第29話賊を相手に情報集め

 

「……だめだな。真剣になるとどうしてもトライデンだった時の振る舞いが出てしまう」


 だが、これはもう仕方のないことなのかもしれない。やめようと思ってやめられるものでもないだろう。無理に直そうとして変な癖がついたり実力が出せずに負けた、などということがあってはならないのだから、もうこれはこのままでもいいだろう。

 実害があるわけでもないのだ。精々が少しおかしなやつだと思われる程度だろうから問題ない。


 それはそれとして……


「さて、そこの賊。逃げられると思うな」

「ひいっ!」


 俺とムガルクの戦いの間、生き延びていた賊の一人がコソコソと地を這って逃げ出そうとしていたので、その進路の先にフォークを投げつけて牽制し、動きを止める。


「俺の問いに答えろ」


 動きの止まった賊のことを警戒しながら近づき、五メートル程離れたところで立ち止まった。この程度ならば何かあっても対応できるだろう。


「なん——」

「貴様からの質問は許していない。俺の問いに答えることだけを許可している。理解でき——」

「は、放せ! このっ! このやろう! 俺達を誰だと思ってやがる! 俺達の裏にはてめえじゃどうしようもねえ奴らがいるんだぞ!」

「それを聞くために貴様に問いかけたのだが、どうやら最低限のことは知っているようだな」


 賊の言葉を遮って言葉をかけたのだが、今度は逆にその言葉を遮られてしまった。

 だが、その喚き枯らして何かを知っているようだというのは間違いない。ちょうど知っているものが生き残ったようで何よりだ。


「それで、お前らは何者で、裏には誰がいると? 答え次第では、本当に手を引くことも考えよう」


 よくある言い回しではあるが、考えるだけだ。初めからこの者らを殺すことは決まっている。

 もっとも、本当に生かしておく価値があると判断すれば生かすこともやぶさかではないが、その場合でも兵に突きだすことになる。

 その場合は情報を聞き出すために拷問を受けることになるかもしれないし、用済みとなった後は奴隷として死ぬまで働かされることになるかもしれない。それを考えると、果たしてここで死ぬのとどちらがマシなのだろうな。


「ほ、本当か? 本当に、話せば見逃してくれんのか?」


 だが、そんな俺の考えとは裏腹に、賊の男は俺の言葉を信じたようで、いまだに地面に這いながら笑みを浮かべた。

 いや、気づいてはいるのかもしれない。ただそれに縋る以外に生き残る手段がないだけで。


「私としても、無駄に目をつけられるのは避けたいのでな。相応の者が裏にいるのだろう?」

「あ、ああ! ああそうだ! 俺達は元々そいつらに集められたんだ。仕事を任せたいから賊になって動けって。ああっ、頭は元々そいつらの手先だったみてえだ!」

「そうか。それで、〝そいつら〟とは何者だ?」

「く、詳しくは知らねえ。だが、どっかの貴族だってのは知ってる。今回だって、そいつらと一緒にその獣人の王女達を襲ったんだ」


 そいつらと一緒、という言葉が気になるが、それよりも確認しておかなければ奈良にことがある。


「……獣人の王女? ……聞き間違いではなかったのか。だが、まさかとは思うが……本当にアレが王女だと?」


 先ほどもそのような言葉は聞いたが、まさか本当にそうなのか? ……アレが? 冗談だろう?


「あ、ああ。そうだ。なんでも、国では厄介者扱いされてるんだとかなんかで、いなくなっても困らねえから生贄に出されたとか。ボスがその貴族達の兵達とそんなことを話してた気がする。偶然聞いただけだから詳しくは知らねえけど……」


 どうやら本当に王女のようだ。まだこの者らがそう言っているだけで証拠など何もないが、少なくともこの者らはそうと認識しているという事実だけで今のところは十分だ。


 しかしそれはそれとして、そいつらと一緒に襲った、か。確かに、ここの賊達だけで他国の王族を襲うのは無理がある。人数も実力も足りないものばかりだ。

 だが、他に協力してくれた者達がいるというのであれば話は別だ。どれだけの数を用意したのかはわからないが、他にもこいつらのような賊を用意したり、スラムや傭兵崩れの者を用意したのであれば数百程度ならば用意できることだろう。


 だが、それならば他の者達はどこへ行ったのだ、ということになる。ここにいるのはこの賊達だけのようだし、他に大勢がいた痕跡もない。

 もしかしたら近くに他の根城があるのかもしれないが、さて……。


「貴族達と一緒に襲った、といっていたが、それは本当か? その割にはここにいる人数は少ないようだが」

「途中で別れたんだ。俺達だけじゃ王女の誘拐なんてできるはずがねえから、その補強として戦力を送ってきたんだよ。でも、襲い終わったらすぐにどっかいっちまった。自分達の領に帰ったって聞いたが、詳しくは知らねえ……ああっ、でもなんか、後から回収するってんでそれまで生かしとけって」


 襲うだけ襲って帰って行った、か。それが意味するところは、全ての罪を賊に押し付けるつもりというわけか。


 だが、後で回収に来るというのは何が目的なのだろうな? 今は動けない事情があるのか、あるいは、自分で助けて自作自演をする? それとも協力したやつともまた違う奴がやってくることになっているが、その者らがまだ来ていないとか?

 ……色々と考えられるが、わからんな。


「生贄……そしていなくなっても困らない、か。アレが本当に王女なのだとしたら、その獣人の国には裏切り者がいることになるか」


 それに加え、どこかの貴族がコレらと協力して襲ったとなれば……


「敵対しているのに手を取り合うとは……いや、だからこそか。敵対するために手を取り合った、か。なんとも愚かしい」


 この国の人間が獣人の王族を襲うとなれば、そのものは十中八九反獣人派の人間であろう。にもかかわらず、獣人と手を取り合って一つのことに取り組んでいるのだからおかしなものだ。


「お、おいっ……! も、もう十分だろ! 俺が貴族の遣い……いや、貴族の部下だってのはわかったはずだ! 俺が助けを求めたら大変なことになるぞ!」

「その貴族の名すら知らぬ者が、誰に、どこに助けを求めるというのだ。阿呆が」


 いつまで経っても俺が解放するそぶりを見せないからか、賊の男は焦れたようで貴族に助けを求めるぞ、などと叫んでる。

 だが助ける相手の名を知らず連絡手段も持たぬのにどう助けてもらうというのだ。

 仮に場所を知っていて黙っているのだとしても、このようなことをしでかした輩が、失敗した者を受け入れるはずがない。逃げ込むことができたところで、処理されておしまいだろう。


「そも、仮に名を知っていたとしても、助けを求めることができればの話であろう?」

「ま、まさかっ……てめえ——」

「もう良い。十分に話を聞くことができた。情報に関しては感謝しよう」


 その言葉を最後に、逃げようとする賊の首と胸にフォークを投げつけ、貫く。


 当然ながらその攻撃を避けることなどできず、賊の男はそのまま死んでいった。


 だが、正面から貫かれたことで傷口からは盛大に血が溢れだし、俺の体を汚した。


「む……しまったな。次からは敵をマントで包んでからにするか。それならば血が飛び散ることもあるまい」


 一応マントをつけていたので大半は防ぐことができたが、それでも顔や服の一部が血で染まっている。血を落とすことはできるが、いちいち洗わなくてはいけないのは面倒だ。

 なので、次からは敵の返り血を浴びるような状況になったとしても、あらかじめマントで敵のことを覆っておけば返り血で汚れることもない。魔創具を解除すれば、次に出した時には汚れは消えているものだからな。


 もっとも、今回はすでにボスとの戦いによって汚れていたし、今回のように勝負を申し込まれた末に殺すこととなったら相手をマントで覆って、などという無礼はできない。その場合は汚れることも致し方なしだろう。


 まあ、次からは気をつけよう。


「かぎーーー!」


 と、そう考えたところで後方から少女の声が聞こえてきた。声、というよりも叫びか。


「うん? 鍵? …………ああ、そうか。鍵のありかも聞かねばならなかったか」


 そういえばあの者がいたのだったな。それも、まだ枷をつけたままの状態である。先ほどの賊にはその鍵のありかを聞いておけばよかった。


「もういいわよ! 自分で頑張るから!」

「頑張るといっても、そこから動けないのであればどうしようもあるまいに」

「ふっふーん! いいこと? あなたはそこで見てらっしゃい!」


 獣人の王女らしき少女は、自身ありげに宣言すると、両手を胸の前に持っていき力を込め始めた。


「んむむむ〜……んぎょっ!」


 唸り声をあげたかと思ったらいきなりおかしな掛け声を口にし、それと同時に両手を思い切り左右に開いて枷の鎖を引きちぎった。


 ……正気か、この女。金属の鎖を、魔法も魔創具もなしに引きちぎっただと?


 獣人は人間よりも身体能力に優れているとはいえ、所詮は『人』の範疇でしかない。

 その上、獣人の種によってその身体能力は変わる。鰐やカバや猿といった力の強い種であれば理解もできるが、この少女は見たところ猫科の獣人だ。鎖を引きちぎるほどの力なんてないはずなのだが……


「おほほほっ! どうかしら? これがわたくしの実力ですわよ!」


 鎖を引きちぎった光景に驚いているうちに足についていた鎖も引きちぎったようで、少女は立ち上がって左手を腰に手を当てながら右手を口元に持っていき笑っている。


 確かに、強化せずにすの能力で鎖を引きちぎることができた能力はすごい。いや、凄まじいと言えるだろう。

 だが、その格好と言葉はなんだ? 王女であるということを考えれば全く間違っているというわけでもないのだが、実際にこのような振る舞いをする者はいない。いや、全くいないわけではないのだが、それは相当頭に問題があるか、現実が見えていない愚か者だけだ。

 残念なことに、貴族の中にはこのような振る舞いをする者も少数ではあるがいる。


 しかし、この少女の振る舞いはそんな者達とは違い、どうにも……こう言ってはなんだが、アホな感じがしてならない。

 声の抑揚なのか小さな動作なのか。もしくは纏う雰囲気の問題なのか……。

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