***
休み時間になり、猿以下の脳みそを携えている下衆な野郎どもから守るように彩の元へ向かった。
「ねぇ透、あなたはこれからどうなるの?」
話をかけてもいないのに、何故か彩は透の存在に気づく。否、透だけでは無い。直感……とでも言うのだろうか。足音の癖などの多少の情報はあれど、彩はほとんど感覚で誰が目の前にいるのか感じ取る事ができると言っていた。
「……将来のことなんて考えたことないよ。病院を継ぐしか選択肢ないし」
「あぁ、そうだったわね。また今度お邪魔するわ」
「ただの定期検診だろ」
「……そう、不本意でも、透はちゃんと決まってるのね」
彩は物悲しそうに俯いた。そもそも、彩にそのような感情があるのかすら、透には分からなかった。身振り手振りもなく、表情も変わらない彩の考えていることなんて理解できないのだ。
「私はこれからどうなるのかしらね」
「大抵のヤツらはどうもなってないよ。お前はずっとお前さ」
「本当に?」
「……」
言い返すことはできない。透が口でなんと言おうと、それを確認する術を彩は持っていない。他の生徒のように、毎日当たり前のように鏡で自分を見ることもできない。その透き通るような綺麗な肌も、艶やかな黒髪も、整った顔つきも、彩は自分を知ることなく、常に自分を疑いながら生きているのだ。
「怖いか?」
「そりゃあ、当然。怖いよ。透やみんなは違うかもしれないけど、私には、明日の自分が今日と同じ自分であることを信じる事ができない」
だから、透がちゃんと確かめて。
それだけ言って彩は前を向き直した。気づけばもう次の授業が始まる時間になっていた。それから、彩の辛苦を目の当たりにして、透は無意識に彩を避けてしまった。とにかく、気まずかった。それに、勘違いしていた自分が恥ずかしかった。彩だって自分と同じ人間で、人並みに悩みだって持っていて当たり前なのだ。それを知らず、彩のことを軽んじていた自分を殺してやりたくなった
それでも、登下校だけは、透が車椅子を押していかなければならない。どれだけ逃げても、2人の時間は必ずやってきた。
「……透。今日透の家行ってもいい?」
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