第3話 ゴブリン

ゴブリンが歩いている。


今目の前で起こっている信じがたい状況を、より悪化させる。


脳みそがオーバーヒートしそうだ。


それも一体や二体ではない。


ざっと視界に映っているだけでも10体以上ものゴブリンが群れを成して歩いているのだ。


それぞれリュックサックのようなものを背負って歩いており、手には斧のような道具を両手で持って周囲を警戒している。


目を凝らしてじっくりと見てみるが、緑色の肌で小柄で集団行動している上に、簡単ではあるが服を身に纏っている。


「ありゃ……ゴブリンだよね?ファンタジーに登場するような生き物だよね?」


何度も見たが、どう見てもゴブリンだった。


ゴブリンといえば小さくて緑色の肌をしているモンスターとして知られている。


人間を襲って、女性に乱暴をするという設定が多用されているだけに、決して雑魚モンスターではない。


そのモンスターが100メートル先を歩いている。


肉眼でもしっかりと確認できる。


こっちに気づいていなければいいけど……。


ゴブリン達に気づかれないようにゆっくりと窓を閉めてから、これからどうするか考える。


「ここで籠城するのもいいけど……生活は出来るのか?」


今の状況を見れば、かなり恵まれているともいえる。


しかし、それは居住性に限っての話であり、今見えたゴブリンとかモンスターがウロチョロしている状態で、この場所に留まることが出来るのかと言えば、NOと言える。


理由としてはこのアパートの耐久性の面で不安要素が多い。


今のアパートの状態は、俺の部屋を除いて木の根で覆いつくされているように見えたし、落雷やちょっとした雨風で倒壊する危険性の方が高い。


アパートではなくマンションであったら籠城戦に適しているかもしれない。


マンションは鉄筋コンクリート造りをすることを義務化されているので、多少の火災や浸水ではびくともしない。


一方で、アパートは木造建築で出来ている上に、このアパートの築年数は俺が借りる際に35年と言っていたから……耐震補強工事も行っていない状態なので、あまりにも耐久の面で不安なのだ。


「これで異世界特典で強化スキルが使えればいいんだけど……まぁ、そんなものはないからな。流石にネット小説みたいに上手くいかないのな」


異世界転生ならぬ異世界転移小説では、能力等で特殊で強いものを授かったりする特典というものが付いてくるはずだ。


しかし……。


念じようが、目を瞑ろうが、目の前に何か表示されるようなことは無かった。


つまり、特典と言えるようなモノは与えられなかったというわけだ。


「ステータスとか、能力値とかも無いからなぁ……何もかもが手探りだな。恐らく死んだら終わり……サバイバル&ハードコアモードというわけか」


ゲームで例えたら、セーブとロードが出来ず、やり直しが効かない状態で物語を進めるようなものであるということだ。


思っていたよりも難しいな……。


自室を拠点にするのも良いけど、あまり長居をしていたらゴブリンや他のモンスターに襲われた際に対応が出来ない。


「まずは準備だな……ここを出発できるように、使える物だけを選んでリュックサックに詰めておこう」


いざ、襲撃等があった際の避難ルートを決めておいたほうがいい。


「とりあえず、ここが元いた世界と同じだったら、地図もある程度は使えるかもしれないな……」


まず必須なのは地図だ。


地図さえあれば、ある程度地形が変わっていても役に立つ。


特に地図を見ながら大きな建物を探して、そこを目指すようにすればいい……。


東京なら、東京タワーやスカイツリーのような遠くからでも、目印となるようなランドマークがある建物を目印にして、地図と照らし合わせていけば迷うことは基本的に無い。


災害が発生した可能性も含めれば、ハザードマップを持っていたほうが浸水しやすい地域の特徴などを把握することができる。


……と信じている。


地震や津波といった大災害が発生した場合、そういった大きな建物でも被害は大きいかもしれないが、先ほど周囲の建物を見る限りでは大きな地震や津波で倒壊したような痕跡は見られない。


ゴブリンに目が行ってしまったせいで、よく確認できなかったが……。


この世界が現実世界と瓜二つなのは……ここがパラレルワールドなのか?


それともこの部屋だけ時空を越えて遥か未来にやってきてしまったのだろうか?


分からないけど、急いで何時でも出発できる準備を整えたほうがよさそうだ。


「いつ襲われるか分からないからな……準備しておくか」


俺は普段大学で使っているリュックサックを取り出して、必要なものをリュックサックの中に詰め込むことにした。

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