***

 そのことに気づいたのは僕が最初だった。朝一番に彼女の家に向かい、インターホンを1度だけ鳴らし、合鍵を使って家に入る。2階、廊下の左の突き当たりが彼女の部屋だ。前の日のように運悪く彼女の裸を見てしまわぬように、ノックしてから部屋に入ろうとした。


「……入るよ?」


何度ノックしても返事をしないから、まだ寝ているのだと思った。大抵いつも彼女は寝坊する。だから僕が毎日家まで迎えに行っていたんだ。あの日も、どうせ2度寝だろうと思っていた。でも、思い返してみれば、彼女は3年生になってからの1年間、一度も寝坊したことはなかったんだ。

そんな簡単なことにも気づかず、僕はのうのうと扉を開けた。そして目に映ったのは、閉じられたカーテンから漏れる暖かな日差しと、首を吊った彼女の姿だった。


「…………………………え?」


あまりに突然の事で、僕は何もすることができなかった。脳が現実を受け入れず、「そんなことない」「これは夢だ」なんてくだらない妄言を頭の中で何度も繰り返していた。これはあとから聞いた話だけど、どうやら異変に気づいた家族が直ぐに駆けつけて救急に電話をしてくれていたらしい。要請台数は2だったとのことだ。


 その時の記憶はあまり覚えていない。ただ、僕は未だに彼女の部屋の扉を開く夢を見る。夢の中の彼女はいつも通りの笑顔で、「やっと来た」なんて慣れない悪態なんかついて、一緒に朝ごはんを食べて、一緒に卒業式のリハーサルをしている。僕には、どっちが夢なのか分からない。けど、どうやらそこから先の夢は見れないらしく、やっぱり現実では彼女は死んでしまっているのだと思い知らされる。それと、彼女の家の家宅捜索で遺書が見つかったらしい。家族宛と、僕宛の二通だ。


 彼女が自殺してから2年が経った。僕は「あの日」をきっかけに多少自暴自棄になったり、軽度の精神障害になったり、この2年で色々あったけど、なんやかんや立ち直った。彼女に、「情けないぞ」ってバカにされてる気がした。


僕は今日、初めて彼女のお墓参りに行く。

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