***

「ほら、もっとちゃんとくっついて」


 腰を掴んでいた彩は透の腕を取り、その美しい肌に押し当てる。払い除けることなんて簡単なのに、透にはできなかった。頭の中が疑問と逃避でぐちゃぐちゃになって、抵抗することもせず、ただなされるがままだ。


「彩……なんで」


「私は、私を知らない」


「……」


「だから、代わりに透が全部知って? 私の隅から隅まで、全部感じて」


 劣情は透の心の中でひたすら膨らんでいった。誰よりも理解しているはずだった彩の思考が、何より理解しがたかった。どれだけ考えても、理解できるはずがなかった。きっと、光悦な表情を浮かべる彩は、もはや透の知る彩ではない。


「明日、私が今日と同じ私じゃなくてもいいよ。でも、その度に……透が教えて、上書きして」


 あなた色に染め上げて。

それは、今まで透が聞いたどんな願いよりも悲劇的なものだった。

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