***
それから2人はとりあえずの進路希望を書いた。透は病院を継ぐために進学、彩も当面は目標がないためとりあえず進学をするという。
「ねぇ、ちょっと横になりたいんだけれど……」
調子を悪そうに頭を抱える。視力を失った彩は必然的に耳に全神経を集中させなければならない。何年経ってもなれることはなく、音で酔ってしまうのだという。
「うちソファとかないんだよな……。体調は?」
「良くないかも……頭、痛い……」
悩み抜いた末に、結局透は彩を自分のベッドに寝かせた。彩も苦難を抱えているとはいえ年頃の少女だと考え、こういうのは良くないことだと避けてきたのだが、非常時なら仕方ない。段々と息を荒くする彩が心配で、透は思わず手を握ってしまう。汗も酷い。
「透、もうちょっと近づいて」
「え? でも……」
「不安なの。早く……」
「……分かったよ」
透は言われた通りに彩へ近づく。絡ませた指先が冷たかった。まるで人形みたいだ。だんだんと激しくなる呼吸を抑えるように、透は彩の手を握りしめた。透には、ただこうして手を握ることしかできなかった。
「…………もういいよね」
ずっと我慢してたんだから。
うっすらと、そんな言葉が耳をくすぐった。
「っ?!……」
突然、毛布にくるまった彩が両手を広げて透を捉える。思わず体制を崩して、運悪く対面に寝転ぶ形になってしまった。確かに、彩が手を伸ばしたのだ。
「わ、悪い……! 今すぐ出るから……」
「ダメ」
彩はぎゅっ、と俺を抱きしめる。透が逃げ出せないほどの力で抑えられる。そんなはずはないと、透の頭に過ぎる言葉は否定ばかりだった。彩の両腕が、動くはずがないのだ。
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