それから数年間、無事大学生になった僕の毎日はただただ続いた。

 地元に残った僕とは異なり、ドリンクバーに出現する怪人物の相談に乗ってくれていた友人は県外に進学した。そのため、怪人物に対する興味は、他に相談する相手もいなかったのもあり、胸の中にしまわれることとなった。

 当初は、あれはなんだったんだろう、という疑問を延々と引きずっていたが、かの人物に関係する出来事が起きなければ必然的に記憶は風化していく。

 そもそも、あの怪人物は僕の記憶の中にしかいないのではないのか? そう思いはじめると、たしかに起こったはずの出来事への確信が薄れはじめた。

 ファミレスでの理不尽な記憶を思い出しては、絶対にいたはずだ、と自らを奮い立たせようとしたが、僕以外に男が見えていないらしい、という事実が大きな弱点として立ちはだかった。

 加えて、大学に入ってからというもの、忙しくも充実した日常を送っていたのもある。

「そのおっさんがいてもいなくても、いつも通り楽しく暮らせるならいいんじゃないのか?」

 極めつけは大学初の夏季休暇で県外から帰省してきた友人にかけられた言葉だった。たしかに彼の指摘通り、この頃の僕にとっては延々と続く新生活のリアリティが強くて、あの怪人物に対する興味関心は大分薄れはじめていた。

 あのドリンクバー怪人がいないのであれば、もはや無為な時間を過ごす意味などない。それよりも自分の人生を生きるべきだ。自らに言い聞かせて、頭から雑念とも呼べる不確かな存在への興味を振り払う。

 それからは、ただただ大学に上がってあったことの話で雑に盛り上がった。僕が面倒くさくてサークルに入っていないと口にすれば、友人は卓球同好会のゆるゆるさを説き、講義が思ったより歯ごたえがないと愚痴れば、わからないことばかりと両手を挙げる友人、まだ酒を飲めないけど飲み会は楽しいと語れば、もう浴びるように飲んだと危機として法律をブッチする様を話す友人などなど。

 楽しい楽しい時間は、これでいいんだ、と僕に思わせるに足るものだった。そんな楽しさの余波が、嬉しいことも嫌なことも悲しいこともあった目まぐるしい数年間、胸の中にあり、ドリンクバー怪人の件は、時々思い出すくらいで、考えない時間の方が多くなっていた。

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