***
透の手のひらを、彩は自ら二の腕に押し当てる。真っ赤になった透の顔が更に彩の欲望を掻き立てた。僅かに込められた抵抗も感じられない。むしろ、透には何もないようで微塵の興味も感じられないと言った風に装っている。
「ちゃんと触らないと分からないでしょ」
腰、くびれ、腹部。欲望は少しずつ膨れ上がっていって、手のひらは頭へと伸びる。くしゃくしゃっと撫でられた感触は、きっと彩に伝わっていることだろう。透の心には疑心しか残らなかった。腕のことも、きっと視力も。果てには事故のことさえ、嘘ではなかったのかと疑った。
彩の体の形を覚えた透の腕は、ゆっくりと伸びる。やがて透の腕は彩の首に届いてしまった。
「いいよ。でも、代わりに約束して。ずっと、これからずーっと私を愛してくれること。嘘だらけの私を、一生愛すること」
「…………る」
「聞こえない」
「……いしてる」
「もう……だめでしょ?」
彩は、決めかねる透の手の上から力を込め、自分の首を絞め上げる。苦しくはない。ちゃんと抵抗してくれてる。でも、透が優しいことを誰よりも知っている彩は自分から首を絞める。
「かはっ……」
「っ!」
「ほら、言ってよ……」
透には、もう何もわからなくなっていた。彩のことも、これからのことも、自分が何をしようとしているのかも。なにもわからなかったけど、嫌な気分はしなかった。
「愛してる」
どんな顔でも、どんな感情でもいい。上辺だけの言葉でも、嘘であっても、その一言が彩は嬉しいんだ。そうやってまた透は決めつけた。
愛してる。愛してる。愛してる。何度も何度も、彩は心の中で復唱する。やっと言ってくれた。初めて出会った日から燻っていた想いが、恋心が、やっと実った。彩の視界が少しだけ明るく、藍色になった気がした。
「私も、愛してる」
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