***

 言われるがまま、そこへ誘われるように透は病院のすぐ近くの家に彩を案内した。心なしか、家へ向かっている時の彩の口角はつり上がっているように見えた。


「結構大きいね、透の家」


「……え? 大きいって、なんでそんなこと分かるんだ?」


「ふふっ、あてずっぽう。でも、きっと大きいでしょう?」


「……無駄に大きいだけだよ。親父と2人だけしか住んでないのに……」


 ふと玄関の靴に目をやると、そこには父の外回り用の革靴、それと、予備の学校指定白靴がある。


(親父の使ってる院内履きの靴がない……)


 ということは、父は今勤務中だろう。日が変わるまで帰っては来ないはずだ。いつ戻るつもりか知らないが、その間ずっと2人きりというのは、どうも心臓に悪い。


「ここがリビング。お茶出すから、ちょっと待ってて」


「え? 透の部屋じゃないの?」


「なんで俺の部屋にまで案内するんだよ」


 コップを洗い流す音がリビングに響く。いつもは常にテレビをつけているから気にならなかったが、案外、沈黙に弱いのかもしれないと思った。


「………………意気地無し」


 激しい水の音で、俺は彩の言葉を聴き逃した。

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