終末トレジャーハンター ~朝起きたら現代文明が滅んでいた件について……~

スカーレッドG

プロローグ

突然だが、異世界転生って知っているだろうか?


時は21世紀初頭……。


ネット社会の普及と共に流行した個人サイトでの携帯小説を起源とし、その携帯小説の中で注目されていたネットで誰もが自由に小説を投稿できるサイトにおいて有名になったとも言われている。


日本のサブカルチャーを代表する多くの作品がこの異世界転生というジャンルであったことから海外でも広がり、今ではこの「異世界転生」というジャンルを知らない人はいないというレベルにまで広く普及した。


しかし、それらの多くが空想だ。


たまーに、ドラマ化や映画化まで大成功した恋愛小説とかはリアリティーに溢れているというか、どこか現実味を帯びているから誰かが経験したかもしれない物語として体験できる。


異世界転生というジャンルは所謂ファンタジー小説という分類で分けられている。


前世の記憶を持っていたり……。


魔法を使ったり……。


軒並み外れた強力な力を持っていたり……。


果てはハーレムを作って異世界における種族の多様性を享受したり……。


全年齢向け、成年向けを問わず、この異世界転生というのはそれまでの現実世界を題材にした作品よりも感情移入がしやすく、主人公を自分の境遇と照らし合わせて共感しやすいということもあってか、大人気となったわけだ。


誰もが「非現実な内容」として夢見る。


ファンタジーだからこそ、こうした作品は制約などが無いので思う存分書いていくものだ。


だからこそ、夢中になって見ていてもそれが『現実世界では決して発生することがない内容』……。


物語を夢中に読んだ後に、ああ……これは空想で夢物語なんだなと理解をしてしまうのだ。


現実世界における自分とは関わりの薄い内容であるとも言える。


だって、異世界転生をリアルで体験した奴がいれば、それはもう世紀の大発見となるに違いない。


第一に、異世界で転生してその世界で自由や繁栄を謳歌できるのであれば、わざわざこちらの世界に帰ってくる必要もないからね。


だから、これは夢物語として見るしかないのだ。


『21世紀におけるライトノベル文学について =人文学部3年 小張 融 学籍番号……=』


……人文学部として、小説に関するレポートを提出する際に、ライトノベルの歴史に関するレポートを現在進行形で書き上げている真っ最中だ。


これも、そのレポートに記載する内容を大雑把にして頭の中で整理しながら書いている内容だ。


来週末までがレポートの提出期限なのだが、レポートの枚数が多い……。


最初は5ページぐらいで終わると思っていたのだが、思っていたよりも記載する内容や引用した文献などを引っ張りだしてくると、ライトノベルに関する記載が10ページ以上にも及んでいる。


1200字詰めなので……既に12000字以上は書き込んでいる。


これだとちょっとした短編小説が出来上がりそうだ。


「ああ~……どんどんレポート枚数が増えていくわぁ……」


本当に次々と文字が増えていて困惑している。


自分で書いているわけだけど、それでも厳しい。


ちょっとずつ片付けているつもりが、どんどん積もりに積もっている資料。


参考文献だけで8冊にも及んでいる。


4500ページにも及ぶ内容を、15ページ程のレポートにまとめ上げるのはやはりキツイ。


文章などを自力で整理しているが、一気にレポートの構成まで考えて内容を取り決める魔法が欲しい。


いざ!執筆魔法であっという間に解決……!


なんてことは起きない。


「まぁ、そんな都合よく魔法が出来るわけじゃないし……そもそも突然異世界転生なんて漫画や小説みたいな事は起きないよなぁ……」


パソコンの前で一人、キーボード操作をしながらアイスクリームを頬張っている俺とかは、そんなリアリスト……現実主義みたいな考え方をしている輩だ。


「第一に、チートだの魔法強いだの……現実的ではないでしょ……」


大学のレポートが終わらないので、愚痴をこぼしながらレポートを記入している。


もし、俺が今この場でチートが使えるなら、このレポートを論文にして一気に書き上げる機能が欲しい。


時計の針は午前2時を指している……流石にもう寝ないと明日の講義に間に合わない。


「仕方ない……もう寝るか……」


もう寝ないと講義中に眠ってしまいそうだ。


俺はデータを保存してから、寝る前の歯磨きをしてから部屋の電気を消し、ベッドの中に潜り込む。


明日もレポートと大学の講義に追われる生活だ……。


「はぁ……大変な日が始まるぞ……」


何も考えずに、俺は目を瞑って……眠りについた。


これが、慣れ親しんだ現代社会との最後の別れとなる瞬間。


そして、大変な日々の始まりでもあった……。

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