょっと待って、今どかすから……」

「どかす……?筐体動かすの手伝ったほうが……」

「いや、大丈夫」


すると、目の前の人物が右手でトイレの前で横に倒れているメダルゲームの筐体を片手で軽々と持ち上げる。


「……ふん!」


あっという間に筐体をどかしたことにより、人ひとりが前かがみの姿勢になってようやくトイレに入れるスペースが生まれた。


(すごい力だな……メダルゲームの筐体って100キロ近くあるんじゃないのか?)


怪力だ。

恐るべきこどに、あっという間に筐体を片手で持ち上げてしまうぐらいだ。


「早く来て……」

「あっ、ごめん……」


せかされたので謝っておくと、空いたスペースに入り込む。

前かがみの姿勢で入った後、壁の後ろからでも筐体を持ち上げられるように裏側に取っ手が取り付けられていた。


どうやら、予め作っていたようだ。


この人が作ったのかどうかは分からないが、人ひとりがやっと通れるスペースという事を考えても、この人物は仕組みを理解している。


トイレの奥に進むと壁が壊されており、隣接していた麻雀荘があった建物に繋がっていた。


麻雀卓がひっくり返っており、彼方此方に麻雀牌が散乱しているので、ここもゲームをする場所ではなくなったようだ。


そこからは、目の前の人物が周囲を伺いながら建物を伝って移動を繰り返した。

どの建物も所々壁や天井が崩れて外の日光が照らされている。


雨風に侵食されてしまった影響で、カビや苔なども生えており、長い年月が過ぎているように思える。


一体全体どのくらい年数が経過してしまっているのか分からないぐらいだ。


「……後ろのドア閉めて。ゴブリン達追ってきたらマズいから」

「あ、ああ……分かったよ」

「次はこっち」


建物の裏口を抜けたと思ったら、ドアを閉めてさらに別の建物に入り込んでゴブリン達を攪乱させようとしているらしい。

それだけに、ゴブリンが追ってくるリスクを避けるために行動しているようだ。


何も知らずに逃げ回るよりは、相手に任せた方がいいかもしれない。


商店街の建物をいくつも経由して、とある建物にたどり着いた時にようやく相手は走るのを止めて、ゆっくりと歩きだす。

尚、まだ手を引っ張ったままだ。


「ここは……」

「……いいからついてきて」

「あ、はい……」


相手が入った建物の看板に掲げられていた表示には『3時間4500円、1泊7500円』と書かれていた。

ここは休憩用のホテル……。


所謂ラブホテルというやつだ。


俺が知っているのは、このホテルは主にカップルや夫婦……そして浮気や不倫相手との営みを育むことで有名だ。

まさかとは思うが、系で誘ったわけではないはずだ。


建物の中はそれまで走り回っていたどの建物よりも頑丈そうだ。

ポケットから鍵を取り出すと、正面の自動ドアからではなく、従業員用の出入口から入り込む。

ドアに関しても俺の住んでいたアパートよりかなり頑丈に作られている。


ラブホテルの中に入ると廊下の中は比較的綺麗で、荒らされた形跡もほとんど見受けられない。


強いて言えば、ラブホテルには似つかわしくないぐらいに、正面の入り口付近にはシャッターで閉まっているだけではなく、木の机や板、果ては自販機などで入り口がふさがれており、ここにいた人物が外部からの侵入者を凄く警戒していたことは確かなようだ。


エレベーターは機能停止しており、階段を使う。

1階、2階、3階……4階に差し掛かると、奥に進んでいく。


401、402、403……404の数字が掛かれた部屋の前に立ち止まり、先ほどとはまた別の鍵を使って開錠する。


「部屋に入って」


言われた通りに部屋に入ると、ラブホテルには似つかわしくない程に、部屋が大改装が施されていた。


作業台に、石造りのキッチン……換気用のダクトまで取り付けられている。

唯一のラブホテルの面影があるのは、大きくてふかふかなダブルベッドぐらいだろうか。


パーカーを身に纏っている人物であったが、ようやく引っ張ってきた手を放し、被っていたフードを取り外した。


フードを外した際に、長い耳がぴょこぴょこと動いており、その姿を見た瞬間に俺は思わず呟いてしまったほどだ。


「え、エルフ……?!」

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