Ⅶ
とにもかくにもまずは男に会わなければ話にならなかった。かといって、何度も言っているように、この時点の僕には男と会う手段どころか、場所の見当もつかない。それゆえに友人と相談をした結果、準備だけはしておけばいいのではないのか、というところに落ち着いた。
具体的には、ドリンクバーがある場所にいく場合、常に自分が店に払う分の代金を胸に忍ばせ、男が現れた時にすぐさま会計を済ませられるようにしておくこと。また、先払いができる店だったら進んでそちらを利用する。
食い逃げ疑惑をかけられないまま追いかけるという方法を追求すれば、とるべき手段はあっさりと導きだせたし、迷う必要もない。
だから、目下の問題は、ドリンクバーからジュースを店外に持ち出す怪人物と会えるかという一点である。どんなに粘ったところで、現れなければ何にもならない。その間、僕の探究心は宙吊りにされたままになる。もしも、これ以後、一度も会わなければ一生このままかもしれない。
「気楽に考えろって。どうせ、なるようにしかならないんだから、そのおっさんが現れるまではドンとかまえてろよ」
会えればラッキーくらいにさ。相談に乗ってくれた友人はそう言って落ち着かせようとしてくれたが、僕の中にある好奇心はちっともおさまりをみせなかった。一応、できうるかぎり不通に過ごそうとしたが、気が逸れると、ドリンクバーの前に立つスーツを着た男の後ろ姿が浮かんでしまう。
なにがそうさせるのかもわからないまま、僕の頭はあの怪人物に魅入られてしまっていた。友人もわかっていたから、小遣いの許す範囲でドリンクバーのある店に足を運ぶのに付き合ってくれた。
ファミレス、ネカフェ、カラオケ。頻度としては多くはできなかったが、できうるかぎり付き合ってくれた。
その傍ら、足を運びにくくなってしまっているイタリア料理を中心としたファミレスに現れているのではないのか、という不安にかられもした。行ってみなければならないのではないのかと自らの恐怖心に訴えかけたりしてみたものの、前述した通り、克服できなかったため、他のドリンクバーのある店を回ることに終始した。
しかしながら、僕と友人の足を使った捜査も虚しく、一度もドリンクバー怪人を見かけることはなく、高校時代は終わった。
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