第159話後継者と〝元〟後継者

いつも呼んでくださっている皆さん、お待たせいたしました。

今日から連載を再開します! 多分もう止まることはないと思うので、これからもよろしくお願いします。


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「あー、なんだっけ。それってあれよね。あんたの……弟?」

「年齢は同じだが、生まれ月で言えばそうなるか? まあ、兄弟として振る舞ったことなどないがな」


 一応血縁はあるし、戸籍上では兄弟となった時もあったはずだ。だが、実際に兄弟として過ごしたのかというと、決してそんなことはない。そもそも、兄弟だった時間も、ほんの一瞬程度であろう。


 まあそんなことはどうでもいい。すでに終わった関係なのだから。

 だが、そんな終わった関係の相手がどうして今更になって姿を見せたのか……。

 ただ単純に偶然出会った、というのであれば問題ない。だが、やつは明らかにこちらを目指して進んできている。おそらくは何かしらの思惑があってのことだろうが……さて、奴は何を企んでいるのやら。伝え聞く奴の性格からするに、どうせ碌でもないことなのだろうな。はぁ。


「で、そんな人がここに来たんだってんなら……やっぱりなんかイベントが起こるの?」


 だが、俺が内心でため息を吐いている状況であるにも関わらず、スティアは目を輝かせて問いかけてきた。


「なぜお前は楽しそうにしている。どう考えても厄介ごとであろうに」

「でも私ってば関係ないし? どうせあの程度なら攻撃されてもすぐに処理できるでしょ?」


 確かに、攻撃されたところで問題があるのかといえば、ない。以前よりも多少強くなったところで高が知れているだろう。……いや、そういえばこいつも魔創具の作り替えを行ったのだったか? であれば、以前よりはトライデンの当主となるに相応しいだけの実力を備えることができたと考えるべきか。


「さてな……俺の知っている奴であれば問題なかったが、今の奴は魔創具を作り変えたということだからな。どこまで強くなっているのかわからない以上はなんとも言えん」


 しかし、だとしてもそう簡単には負けるつもりはない。いかに武具が優れたものへと変わったとて、奴自身の武に関する才覚は、そう高いものではない。加えて、努力も怠っているようでは決して俺に追いつくことはできないだろう。


 なので問題なのは、攻撃を仕掛けて来なかった場合だ。攻撃して来ないにもかかわらずこちらに近づいてきているということは、直接手を出してくる以外の方法で何かをするつもりだということだ。それがもし貴族としての力を使ったものだとしたら、それは大分面倒なことになる。

 いざとなればオルドスの手を借りることもできるかもしれないが、それも状況次第だ。流石に大会出場者に対して、主催国のナンバーツーが肩入れをするわけにはいかないからな。


「いや、嘘でしょ。そんなの見ただけでわかってるくせに。どれだけ強くなったんだとしても、あの程度のがあんたに勝てるわけないじゃない」

「へぇ〜。スティアってば、そんなにアルフのこと信頼してるんだ」

「うん。だってこいつは強いもん」


 ルージェとしては揶揄うつもりだったのだろう。ニヤニヤとしながらスティアへと声をかけたのだが、スティアはそんなルージェの意図など気づかず、素直に頷いている。


 そんなスティアの返事を受けて、ルージェは何度か目を瞬かせると、なんだか微妙な味のものを食べたかのように顔を歪めた。


 だが、そうなる気持ちも理解できる。なにせこいつは素直だからな。素直すぎるといってもいいくらいだ。

 俺達のようなスレてしまった者にとっては、スティアの反応はなんとも眩しいものだ。


「……あー、うん。そうだねー。まさかそんなに堂々と返されるとは思ってもなかったけど、なんだかこっちが負けた感がするや。ご馳走様」


 微妙な表情を浮かべたまま呆れたように引き下がったルージェだが、その言い方だと聞いた者が勘違いするのではないだろうか? 不用意にそんなことを言うのはやめて欲しいものなのだがな。もしこいつが変に勘違いして騒げば面倒なことになr……


「んえ? ご馳走様って、何か食べてたの?」


 ……そんなことは気にする必要もなかったみたいだな。いや、それで構わんのだが、なんとも言えんな……


「阿呆ども、そんなやりとりは後にしておけ。こちらにくるぞ」


 まあ、スティアが何も理解していないのはいつものことだ。そんなことよりも、今は目の前に迫っているアレをどうするのか考えるべきだな。


「来るって言っても、私たち関係なくない?」

「あれは力をつけようとも愚か者だ。お前のような阿呆とも比べ物にならないほどのな。であれば、何をしでかすかわかったものではないぞ。俺の関係者というだけで襲いかかってくる可能性もある」


 すでに関係なくなったとはいえ、アレは未だに俺のことを敵視していることだろう。であれば、そんな敵と共に行動している者もまた、奴にとっては敵となりうる。こちらが何も害さずとも、言いがかりをつけてくる可能性は十分に考えられることだ。

 もっとも、もしスティアに何かしようものなら、流石に奴も処分を受けることになるだろう。なにせ、こんな珍奇な奴ではあるが、スティアは一国の姫であり、現在はその護衛騎士達までいるのだから。誤魔化しようもない。


 それに、場所が場所だ。スティアのことを他国の姫だと気づくことができずとも、この場所で戦うことはまずいのだということくらいは理解できるだろう。


 今俺たちがいるのは天武百景の出場登録会場。つまりは国の管轄下にある場所だ。そんな場所で武器を取り出すだけならばまだしも、それを振るうとなれば確実に罪に問われることとなる。こいつが出るのかはわからないが、出場停止ですめば幸運だと言える。最悪の場合は家になんらかの罰則が与えられることになるだろう。

 そのようなことは誰に言われるまでもなく理解していることのはずなので、突然手を出してきたりするほど愚かではないと思う……思いたいところだ。いくら廃嫡されたとはいえ、トライデン家の次期当主がそこまで愚かだと笑えない。


「その時は私が守るから、アルフ君は下がってて」

「いや、守ってもらえるのはありがたいが、奴に対しては俺が出て行かないわけにもいかんだろう。だが、いざという時は頼む」


 できることなら話をしたくない類の相手ではあるが、だからと言って奴の狙いが俺である以上は俺が対応しなければならないだろう。


 そうしていつ何があっても問題なく対処できるように気構えをしつつ待っていると、奴が俺達の目の前までやってきて足を止めた。


「久しぶりだな、アルフレッド」


 この口ぶりからして、やはり偶然ここまできたというわけではないか。偶々俺たちを見つけた、というのであればまだ良かったのだがな。


「よくここが分かったな。この街についてまだ一晩も経っていないのだがな」


 一晩どころか半日すら経っていない。にもかかわらず俺達のことを見つけることができたというのは、運が良かったのか、それとも俺が思っている以上にこいつの手が伸びているのか。できることなら前者であってほしいものだな。


「はっ。ここがどこだと思ってんだよ。ここは王都で、俺はトライデン次期当主だ。そして、お前はもうここには居場所がない敗者なんだよ。俺の部下たちがお前のことを見かけたって教えてくれたぜ」

「部下か……トライデンの兵も使用人も、見ていなかったはずだがな」

「そっちじゃねえよ。学園の奴らだ。お前がいなくなった後はすぐに俺に従順になったもんだ」

「ああ、確かにそれならば全員を把握し切ることはできていないな。なるほど。先ほど見覚えがあると感じた者は学園生であったか」


 先ほど視線を感じた際に見覚えがあるような気がしたが、そうか。あれは学園生か。であれば見覚えがあるのも納得がいく。大方、俺に打ちのめされたうちの一人か、ロイドの周りにいた何某かであろう。

 しかし、こいつの手は学園生だけだというのであれば、さほど力があるというわけでもない。もちろん将来的にはわからないが、少なくとも今の時点ではさしたる脅威とは言えないだろう。

「しかし、まさかお前がここに戻ってくるとは思わなかったぜ」

「別に、誰ぞに禁止されたわけでもないのだ。来ても問題なかろう? それに、天武百景などという大きな行事があるのだ。俺が来るのもおかしなことでもあるまい」


 家から追い出されはしたが、王都に来てはならないと追放されたわけではない。直接公爵本人に見つかってしまえば何か手を打たれる可能性もあるが、来れないというわけではないのだ。


「そうじゃねえよ。お前の魔創具はフォークだろうが。そんなもんでこんな大会に出るとは思わなかったって言ってんだよ!」


 ロイドは話の途中であったにもかかわらず、突然不自然なほどに大きな声で話し始めた。

 このように人が集まっている場所で叫ぶなど、迷惑で……いや、なるほど。周りに聞こえるようにわざと大声で言ったのか。

 魔創具がフォークである、と聞いて周囲にいた者達から困惑と嘲笑の声が聞こえてきた。


「ああ、もう一つテーブルクロスがあったか? だが、どっちにしてもゴミだってことには変わりねえだろ」


 確かに普通の魔創具とは形が違うし、誰もそのようなものを魔創具にするはずがない。しかし、普通とは違っているからといって劣っているというわけではない。


 そもそも、仮に他者より劣っていたとしても、以前一度俺たちは対決したはずだ。そして、こいつは俺に負けた。こいつはそのことを理解しているのだろうか?

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