第6話 逃走
人類が何処かに消えてしまった後の世界みたいに、終末世界が題材になっている小説やマンガのような光景が目の前に広がっている。
その光景をじっくりと観察する間もなく、俺は走っている。
絶対に立ち止まるな……。
心臓が破裂するまで走れ……。
「はぁっ……!はぁっ……!はぁっ……!」
久しぶりに俺は全速力で走っている。
後ろからはギャーギャー言いながらゴブリン達が部屋の窓から飛び降りて、俺の後を追いかけるように走ってきている。
「捕カマエロ!」
「人間!逃スナ!」
これが遊びの鬼ごっこであれば、そこまで気を遣わずに済む。
だが、相手は斧を持って全力疾走している。
おまけに人間に敵意がむき出しだ。
完全にモンスター……これで捕まったら確実に殺されるだろう。
唯一、この状況下でもマシだと思えるのがアパートから駅までの道のりは覚えていたことだ。
「ここを左に曲がって……商店街のある通りを抜けて最寄り駅の高円寺駅だ……!」
最寄り駅である高円寺駅と直結している商店街の通りに差し掛かる。
ここは普段であれば人通りも多くて、様々な日用品や雑貨、飲食店が立ち並んでいる有名な商店街だ。
道路の上に屋根があり、夏場はこの商店街にあるアイスクリーム屋に立ち寄って、かき氷やアイスクリームを購入して、設置してあるベンチで食べたっけ……。
商店街では何でも揃っているので、デパートに行かなくてもここで食材を調達することができた。
肉屋さんで特売品の牛肉を沢山買って、鍋一杯にすき焼きを食べたなぁ。
そんな思い出が頭をよぎる。
でも、今ではその面影を残しているのは、朽ち果てた店の様相だけしかない。
日差しの役割を果たしていたはずのアーケードの天井は、ほぼ全てが剥がされている状態で、直射日光がまんべんなく頭上に降り注いでいた。
明るいだけならまだしも、俺の知っている商店街とは既にかけ離れる程に、朽ち果てていた。
「クソッ、朽ち果てていても場所は分かるのは有り難いけど……こりゃひでぇ、本当に高円寺か……?」
まず、商店街の道路のコンクリートはひび割れて、突き破ったところから膝ぐらいの高さがある草がモリモリ生い茂っている。
そして一番迷惑だったのが、商店街の中で立ち往生している車両だ。
「それにしても車が邪魔だな!走りずらいじゃないか!」
商店街はあまり広い道路は設けてはいないが、2トントラックが行き来する分には確実に通れるぐらいの広さを誇っている。
そこまで交通量の多い場所ではないし、通行許可を得た商用車や貨物車が店に商品を納品しに数台止まっている程度だ。
なのに、商用車ではなく沢山の自家用車がアーケード街のど真ん中で立ち往生しており、車両の間を潜り抜けるようにして走っている。
放置されている車は錆びて使い物にならないか、もしくは正面衝突や横転していたり、エンジンから出火したのか黒焦げになっている。
本来こうした車両は普通なら撤去されているか、もしくは通行の妨げにならないように道路脇に車を停めておくはずなのに、大半が道路の真ん中辺りに集中している。
追い越そうとして、柱に激突した状態の車も複数台チラチラ見えている。
「これは逃げようとしていたのか?……建物も窓ガラスが割れているし……何らかのパニックでも起こったのか?」
建物や乗り物はどこもかしこも窓ガラスが破壊されており、草や木の根によって侵食されてしまっているのも目立つ。
商店の店頭に置かれていた陳列棚は倒されているか、もしくは植物に浸食されている影響で、見る影もない。
この商店街には、こもまともな建物がないのか。
「それにしても……いつまで走ればいいんだ?」
正直辛くなってきた。
走るのがキツイ。
息がきれそうだ……。
普段は軽い筋トレしかやっていないので、何とも言えないぐらいに胸の辺りが苦しくなってきている。
やばい、息が切れそう。
後ろからはゴブリン達もやって来ている。
もうだめかと思ったその時。
建物の物陰からひょいと左手を何かに掴まれた。
「こっち……」
「えっ、うわぁっ?!」
俺は、有無を言わずに身体ごと暗闇の中に引っ張られてしまった。
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