Ⅳ
その日の放課後。最寄り駅のトイレで私服に着替えたあと、友人に連れて来られたのはネットカフェだった。
知ってるか。ここには何でもあるんだぜ。清々しい表情でそう告げた友人は、二人で借りた部屋内で漫画の新刊をパラパラさせながら、茶色い液体を口にする。
湯気越しにつたわってくる甘ったるい匂いに気を良くした僕は、少しばかり気が楽になってくるのを感じた。
放課後の寄り道の目的の小腹を満たすという点からすれば、ネットカフェの席料だけではその欲求を満たしにくい。この頃は知らなかったランチやモーニングパックを除けば、辛うじて席の代金だけで口にできる食べ物らしいものといえば、サーバーから出てくるソフトクリームくらいのものだった。
それでも、目的の一つは果たせないことを理解したあとも、初めてやってきた世界は僕をどきどきわくわくさせた。なによりも、ここにはドリンクバーがある。その上、前述したソフトクリームサーバーもこの時、初体験だったから興奮しきりだった。それこそ、一番安い席で漫画や動画を楽しむ友人を尻目に、ドリンクバーに行きまくり、最後の方はトイレとお友だちになっていたので、ほんの少しぐったりとしてはいたものの、なかなか楽しい二時間だった。
僕の知らないドリンクバーがまだまだ色々なところにあるんだ。その気付きは、ほんの少しだけ世界を明るくさせた。
こうして、僕と友人は時たま、ネットカフェに行くようになった。気の置けない相手とたいした会話もせずにだらだらと過ごすのは、高校で集団で話すのとはまた違う心地良さに満ちていた。友人が連れて来てくれたこの新たな世界のおかげで、ファミレスでついた僕の傷は徐々に徐々に癒えつつあった。
だが、平穏とはなかなか長く続かないものでもある。ここまでの流れから、次の展開はもうお分かりだろう。そう。また、ドリンクバー怪人の出現である。
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