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 スーツを着た洞たる怪人はを終えたあと、何ヶ月か前にコレクションに加えた巨大な肌色の筒を再び棚におさめた。

 引き攣った顔をした若い男性のかたちをした筒。肌色の皮に邪魔されてはいるものの、血液をはじめとした液体じみたものがたくさんつまっている。怪人のコレクション内ではさほど珍しいものではなかったものの、簡単に調達できるコップに入ったジュースに比べれば入手難易度は段違いに跳ね上がる。

 そういう意味で怪人にとってある種幸運だったのは、この若い男性の形をした筒が怪人自身を認識したうえで、興味を持って追いかけてきたことだろう。そうでなければ、半ば倉庫の役割を果たすマンションの一室に連れ込むのは難しかっただろう。その点、この若い男は自分から乗り込んできてくれたのだから、怪人としても手間が省けたに違いない。

 とはいえ、怪人がどこまで意識して事をなしているのかは、外部からでは判断不能である。

 今この瞬間も、若い男性の中から自らにかかわりの深い情報を中心として(心のようなもの映写する謎技術で)再生していたのはたしかであるのだが、その際に読みとっている側である怪人がなにを考えているのかは謎としか言いようがない。再生された映像からするに、一応、言語(あるいはそれに類するコミュニケーションツール)を持ち合わせているらしくはあるが、それが怪人本人の内から出でる意思であるかははっきりとしない。あるいはそんなものはなく、ただただ今のように動くものとしてあるだけなのかもしれなかった。そんな怪人たる男はどこから生まれでたのか? 上位存在たる神なるものが作り出したのか、もしくは怪人物自身が理由なくある神に等しいものであるのか。わかっているのは怪人の言う(といっていいのかさ疑問符がつくが)ところのを収集しているという一点。コップとその中に入った液体を色ごとに分けるように、マンション内の謎空間に設けられた無限に近い部屋の中には、犬だったり猫だったり鳥だったりといった生き物だったものが種類ごとに保存されている。そして今、人間部屋としてあったここには人間だったものが時間を止められたような状態で長く大きな棚に一人ずつ収められていた。一応、年齢や肌の色、背格好などの細かい分類がなされたうえで、収納されているそれらのうちの一つとして、

 たまたま興味を持ったゆえに迎えた結末は、たった今心の内を曝けだされた若い男と似たところがあったため、怪人の再生した映像を盗み見たことで幾分かの親近感がわいた(もっとも私の場合は、記者をしていた手前、特ダネではないかと飛び込んだせいなので、若い彼の方がより純粋に興味を追求したと言えるだろうが)。

 怪人は時折、この部屋にあらわれては、今のようなを行っているらしい。何の目的かはわからない。ただ単にそういう趣味なのかもしれないし、遠大な目的があるのかもしれない。とはいえ、こうして時を止められように固められてしまった私には未来永劫、怪人物の正体や目的を掴む機会は訪れないだろう。何らかの要因でこの拘束が解けるか、あるいは怪人の気まぐれか何かで目の前で全てが明かされるのを願うしかない。

 とはいえ、どれだけ時が経ったかもわからないままここに収納されて長い年月が経過した今では、なにもないまま意思があることによる発狂も通り越して、全てが面倒くさいという気持ちがなくたあない。いっそ終わってくれないか、という願いは今ところ叶っていないが。

 などとぐたぐたぼんやりしている私の前で、若い男だったもののポケットでスマホが鳴りだす。ゆうに数ヶ月以上は経っているはずなので、電池が切れていないのはまことに不思議である。時間が咼んでいるのか、あるいは謎技術で電力がなくならない仕様になっているのか。

『ねぇ、答えてよ。今、どこにいるの? みんな心配してるんだよ!』

 響き渡るのは若い男性とともにカラオケに行っていた彼女と思しき声。その瞬間、怪人がこちらに洞の顔を向けた。相も変わらず頭の位置にはなんにもないはずなのに、不思議と私には嗤っているように見える。

 つまりはそういうことか。次に起こる展開をなんとはなし予測しつつっ、私の心らしきものにはなんの感慨も起こらない。もはや筒である私には、他の筒が何本増えようと何も感じることはないのだから……


 It is all a pipe ――END

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fantasy ムラサキハルカ @harukamurasaki

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