第21話 言葉の意味
「どうして、紅葉まで連れてくる必要があったの?美耶は私のことが好きだったはずでしょう?」
親友は男性が苦手だったはずだ。私に告白してダメだったから、私に似ている弟に手を掛けた。私に似ていたから我慢していただけで、本当は紅葉にも男性としての苦手意識を持っていただろう。
「だってそれだと、私に子供が出来ないでしょう?」
「子供……」
確かに楓子と美耶は性別が『女』であり、2人が一緒になったところで子孫を残すことはできない。だとしたら、紅葉がここにいる理由は。親友の言葉の意味を先に理解したのは紅葉だった。
「オレに姉ちゃんの代わりになれっていうのか!」
「代わりになんてならない。紅葉君は紅葉君で、楓子の代わりになんてならない。私はいつの間にか、たくさんの事を望んでしまった」
「オレは帰るからな!そして、今後、一生、美耶先輩とは縁を切る!」
紅葉はこれ以上、ここに居られないと席を立って部屋から出ようと歩きだす。確かにこのままここにいたとして、良いことはひとつもない。美耶から話を聞こうと思ったが、すでに楓子たちと会いたかった理由も判明した。だとしたら、すぐにでもこの場を離れるのが正解だった。楓子も席を立って弟の紅葉の後を追うために歩きだす。
「許さない」
ぼそりとつぶやいたのは美耶だった。あまりにも低いその声に楓子は身震いする。それでも足を止めることはない。しかし、親友の表情を一目見たくて振り返る。
美耶は先ほどまでの笑顔から急に表情をなくした。無表情で部屋を出ようとする楓子と紅葉を見つめている。楓子の頭の中に警報が鳴りだす。
親友は私たちを逃がすつもりがない。
そう思った瞬間、楓子は走り出していた。紅葉を追い抜いて腕を引っ張り玄関へと目指す。ドアの前までたどり着いたときには息が上がっていた。
四人で一緒に暮らそうなんて発想が出た時点で気づくべきだった。どうして親友が四人で暮らしたいか考えるべきだった。
(まさか、紅葉にまで手を出そうとしていたなんて!)
自分だけなら。そんな考えも頭に浮かんだが、一瞬にして消え去った。
「どうして開かないの!」
ドアはなぜか開くことがない。ドアノブを上下に動かすが開く気配がない。いったい、どうして開かないのか。ガチャガチャと音を立てて動かすがどうにもならない。
「楓子、どうして逃げようとするの?私たち、親友でしょ?紅葉君も、一時期だけだけど、わたしと付き合っていたでしょう?どうして私から逃げようとするの?こうして会えたのに、私は私は私は私は……」
「ねえさん、落ち着いて。まだ病気が完治したわけじゃないんだから」
「ここを開けて!」
美耶は精神を病んでいる。この場にいる人間で開けてくれそうなのは、美耶のおとうとと言っていた男のみ。すがるように楓子と紅葉は男に視線を向けるが、申し訳なさそうに首を振られる。
「それは無理な話です。ねえさんはあなたたちのせいで、精神を病まれてしまいました。加えて、両親の離婚の件もあります。あなたたちがいてくれるだけで、ねえさんは心が落ち着きます。僕はねえさんのことを幸せにしたい。たとえ、この思いが報われないとわかっても」
どうやら、おとうとの雅琉という男もかなりやばい人間だったようだ。ここに来た時点で、楓子たち姉弟の人生は詰んでいたということだ。
「手荒な真似はしたくないですが、どうしても外に出たいというのなら……」
男はズボンのポケットに手を入れる。何を出されるのか想像するだけで恐ろしいが、それでも楓子は紅葉と一緒にここを逃げるために口を開く。
「あなたたち家族の事情に私たちを巻き込まないで!」
とっさに楓子は手に持っていたスマホを取り出す。そのまま警察に通報するためにボタンを押そうとした。
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