第1話 圏外

―ジリリリリリリッ……。


目覚まし時計の音はいつも突然だ。

どんなに熟睡していても、目障りな音なのですぐに起きてしまう。

ベッドの中から鳴り続けている目覚まし時計のボタンを押す。


『AM8:30』


朝の8時30分……。

もうちょっと眠っていたいが、そうはいかない。

二限目の講義が始まるのが午前10時30分なのだが、それまでに大学に到着していなければならない。


「ふぁぁぁ……朝は早いな……」


必要なノート類の他にも、持ち運びが出来るノートパソコンの出番だ。

今日は歴史地理学と環境倫理学の講義を受けに行く。

講義を担当している教授曰く、ノートパソコンを使って講義内容を記載して、それをレポートにしてまとめなければ単位が貰えないと言っていたからだ。


ノートに筆記でまとめ上げる奴もいるにはいるが、それを一々家のパソコンで打ち込むには根気のいる作業になる。


それをするぐらいなら、あらかじめノートパソコンで講義内容を叩き込んでから、後で修正なり訂正なりを入れておけば楽にレポートが出来上がる。


眠たい目を擦りながら、ノートパソコンを専用の持ち運び鞄に入れておく。

普通の鞄だと破損するリスクがあるので、しっかりとしたケースに入れる。


「最寄り駅から出発する電車が9時10分からだから……9時に家を出るまではゆっくりしていくか……」


朝はゆっくりとしていきたい。

マイペースでもある。

ギリギリまで眠るという手もあるが、それをやると電車に駆け込み乗車をしないと確実に講義に間に合わない。


なので、ゆとりを持って行動するようにしている。

ちゃんと朝ごはんも食べて、顔も洗顔しておこう。

さて、今日の朝ごはんはどうしようか……。

冷蔵庫の中から惣菜を取り出そうと扉を開けてみる。


「あれ……?冷蔵庫これ、冷房効いていないんじゃね?!」


しまった。


これは冷蔵庫が壊れてしまったのか?

コンセントはしっかりと刺さっている。

なのに、冷たい風が吹いてこない。


一昨年に大学に入学して一人暮らしをする際に、両親と一緒に家電量販店で買ったばかりの新品の冷蔵庫なんだけどね……。

買って二年で壊れるのは早すぎではないだろうか?


「もう壊れるなんて流石に早すぎだろ……」


信じたくはなかったが、どうやら壊れてしまっているみたいだ。

冷凍庫の中に入れてあった氷は解け始めており、すでに半分以上の氷が水みたいに融解した状態となっている。

これはもう完全にダメっぽい。

俺は頭を抱えるも、家電製品に関する保証を店員さんと話した際の会話を思い出す。


「……いやでも、冷蔵庫って新品だと保証期間は5年間ぐらいだから、これで壊れたとなれば……家電量販店に言えば無償修理出来るんじゃないか?」


壊れたのが事実であれば、確実に無償修理対象となる。

そうなれば、こっちがお金を払わずに済む。

そう思えば、そこまで深刻な悩みではないと感じてきた。


「なんだ。それなら大丈夫じゃないか。とりあえず家電量販店に電話をしてみるか……」


充電したスマートフォンに、冷蔵庫を購入した家電量販店の電話番号を入力して電話を掛けてみる。

しかし……。


『只今、電波の届かない場所にいるか、SIMカードの不具合により通話ができません……』


スマートフォンから流れてきたのは、無機質なアナウンス。

そして、本来ならここは首都圏で電波は常にアンテナが三本以上立っている5G回線契約を結んでいる好立地であるにも関わらず『圏外』の表示が出ていた……。


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