第5話 脱出

ドンドンドン……。


ドアを叩く音が聞こえる。

鍵を閉めている上に、チェーンもしてあるからそう簡単に破られるわけではないが、どうやらアパートをゴブリン達に目を付けられてしまったらしい。

声を殺して静かにしていると、片言の日本語が聞こえてくる。


「ココ、何カオカシイ……」

「ドア、錆ビテナイ……オカシイ」

「ココ人間、イルノカ?」

「見逃シタ人間ナラ、ドウスル?」

「人間、ゴブリンノ敵、殺ス」


ゴブリンでも多少は意思疎通を通しておくことができるかもしれない。

そう思っていた時期が俺にもありました。


(滅茶苦茶殺意高いじゃないか!人間殺すって言っている奴いるぞ?!)


どう見ても敵対的な種族です。

本当にマズい状態だ。

仮に俺が全裸で土下座したとしても、ゴブリン連中は殺すだろう。

……辛うじて生かされたとしても、バラバラにして食われるかもしれない。


そうなったら最期、この世からTHE ENDってね……。

ゲーム制作ソフトで10分で作ったようなオチになりかねない。


ガチャガチャ……ガチャガチャ……。


ドアを叩いたかと思ったら、今度はドアノブをガチャガチャと回している。

ドアノブを弄ったり、何度か叩いている音はしているが、中に人がいるか確認しているようだ。


(……ドアが開けるか確かめるような感じだな……部屋の奥に行って息を潜んでいれば大丈夫かも……)


とはいえ、このままの状態ではマズい。

普段から履きなれている靴を履いて、窓の方に向かおうとした時であった。


(……うおっ?!)


迂闊だった。


靴を履いてから、ドアから離れようとした際にバランスを崩して尻もちをついてしまった。


―ドスン!


その音を聞いたゴブリン達が、一斉に騒ぎ出した。


「誰カ、イル!」

「人間ダ!人間イルゾ!」

「ココニ、イルゾ!」

「ドア開ケロ!開ケロ!」

「斧ツカエ!」


さっきまでは慎重にドアを叩いたり、ドアノブを回していたが、一気に強硬手段に出てきた。


ガン、ガン、ガン!


石器……ないし、何かハンマーのようなもので叩いている音が部屋中に響き渡っている。


鉄製のドアとはいえ、防犯対策が整っている一流マンションのような強固なドアではない。


そこらへんのアパートにある鉄製のドアなのだが、ドアを強引に開けようとしているせいで、もうじきドアが外れてしまいそうだ。


「に、逃げなきゃ……」


こうなったらもう籠城は不可能。

ゴブリン相手に包丁で斬りつけても多勢に無勢で数で圧倒されるのは目に見えている。


この住み慣れた四畳半の狭い部屋と、このような形で分かれるのは寂しい。


だけど、この部屋でゴブリン達に嬲り殺された末に、部屋が荒らされていくのを見たくはない。

リュックサックを背負い、周囲を見渡してから部屋に別れを告げる。


「さよなら、今までありがとう……また、必ず来るよ」


ドアノブの部分が取れて、あとはチェーンが辛うじてドアを支えている状態を見た後、もうこの部屋はゴブリン達に踏み荒らされるのが確定した。


そして俺は覚悟を決めて窓を開けると、窓から飛び降りたのであった。

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