第117話 エピローグ(13)
「あ、ああ。たぶん白野が好きなところ」
「えっ? 私の好きなところ? どこだろ?」
「行けばわかるよ」
青島くんはそう言うと悪戯っぽく笑った。
「何それ~」
「着いてからのお楽しみってことで」
他愛のない会話をしていると、校門を潜りやってきた女子生徒に声をかけられた。
「あら、二人とも。仲が良さそうで、妬けちゃうわ」
私たちを見る緑の顔は何処となく嬉しそうだ。青島くんは、そんな緑の視線を嫌そうに避ける。
「別に、そんなんじゃない」
ボソリと言葉を発した青島くんの背中を、緑は笑いながらバシっと叩く。
「もう! 照れちゃって!」
「痛いな……」
彼は困り果てたような声を上げた。そんな彼のことなどお構いなしに、彼女はコロコロと笑い声を上げる。
「今、帰り?」
「そう。緑ちゃんは?」
「私は、これから図書館でお手伝い」
「そっかぁ……。大変そうだね。頑張って!」
「うん、ありがとう。つばさちゃん。ヒロくんにしっかり送ってもらうんだよ〜」
ニッコリと笑ってそう言うと、彼女はヒラヒラと手を振り校舎の方へと歩いていった。その後姿が見えなくなるまで見送っていると、不意に青島くんの手が伸びてきて私の頭をクシャリと撫でた。
「な、何……」
なんだか嬉しいような恥ずかしいような気持ちになり、私は俯く。
「俺たちも行くぞ」
「あ、うん」
彼に促され、歩き出す。その途中、青島くんがポツリと言った。
「葉山には、全部お見通しだったみたいだな」
「え? どういうこと?」
「俺たちのこと」
彼が何を言っているのか分からず首を傾げる。
「さっき、俺が白野を送っていくこと、分かっていたみたいな言い方してただろ?」
「ああ。確かに。言われてみればそうだよね。どうして分かったんだろう……?」
「葉山は周りをよく見てるからな」
「なるほど〜。さすが、緑ちゃんだねぇ」
感心していると、彼は少しだけ呆れ顔になる。
「お前なぁ……。まあ、いいや」
彼はそう呟き、何かを言おうとして口を閉じた。そして、また口を開く。
「あのさ、白野」
彼は真剣な眼差しで私を見た。その目を見つめ返しながら、「ん?」と返事をする。
「今度、映画観にいかないか?」
彼の口から出てきたのは意外な提案で、私は目をパチクリさせた。
「別に無理強いするつもりはないけど……。どうかな?」
「うん。もちろん良いよ」
間髪入れずに答えると、彼はホッとした様子を見せた。
「良かった。じゃあ、約束な」
「うん。絶対だよ」
私は青島くんに小指を差し出す。
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